第63話 上級ダンジョン攻略・その参

 事前の打ち合わせ通りに各員戦闘を開始する。ボススコーピオンと相対するのはプリムラ、リラ、ローリエ、ソニアの四名。俺、マリー、アリス、セフィラは周りの手下連中を掃討する役目だ。

 先ずは露払いだな。俺は素早く動き回り、ソードスコーピオンを蹴散らして行く!

「やっ! はっ! せいっ!」マリーは手数の多さを活かし、次々と敵を切り刻んでいく。

「そ~ら! 潰れちまいなっ!」セフィラは正面から力任せに戦追で叩き潰す。

「これで……やられて下さい!」アリスは魔法で大きな氷塊を作り出し、それをぶつける事で複数を纏めて吹き飛ばす。

 各々、自分の持ち味を活かしソードスコーピオンの数を急速に減らしていく。こちらは問題無いな、ではあちらはどうだ?

「……凍れ……」

 リラが持つ魔剣で斬り付けると、ボススコーピオンの体が徐々に凍り付いていく。

「どんどん凍らせるわよぉ」

 ソニアが強烈な冷気をボススコーピオンに吹き付けて更に体表を凍らせていく。

「手厚い援護、助かりますわ!」

 プリムラが凍った部分を全力で叩き壊す。

 三人の攻撃による痛みで暴れ出すボススコーピオン。剣になっている手や尻尾を出鱈目でたらめに振り回す!

「無駄ですっ!」

 当然そんな攻撃はローリエの盾によって完全に防がれる。そしてソニアの魔法で凍り付いていた右のハサミと、ローリエの盾が衝突したことにより、ボススコーピオンの右ハサミが粉砕された! これで奴の攻撃力は大幅にダウンしたな。

 氷の魔法を使おうと考えたのは俺だが、想像以上の効果だなこれは。

 道中の魔物を相手している時にふと思ったんだよ「砂漠に居るこいつ等に氷って良く効くんじゃね?」と。

 結果は「こうかはばつぐんだ!」というやつだ。その結果、これならボスにも有効なのでは? と思って氷で攻める様に進言したのは正解だったな。伊達に数多くのゲームをプレイしてきた訳ではない。この世に無駄な物は何一つとして無い事を証明して見せたな。

 リラの斬撃とソニアの魔法により、凍結している面積が増え続けていく。それに伴い徐々に動きも鈍くなってきているな。倒すのは時間の問題か。こちらも残りは僅かだ、負けてはいられんな。




「さて、こちらは片付いたな」

「はい。それに丁度あちらも片が付くようですね」

 そうマリーに言われてあちらを見ると、全身が凍結し完全に動きを止めたボススコーピオンがそこに居た。

「どっ……せぇぇぇぇぇぇいっ‼」

 どうやらトドメはプリムラの様だ。氷像と化したボススコーピオンの頭上高く飛び上がり、落下の勢いそのままに大剣を振り下ろす!

 ズザァン‼

 その一撃は見事ボススコーピオンを両断した。そして大きな魔石を残し、跡形も無く消え去った。

「終わったか……怪我をしている者はいるか?」

 各々確認するが、前衛組が軽い切り傷を負っただけだった。その傷もアリスの魔法ですぐさま完治する。被害ゼロと言って問題無い程の快勝だな。魔石の回収を終わると、台座付きの転移魔法陣と見た目が少し豪奢ごうしゃな宝箱が出現した。

「一応、罠が無いか調べますね」

 俺が言うより早くアリスが宝箱を調べ始めた。うむ、ボスからドロップしたからといって決して油断しないその姿勢、大変宜しい。

「……罠の類は無いようですね」

「ならばそのままアリスが開けてくれ」

「宜しいのですか? では、開けますね♪」

 ウキウキの様子で宝箱を開けるアリス。まあ、普通に考えれば、お姫様がダンジョンで宝箱を開けるなんてシチュエーションはあり得ない訳だしな。こういう小さな事でも楽しんで貰いたいよ。

 宝箱の中身はというと、数字の「ゼロ」と「11」が刻印された石片が一つずつ入っていた。

「これが「転移石」ですか。何と言いますか……もっと派手な物を想像していたのですが……」

 近くに居たローリエがそんな事を呟いた。気持ちは分かるよ。

「まあ、数字が書いてある以外はそこらに落ちている石ころとそう変わらんからな。それはそうと、これでようやくチュートリアル終了だな」

 そう、つまり『このアイテムを手に入れられない奴に、ダンジョンを探索する資格は無い』と言うダンジョンからのメッセージという事だ。

「では、予定通りに帰還しますか? 旦那様」

「そうだな。予定通り、ここで切り上げようか」

 魔法陣と共に出現した台座に「ゼロ」の数字が刻まれた石を置く。すると魔法陣が光輝き俺達を包み込んだ。




 転移した先は入り口と同じ造りの部屋だった。明確な違いは足元の魔法陣の有無だろう。全員がしっかり転送されたのを確認し、部屋の外へと歩き出した。

 外に出るとそこは丁度入り口の反対側に位置する場所だ。天を仰ぐと日が傾き出していていた。そろそろ夕方になる時間かな。魔石の換金と宝箱から入手した品の鑑定の為、ギルドへと足を運んだ。

 朝に来た時に比べると、ギルド内の冒険者の数は明らかに少ないな。未だに多くの冒険者はダンジョンにいるのだろう。

「すみません、魔石の換金をお願いします」

「は、はい。では、ここに魔石を提出してください」

 何の因果か、今回も朝と同じ男性職員が対応する。俺が声を掛けると若干緊張した様子だったが、換金の話だと分かると落ち着きを取り戻した。いや……何の意味も無く暴れたり騒いだりはしないぞ?

 何時もの様にトレーの上に魔石を出していく。ジャラジャラと音を立てて魔石の山が完成した。

「えっ? は、半日でこれ程の数を?……し、失礼しました! 直ぐに査定を始めます!」

 この反応にもいい加減慣れてきたな。慌てて周りの職員を集め魔石の査定を始めた。

「こ、こちらが魔石売却の代金125万Gになります」

 そう言って「ドカッ!」という音と共に、金が入った大きな袋が机に置かれた。うむ、今日もしっかり稼げたな。

「ありがとうございました。では、失礼します」

 金を受け取り、次の目的地の「鑑定屋」に向かう。やはりここも併設されていたな。

「ひっひっひ、あんた等、初めて見る顔だねぇ。随分と生きの良さそうな連中だね」

「なっ⁉ 貴女は中級ダンジョンの鑑定屋の主人ではありませんか。何故、此処にいるのですか?」

 何とそこに居たのは中級ダンジョンの鑑定屋の老婆だった。まさかこの場所と兼任しているなどとは言うまいな?

「ひっひっひ、そいつぁアタシの妹だねぇ。昔っから良く似ていると言われとるよ」

「姉妹……ですか」

 双子か? と言うくらい似ているが……ま、まあ深くは考えるまい。それと何故だか分からんが、この先でもこの老婆似の人物に会うような気がする……。

「で、では、鑑定をお願いします」

 と言っても今回は運が悪かったのか、手に入れたのはブーツ一つだけだがな。

「ぬぅ~ん……むむむ、こいつは「飛翔のブーツ」と言う物だねぇ。魔力を込めると短時間だが空を駆ける事が出来るそうじゃ。中々に珍しい一品じゃ」

「ほう! 空を駆ける、ですか。面白そうなブーツですね」

 これは「当たり」なんじゃないか? 有益な装備が手に入ったぞ。誰が装備するか、じっくりと検討するとしよう。

「有難う御座いました。お代はここに置いておきます」

「ひっひっひ、頑張って稼ぐんだよ」 




「ここでの用事は全部終わったな。では愛しの我が家に帰ろうか」

 何時も通りに、人気のない場所に移動してから転移魔法を使って家の中庭に転移した。

「皆様、しばしこの場所で待機をお願いします」

 家の中に入ろうとしたその時、マリーが神妙な顔でそう宣言した。一体何事だ?

「全員、体中が砂だらけです。その様な状態で家の中に入られては困ります。ここで綺麗に払い落としてからにして下さいませ」

「言われてみれば、確かに砂だらけですわね」

 そう言われ、プリムラが自分の体を見回す。確かにあれだけ長い時間砂漠地帯を探索していたのだ、砂まみれにもなるか。試しにと洗浄魔法を使ったら、砂は綺麗さっぱりと無くなった。便利すぎるな、これは。

 全員に洗浄魔法を使った後、リビングにて先程までの探索について議論を始める。

「戦闘に関しては特に問題は無かったと思いますね」とマリー。

「マリー殿の言う通りですね。今の私達でも十分に対応可能です」とローリエ。

「ですが、慣れない場所での戦闘は少々戸惑いましたわね」とプリムラ。

「うん……動きにく……かった……」とリラ。

「まあ、浅い階層だからねぇ……厳しくなるのはこれからだろうさね」とセフィラ。

 以上が前衛組の意見だ。概ね俺と同じ考えだな。魔物との戦闘に、今の所は不安が無い。

「けれどぉ、トラップはかなり厄介だったわよねぇ?」とソニア。

「ですね。深い階層に行けば更に厳しいトラップが出て来るでしょう。魔法ではどうにもならない事態もあるかと」とアリス。

 後衛組の意見も、ごもっともだ。

「つまり、戦闘に関しては特に問題無し。トラップへの対策が急務、という事だな?」

 俺がそう結論付けると、嫁達は大きく頷いた。ならば早急に解決しようではないか。勿論、『俺達』のやり方でな。

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