第35話 王様襲来! こんな王様で、この国は大丈夫なのか?

 ゆっくりと行進する俺達の目に、王都の城壁が見えてきた。道中何事も無かった為、予定よりも早く到着したな。

 相変わらず城門には中に入る為に待つ人による長蛇の列が出来ていた。

 しかし俺達は列を作っている正面の入り口ではなく、その隣にある別の入口へと向かった。これは所謂『貴族専用』の入り口で、王女殿下御一行はここから中に入る訳だ。当たり前だが、王族貴族をこの列に並ばせるなど、色んな意味であり得んだろう。

 あっという間に王都へ入る事を許可された。そのまま王都内へ進むが、王都の人々が集まり王女殿下へ手を振り、歓声を上げた。

 王女殿下も馬車の窓から顔を出し、手を振り返してしる。ふむ、民からの評判は上々のようだな。

 その様な事がありつつ、俺達は王城へとたどり着いた。

「近くで見ると圧倒されるな」

「本当に大きいですね。私はお城を初めて見ましたから、この様な大きな建物があるなんて驚きです」

「……私も……近くで見るのは……初めて」

 そう語るのはマリーとリラだ。おのぼりさんの様にはしゃいでいる二人。そんな二人を優しい瞳で見つめるプリムラとソニア。初めての体験にはしゃぐ妹を優しく見守る姉。そんな感じに見えて微笑ましいな。

「『英雄』レオン様御一行到着! ようこそ、シャムフォリア城へ。既に式典の準備は整っております。これより謁見の間へと御案内させて頂きます!」

 覇気のある声で門番に出迎えられると、城の中から兵士が数名駆けつけて来た。さて、いよいよか……。

「私とローリエも御一緒しますね。先生はどうなされますか?」

「無論、ワシも一緒に行くぞ」

「では御案内します。自分の後に御続き下さい」

 城の兵士に案内されて場内を歩いて行く。少し歩いたその先に豪奢な装飾の施された扉が姿を現した。この先が謁見の間だろう。

「既に国王陛下と王妃が中でお待ちです。お二人共、とても気さくで多少の無礼は気になさらない方々です。ですので緊張なさらずに普段通りで大丈夫ですよ」

 そう言って案内してくれた門番の兵士が笑顔でそう言った。緊張をほぐそうとしてくれたようだ。よく見るとマリーとリラが硬い表情をしているのが見えたが、今の兵士の一言でいくらかは緊張が取れた様子。

「基本的には俺が受け答えするから、何も心配はいらないよ」

 俺がそう言うと、緊張している二人はぎこちなくだがしっかりと頷いた。これから先、こういう機会が増えるだろうから、その内嫌でも慣れるさ。さあ、気合を入れて行きますかっ!

「レオン様とその御一行様をお連れしましたっ!」

 兵士が大声でそう言うと、扉がゆっくりと開き始めた。

 完全に扉が開くと、部屋の奥に一段高くなっている場所があり、そこに男女が一人ずつ座っているのが見えた。あれが国王と王妃だろう。そして両脇の壁沿いには重臣と思われる人達が並んでいた。

 重臣の中で一際ひときわ強烈なオーラを放っている人物が目に入った。それ程歳は取っていないと思われるが杖を突いて悠然と佇んでいる大柄の男。恐らく狼の獣人で、どことなくローリエに似ている様な……?

 兵士の後に続き部屋の中央まで来たところで、俺は左膝を床に着き頭を下げてひざまずいた。嫁達も俺に倣って跪いた。すると、

「ああ、そういうのはいいって。堅苦しいのは苦手なんだよ、俺はよぉ。頭を下げる必要もねぇし、跪くのも無しで頼むぜ」

 おいおい……何とも態度と言葉遣いの悪い王様だ。開幕から飛ばしてくれるな。しかし判断に困るな……助けを求めて賢者殿に目線を向けると、

「国王自らが良いと言っているのじゃ、問題無かろう。ほれほれ、さっさと立ち上がらんかい」

 ちっ、役に立たん奴め。いいだろう、そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ。

「では、失礼して」

 そう言って俺は堂々と立ち上がった。部屋にいた幾人かが呆気あっけにとられた表情をしていたが、知ったこっちゃない。

 嫁達も俺の行動に驚いていたが、それも僅かな間で、直ぐに俺に倣い立ち上がった。

「……くっくっく……は~っはっはっはっ! いいぞ、その度胸気に入った!」

 どうやら俺の対応は正解だったようだな。暫く高笑いを続けていた国王だったが、ひとしきり笑い満足したのか、自己紹介を始めた。

「ふう、こんだけ笑ったのはいつ以来だ? まあいい、俺はガルド・シャムフォリア。一応この国の国王をやってる、宜しくな。んで、隣にいるのが」

「ガルドの妻で、エルナと申します。この度は国難をはいして頂き、誠にありがとうございました」

 国王であるガルドは、まさに「豪快」と言う言葉が似合う男だ。厳つい顔つきに立派な髭と、何というか、国王より山賊の親分の方がしっくりくるワイルドな感じだ。

 対して王妃のエルナは、娘のアリスそっくりの落ち着いた感じの美人だ。『美女と野獣』という言葉がピッタリの夫婦だな。

「申し遅れました、私は冒険者のレオンと申します。そして後ろにいるのが妻のマリー、プリムラ、リラ、ソニアです」

 俺の紹介に続き、嫁達はそれぞれお辞儀をした。

「ほ~……その年で嫁さんが四人もいるのか、スゲ~なぁ……」

 この会話で先程よりも周囲がざわついた。やはりこの事はどこでも驚かれるな。

「さて……前置きはこれ位でいいか、んでよ単刀直入に聞くが……何が欲しい?」

 ……突然、何を言い出すんだ? この王様は。

「それは……今回の『大氾濫』での活躍に対する報酬の事ですか?」

「おう、その通りだ」

 おいおい、直接「何が欲しい?」なんて聞いてくるとは、流石に予想外だぞ。

「……それを決めるのが国王陛下のお仕事では? 自分にそれを決める権限は無いと存じます」

「普段はそうなんだがよ……今回は事情が違い過ぎる。お前さんが最初に異変を知らせてくれたお陰で、俺達は万全とは言えねぇがそれなりの準備が出来た。そしてその後も手柄を立て、極めつけは『大氾濫』での活躍だ。これだけの活躍に見合う褒美を考える会議を何度もしたが、結局な~んも決まらなかった……だからよ、こうなったら本人に直接何が欲しいか聞いちまおうって話になったんだわ」

 成程ね……実に合理的で俺好みではあるが、それだけではない何か別の『本命』があるはずだ、それを引き出してみるとしますかね。

「例えばですが、爵位や領地が欲しいと言ったら如何でしょう?」

「おう、好きな爵位、好きな領地をくれてやるよ。それでいいのか?」

 成程ね、タイムラグ無しの返答。恐らくこの答えは予想済みだったのだろう。ならこの答えは予想できたかな?

「では、報酬として……『家』が欲しいですね」

「……家?」

「はい、家です」

 俺が欲しい物を伝えると、国王夫妻をはじめ重臣の皆様も口を開けてぽか~んとした表情になった。くっくっく……見て下さいよこの間抜けな面を、これが見たかったんだよなぁ。

「今私達は、カルディオスの町で宿を借りて生活していますが、いずれは自分の家を持って妻達とのんびり暮らしたいと思っていましたので、丁度良い機会だと」

 俺がそう言うと、周囲の人々がようやく意味が理解出来たのか、ざわめき始めた。はっはっは、その喧騒けんそうが心地いいねぇ。どれだけ壮大な褒美を欲するかは考えただろうが、まさか家が欲しいなどと誰も予想だにしなかっただろうさ。報酬が少なすぎて困るなんてな。

「おいおい、国を救った褒美に『家』が欲しいだと? ふざけてんのか? あぁん?」

 この国王、口が悪すぎだろう……まあいい、既に俺の有利な状況になっているのだ、一気に畳み掛けていくぞ!

いたって真面目なお願いですとも。爵位や領地なんて貰っても、管理運営するのが面倒なだけではないですか。私は自由気ままな冒険者生活が気に入っていますので、それを捨てる選択肢はあり得ません」

「むぅ、そいつはごもっともだが……だとしても、家か……」

 小さく唸り黙ってしまった国王。周囲の連中も混乱している。前代未聞だろうさ、国を救った報酬に「家」を望む者なんて。さあ、次はどう出てくる?

「か~っかっかっ、お主の負けじゃガルド」

 高笑いと共に乱入してきたのは『賢者殿』だった。おいおい、国王を呼び捨てか。ただの家臣では無いと思ってはいたが……。

「ちっ、わかってるよ……おいっ! レオンとか言ったな? おめぇは一体何者なんだ? はそれが知りてぇんだよ」

 随分とぶっちゃけたな、『国』として俺の正体を知りたいと。ふむ、どうするかな……恐らくこの国は『白』だ。俺の正体を晒しても問題無いと判断するが、良い機会だし全てを話してこの国を巻き込んでしまうか? いや……それは早計か、この場に『スパイ』がいないとも限らんしな。

「申し訳ありませんが全てを話す事は出来ません……が、これだけは言えます。私達は決して貴国の『敵』ではありません、と」

 そう言って俺はガルド王の瞳をじっと見つめる。ガルド王もその視線を逸らさず俺を見つめていた。

 どれ位の時間そうしていただろうか、やがてガルド王が視線を外し大きなため息をついた。

「はぁ~……、結局の所、俺がお前さんを信用するかしないかの問題か……エフィルディスからは問題無いと言われてるしなぁ……アリス! おめぇはこいつをどう感じた?」

「はい、とても素敵な殿方だと……それにローリエの説得にも成功されていますしね」

「なるほどねぇ~……気に入ったか? この男が」

「……はい♪」

 王女殿下は頬を赤く染め、嬉しそうに答えた。いや、その満更ではないという顔はどういう事かな?

「ローリエもか?」

「はい、陛下。レオン殿にはアドバイスも頂き、感謝しております」

 何やら雲行きが怪しくなってきたぞ? この流れはよろしくないな。

「陛下、話がずれていますよ?」

「何だとてめぇ! 俺の可愛い可愛い娘のアリスに文句があるってぇのか? あぁん?」

「そんな事は一言も申しておりません」

 椅子から腰を浮かせ怒鳴るガルド王。いやはや、話が全く進まんぞこれでは。

「ガルドよ、いい加減にせんかいっ! 話が進まんではないかっ!」

 そう怒鳴り返したのは『賢者殿』だった。どうやら俺と同じ懸念を抱いていたようで何よりだ。

「ちっ、命拾いしたな……」

 そう言ってガルド王は浮かせた腰を椅子に沈めた。ようやく話が進みそうで安心したよ。

「はぁ~……国の恩人だし、拗ねられて他国に逃げられたら元もこうもねぇ。この国に敵対はしないって言葉で今回は納得してやるよ」

「ありがとう御座います。では報酬の『家』の件、宜しくお願いしますね。あ、王都では無くカルディオスに建てて下さい、それと出来るだけ広い家でお願いします」

「注文が多いなぁ⁉ わかったよ、国お抱えの大工達を派遣してやるよ。エフィルディス、手配を頼む」

「うむ、任せておくが良い。ワシの魔法で送れば一瞬じゃからのぅ」

 やはり『転移魔法』は便利だな、ソニアは使えるだろうか? 後で聞いてみようか。

「よしっ! それじゃあ謁見はこれで終わりとするっ! 皆の者、これにて解散だ。ご苦労だったな」

 ガルド王が解散を宣言すると、重臣の皆様は退出していった。さて、俺達はどうすればいいんだ?

「お主等にはガルドがに話があるそうじゃ。まだ帰ってはならんぞ?」

「……承知しました」

 どうやらまだ続きがあるみたいだ、次は一体何が始まるのやら。出来る事なら面倒事は避けたいのだが……難しいだろうな。

「ほれ、ぼさっとしとらんでワシに付いて来るのじゃ」

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