第36話 情報収集は大事だよ。というお話

 謁見の間を退出し、賢者殿の先導で更に城の奥へと進んで行く。メンバーは俺と嫁達に賢者殿だ。王女殿下とローリエは別行動だな。やがて一つの部屋の前にたどり着いた。

「ここじゃ、さあ入るぞ」

 賢者殿がそう言って部屋の中に入っていく。俺達もその後に続く。部屋の中には大きな円卓があり、幾つもの椅子が備え付けられていた。ふむ、ここはさしずめ『会議室』といった所かな?

「直ぐにガルドも来るであろう、それまでゆっくり寛いでおれ」

「いや、この状況で寛ぐも何もないと思いますが……なら遠慮なく」

 そう言って俺は紙とペンを取り出す。

「家の間取り等を書き、要望として提出しようと思っている。皆の意見も聞かせてくれないか?」

 空いた時間を有効活用しようというわけだ。それに折角国が家を建ててくれると言うのだ、無茶な要求をしてみるのも面白いだろうな。

「私は、広い台所が欲しいですね」

「ワタクシは、体を動かせる場所が欲しいですわね」

「私も……プリムラと同じ……鍛錬する場所が……欲しい……」

「おねぇさんは、書斎があると嬉しいわねぇ。色々な本を集めたいわぁ」

 ふむ、マリーは広い台所。プリムラとリラはトレーニングルーム。ソニアは書斎と……俺か? 俺の要望は『広い寝室』と『大浴場』だ。これには嫁達も絶賛してくれたので、これは確定で造ってもらおう。

 皆の要望と軽くだが間取りを書いた資料を完成させると同時に入り口の扉が開く音がした。どうやら俺達を呼び出した張本人がやって来たようだな。

 部屋に入って来たのはガルド王、アリス姫、ローリエそれに謁見の間にいた狼の獣人の男、合計四人だ。

「よし、全員揃ってるな。じゃあ『本命』の話し合いを始めるかな、お前らも遠慮せず座れ」

 ガルド王が座ると、皆それぞれ順次に着席した。

「そうだ、先にこいつを紹介しておこう。名前はアルバート・ノーバス、この国の伯爵で俺のダチだ」

 ノーバス……ね、つまり俺の予想通りか?

「ノーバスという事は、ローリエ殿の?」

「ああ、父親だ……ほれ、アルバート。お前も挨拶しておけ」

 そう促され、伯爵が立ち上がった。

「自分は国王陛下より伯爵位を賜っておるアルバート・ノーバスと申す。此度こたびの貴殿の働き、誠に見事であった。それに娘も世話になったようで感謝申し上げる」

 いかにも「武人」といった口調でそう挨拶する伯爵。礼服の上からでもわかる程の筋肉に覆われた身体つき。だが杖を突いて立ち上がる姿、それに部屋に入る時に足を引きずる様に歩いていたので、足が悪いのは容易に予想できる。

「いえ、ローリエ殿に関しては特に何もしていませんよ、それに『大氾濫』についても私一人の力ではありません。数多くの助力あってこそでした」

「ふむ、実に謙虚であるな。自分の知っている冒険者と言うのは、もっと実力を誇示したがる者達と記憶していたのだが……」

 普通の冒険者はそうだな。報酬を得る為にありとあらゆる方法を使うのは当然だからな。その点、俺達は違うからな。冒険者の中では異端の存在だろうな。そこについてはあまり触れて欲しくないな。説明が面倒だ。

「自己紹介はそれ位でよかろう、そろそろ本題に入るぞ」

 そう言って会話に入って来たのは賢者殿だった。フォローのつもりか? まあ助かるのは事実だが。

「ああ、話の内容は『過去』と『未来』についてだ」

 成程、それはこちらとしても有難い話題だ。

「今回の『大氾濫』の後に、学者連中に十年前の事を改めて調べさせみたのじゃ。遠く離れた国の事は分からんかったが、隣国であるハイデス帝国の皇帝が病に臥せり、皇太子こうたいしが実質的に政治を担ったのが丁度十年前じゃった。その半年後に『大氾濫』が発生しておる」

 あからさま過ぎる気もするが、妖しさ満点だな。

「その皇帝は未だ御存命なのですか?」

「ああ、まだくたばってはいねぇはずだ。だが見舞いの使者を送っても「陛下は体調が優れませんので面会できません、お引き取りを」つって一度も面会出来やしねぇ。十年間、一度もだぞ?」

「普通に考えれば、その皇太子が父親である皇帝を監禁・幽閉してその間に国を牛耳ろうとしている……といった所ですかね」

「だろうな。だがそれだけなら「隣国の政変」の一言で片付けられる。言い方は悪いが、そんなのは何処の国でもあることだ。それと『大氾濫』を結びつける事はいくら何でも無茶が過ぎるぜ」

「そうですね。ですが怪しいのもまた事実、何か隣国と『大氾濫』が繋がっている証拠があれば……他に誰かいないのですか? 帝国の内部に詳しい人物は」

「いるにはいるが……そいつは皇帝の娘、くだんの皇太子の妹なんだがよ、皇帝同様に連絡が取れなくなっちまった」

 そう言ってガルド王は、アリス王女殿下の方を向いた。それを受け王女殿下は頷き口を開いた。

「帝国の皇女……エリカ皇女は聡明で武勇に優れ、民をいつくしむ素晴らしい方です……私の目標でもあり姉の様にしたっています……」

 そう言うと王女殿下は表情を曇らせ、口を噤む。親しい間柄だったのだろう、そのような人が音信不通になれば心を痛めるのもわかる。

「その皇女殿下も監視や行動が制限されている可能性がありますね」

「だろうな。見舞いの使者にもそれとなく皇女の様子を探らせたが、一言二言会話するのが精いっぱいだったそうだ。間違いなく監視はされてるだろうな」

 ふむ、となると件の皇太子の人となりが知りたいな。

「その皇太子はどの様な人物ですか?」

「ああ、典型的な我儘わがまま皇子だよ。何事も自分の思い通りにならないと気が済まない、その為に権力を使いやりたい放題するクソ野郎だ」

 皇太子の事を話していると、ガルド王の顔がどんどん険しくなり、

「あのクソ野郎! 俺の可愛いアリスを妻に寄越せとかぬかしやがったんだぞっ‼ 「お前の娘にしては出来の良い女だな。貰ってやるから早く送ってこい」とか言う使者を寄越しやがったっ‼ ふざけんじゃねぇ! てめえ如きに俺の可愛いアリスは渡せるかってんだっ‼」

 段々とヒートアップしてきたな。もう顔は真っ赤だぞ。

「あの時は大変でしたな……家臣一同で止めていなければ、陛下が使者をたたっ斬る所でありましたな」

 苦笑しながらそう言ったのはノーバス伯爵だ。まあ、そんな事言われたら俺でもブチ切れるな、間違いなく。

「何とかその皇女殿下と連絡を取る方法はないのですか?」

「……さっきの件で帝国とは喧嘩別れになっちまったからな。国交断絶とまではいかないが疎遠になっちまった今、難しいと言わざるを得ん」

 現状ではあまりにも情報が少ない、決定的な証拠でもなければ迂闊に動けないか……それに。

「出来るだけ早く帝国の情報を知るのが重要ですね。出なければ『次』の動きに対応出来ませんからね」

 俺がそう言うと、部屋の空気が凍り付いた。なんだ? これで終わりとでも思ったのか?

「貴殿は……まだ次があると?」

「当然です。これで終わりと考えるのが不自然でしょう? むしろ今迄の事は小手調べだと思いますよ。俺の考えではこれからが本番だと思っています」

 仮に件の愚物皇子が犯人だとしたら、色々とちょっかいをかけてくるのはこれからだろう。

 と言っても、黒幕は別にいると俺は考えている。愚物ぐぶつ皇子が本当に黒幕ならこんな回りくどい方法を取らず、もっと短絡的な行動をするはずだしな。それこそ堂々と宣戦布告程度の事はしてきそうだ。

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