第64話 新しいお嫁さんは、ギャルで忍者でファッションリーダー?

「さて……これで良いかな?」

 ガーベラ(ノートパソコン)を取り出し、何時もの手順で召喚の準備を整える。

 :年齢――若い、但し成人に限る

 :職業――罠の発見や解除を生業としている

 :容姿――端麗

 :スタイル――抜群

 :その他、備考――戦闘技能、戦闘経験有り

 今回召喚する『嫁』に期待するのは、所謂「シーフ」と言われる技能だ。罠を発見・解除すると言えば真っ先にイメージするだろう。

「いや……もう少し欲張るか?」

 この条件で召喚しようとしたが、先の事を考え条件を付け加える。

 :その他、備考――戦闘技能、戦闘経験有り。尚且なおかつ、諜報能力に秀でた者

 少し先の事だが、我々は帝国に赴く事になる、それも「冒険者」としてな。当然だが王国の支援を期待する事は出来ない。そうなれば自分達で情報収集をしなければならない。俺の好きなRPGゲームの様に、出会った帝国の人々に片っ端から話を聞いて回るなんて事をすれば最悪、不審者として通報されてしまうだろう。つまり出来るだけ目立たずに情報を集めなければならん。そういう事に長けた者がいれば心強い。それに諜報活動もシーフの役割と言えなくもない、上手くいけば正に一石二鳥だ。試す価値はあるさ。

「これで良し、では……始めるかな。ガーベラ、『神域』に転送を頼む」

『了解しました。神域への転送を開始します。』

 毎度お馴染みの眩しいエフェクトと共に神域へと転送される。さて、事前に準備は完了している、もったいぶる必要はなかろう。直ちに召喚をしようか。

 俺はノートパソコンの画面上にある「召喚する」のボタンをクリックする。さあ、どうなる?

『検索中……検索中……ヒットしました。召喚を開始します。』

 ガーベラの声と共に眩しい光が周囲を覆い尽くす。ここにいる全員(俺も含む)慣れたものだ。こうなる事を事前に予測して目を瞑って目が眩むのを回避した。そして光が止むと、そこには……。

「ほえ? な~に、ここ? あーしはシブヤに行く途中だったんだけど? ていうか何? アンタ達の格好、コスプレ? 撮影会でも始まるん?」

 現れたのは、背丈は少々低めで、輝く金色の髪をツーサイドアップにし、ブラウスにスカート腰にセーターを巻き付けている。そして大きな鞄……その鞄には見た事の無いがアニメのキャラだろうか? そのピンバッチの様な物が無数に付いている。そしてこのふざけた様な口調、当初俺が思い描いていた『シーフ』ではなく、所謂『ギャル』を召喚したようだな。果たしてどうなる事やら……。

 それと、毎度の事だが一応言及しておくとだ、彼女のスタイルに関しては申し分なし。ブラウスがはち切れんばかりの爆乳を確認済みだ。俺好みの完璧なスタイルだとだけ言っておく。

 予定と違うとはいえ、それは見た目だけだろう。ガーベラの能力に関しては疑う余地は微塵も無い。それはこれまでの結果で証明している。ならば目の前の彼女は俺の要求したスペックを持っている実力者に違いない。うむ、人を見た目で判断したらダメだな。俺もまだまだだな。

「突然の事に驚いていると思いますが、先ずは私の話を聞いて欲しいと思います。貴女を此処にお呼びした事情を説明致します。申し遅れました、私はレオンと申します、以後お見知り置きを」

 取り敢えずはいつも通りに丁寧な挨拶で様子を見る。

「ふ~ん……レオンねぇ……まあいいか。あーしは時岡 桔梗、よろ~」

 見た目に反して随分と古風な名前だ。まあ俺は好きだがね。それと名前から察するに同じ国の生まれか? 気になるな。

 それにしても、軽薄な態度とは裏腹に彼女には一切の隙が無い。今ここで俺が槍を取り出し襲い掛かっても難無く対処するだろう。相当な実力者だ。その証拠に戦闘大好きセフィラさんが彼女をみて眩しい程の笑顔を浮かべている。

「それで? じじょーとやらを聞かせてくれるんでしょう?」

「ええ、それでは一から説明させて頂きます。少々長くなりますが最後までお聞きください。その後に質問をお受けします」

 そうして俺は事の発端から現在に至るまでの説明を行った。その間、彼女は余計な茶々を入れる事無く真面目に話を聞いていた。

「……以上で説明は終わりです。何か質問はありますか?」

「……」

 彼女は俺の問いには答えず、無言を貫く。しかしその表情は真剣そのもの、恐らく俺の話を頭の中で反芻しているのだろう。

「……おっけー、大体理解した。じゃ、質問いい?」

「どうぞ」

「これから行く世界のファッションレベルは?」

「……何ですと?」

 ファッションだと? 一体どういう事だ?

「だ~か~ら~ファッションだって、オシャレはあーしにとって何よりも重要なんよ。それで、どんな感じなの?」

「いや、他に大事な事はあると思いますが? 例えば……町の治安とか、文明レベルとか、本当に拒否が出来るのかとか……」

「拒否? アハッ、ココに連れてこられた時点で「拒否なんかしない」ってわかってるのに? そんな質問意味ないっしょ? それにやってることは人攫いと変わんないし? 意外と悪人だったり~?」

 痛い所を突いてくる……。確かに、俺のやっている事は「人攫い」と言われても否定する事が出来ん。同意も無くこの場に召喚し『はい』と言うように言葉巧みに誘導する……字面だけ見ると人間のクズだな。まあ、今更か。簡単に割り切れるものでもないか。

 そうして俺が沈黙していると、

「あ~、ゴメンね? ちょっち言い方がイジワルだったね。そんな顔しないの、あーしは嬉しいよ? ここに召喚してもらってさ。周りにいるカノジョさん達? もそう思ってるっしょ? だから笑って、ね?」

 そう言って彼女は両手を合わせ片目を瞑り、茶目っ気溢れる謝罪をした。やはり彼女も例に漏れず心優しい女性の様だな。

 それにしても……彼女を召喚してから今に至るまでポーカーフェイスを徹底していたはずだが、どうやって俺の心境を察した? もしかしてポーカーフェイスを徹底出来て無かったか? そう俺が思案していると、

「あ~……なんてゆーかね「そういうの」得意なんだよね、あーし。キミはしっかりと表情は隠せてたと思うよ?」

 成程ね。ほんの僅かな表情の変化を読み取ったのか。図らずとも彼女が優秀な能力を持っている事が証明されたか。良い流れだ、このまま交渉を優位に進めようか。

「うむ。ところで「ファッション」だったか。マリー、君の私服を見せても良いかい?」

「はい、構いませんよ」

 俺は一瞬悩んだが、マリーの私服を見せる事にした。マリーの私服のセンスは、嫁達の中では一番まともだ。と言うより他の嫁達が少々ズレていると言うか……。機会があれば他の嫁の服も紹介しよう。

 そうして取り出したのは、簡素な布の服と布のズボンだ。

「……これが一般的な服?」

「ええ。世間一般で多くの人が着用しています。因みに、これでも「そこそこ」の値段がしますよ? 一着一着手縫いで製作されているので」

「そっかぁ……そういうレベルの話か~」

「この世界では、衣服とは体を守る為の物で、着飾って楽しむ物では無いという事ですね」

 俺がそう言うと、彼女は眉をしかめてしまった。

「う~ん……そんな世界じゃオシャレを楽しめそうにないし~……ど~しよ~かな~……」

 まあ、そういう反応は予測済みだ。では、本格的な交渉を始めようか。

「確かに貴女の好きなオシャレ等の文化は楽しめないでしょう……」

「ふ~ん……その口振りだと、あーしが興味を惹く「何か」があるのかな?」

「勿論ですよ。結論から申し上げると「無ければ作ればいい」それだけの話です」

「……ほえ?」

 答えは実にシンプル。そして俺にはその方法と手段を用意する事が可能だ。

「先程の話はあくまでも「世間一般」の話です。上流階級――つまり「貴族」の方々は日常的にオシャレを楽しむ文化を持っています。それを一般の人々にも広げれば良いだけですよ。コストを下げる方法は単純で「大量生産」すればいいのです。勿論その為の手段も考えてあります。服飾の仕事をしている知人もいます、その方にお願いしてオーダーメイドの服も作ってもらった事もありましてね、腕前は保証しますよ。お金の心配もありません。冒険者はとても稼げる仕事ですからね……但し命の危険はありますが」

「準備は万端って事?」

「その服飾関係の人と出会ったのは、本当に偶然でしたけれどもね」

 今にして思えば、これも例の「神」の所為だろうな。まあ、一応は感謝してやってもいいか……。

(一応ってなにさっ! それに「感謝してやってもいい」だって? キミはボクに対して厳しくない? もっともっと感謝するべきだと思うよ?)

 何やら戯言が聞こえた気もするが……気のせいだろう。

「桔梗さん、貴女がどんなデザインの服を着て町中を歩いていても誰も文句は言いません。まあ、多少は不思議がられるかもしれませんがね……場合によってはその恰好が標準になる可能性もありそうですが。それで、どうですか? デメリットも勿論ありますがそれ以上のメリットを提供出来ますよ」

「う~ん、至れり尽くせりで逆に怖いんだけど……」 

「今までの生活を捨てる事になるのですから、これ位の事はさせて貰いますよ。それに、今よりも不便な生活になってしまうので、その不便さを少しでも緩和出来るよう、努力位はさせて貰います」

 それでも少な過ぎると俺は思うがね。継続的に支援することで許して欲しいな。

「それと、もう一つの条件『嫁』になって頂くというのは?」

 俺にとっては大事な事なので念の為確認しておく。

「それも問題ナッシングだよ。どうせこのままだと親の決めた相手と結婚させられるだろうし。顔も名前も知らない相手とね。それに比べれば何倍もマシでしょ」

 こんな所かな? では、最終確認だ。

「では、全ての覚悟が決まったのなら、この手をお取りください。それを契約締結の合図とします」

 そう言って俺は彼女に向かって手を差し出した。さあ、どうする?

「……えっとさ……これってさ、いわゆる『プロポーズ』ってやつだよね?」

「ええ、そうですよ」

 少々、事務的だがね。

「そっかー……あーしには縁が無いと思ってたから、少し驚いちゃったよ……うん、いいもんだね。嬉しくなるよ」

 そう言って彼女は何の躊躇いも無く俺の手を握って来た。想像していたよりも力強い握手だ。

「それでは今日この時より我々は家族となる。改めて宜しく頼むよ、桔梗」

「うん! ヨロシクね、『だーりん』!」

 握手した勢いそのままに抱き着いて来た桔梗。随分と情熱的なスキンシップだな……うむ、何がとは言わんが、素晴らしい感触だ。

「それじゃあこれから生活を共にする「家族」を紹介しておこう」

 そう言って俺は成り行きを見守っていた嫁達を紹介した。それぞれ笑顔で挨拶していく。うむ、特に相性が悪いという事もなさそうで安心した。

「ヨロシクね、マリーっち、プリムラっち、リラっち、ソニアっち、アリスっち、ローリエっち、セフィラっち」

 呼び方が少し変わっているが……まあ、問題無いか。それよりも問題なのが、

「よし! それじゃあこれから親睦を深める為に『歓迎会』を開こうかね」

 満面の笑みを浮かべ、声高々に言い放ったのは勿論セフィラだ。やはりそうなるか……。

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