第32話 お姫様がやって来る
「朝か……」
俺は息苦しさで目を覚ます。そして辺りが暗い? 何故だ、小鳥もさえずりも聞こえる……朝に間違いないはずだ。そこでようやく何かが俺の視界を塞いでいる事に気付く。目の前のそれを取り払おうと無意識に手を伸ばした。
「……あんっ」
すると『むにゅん』という何か柔らかいモノを掴む感触と共に艶のある声が聞こえた。
「もう……どこに挨拶してるのぉ? そんなにおねぇさんのおっぱいが気に入ったのかしらぁ?」
俺が掴んでいた物はソニアの褐色爆乳だった。どうやら寝返りを打った際にソニアの胸の谷間に顔が埋もれてしまったようだな。息苦しかったのはそのせいか。
「ああ、済まない……それと、おはようソニア」
挨拶と共にキスをする。その後次々と嫁達が起き出し順番に挨拶とキスをしていく。さあ、今日も一日が始まるぞ。
と言っても慰問団が来るまでは町の中で過ごしかないかな。恐らく先方は馬車に乗って来るだろうし到着時刻が大きく前後する可能性がある。そのせいで何時間も前からスタンバイしなくてはならないのが面倒だよ。
そのようなわけで、この空いた時間を俺は魔法の特訓に時間を使う事に決めた。ソニアという最高の魔法使いが加わったので、特訓に付き合ってもらった。ソニアも快く承諾してくれたよ。本当に助かるな。
ちなみに、マリーとプリムラとリラは町中へ繰り出していった。宴は未だに続いているらしく、
そして二日後。遂に慰問団の到着予定日になった。さて、どの様な人物だろうか、
先触れが到着し、予定通りの時間に到着する旨を伝えた。
出迎えるのは俺と嫁達にライアンとハンナ、それと賢者殿だ。全員で整列して門の前で待機した。しばらくの後、遠目に人の集団が目に入る。あれが慰問団かな?
徐々に大きくなる人の姿、その先頭にいる人物の正体が判明した。あの目立つ全身鎧、見間違える事は無い。
華美な装飾が施された全身鎧を身に着け、威風堂々と行進する姿。騎士団長ローリエだった。転移魔法で王都に戻ったのは慰問団の護衛任務の為か。王女殿下の護衛だし、当然と言えば当然だな。
門の前に馬車が到着し、ローリエが馬車の扉を開ける。中から一人の女性が馬車を降りてきた。
「初めまして、我が国の『英雄』レオン様。私はアリス・シャムフォリアと申します。今回は父であるシャムフォリア王の名代として参りました。以後お見知り置き下さい」
そう言って綺麗なカーテシーを披露する王女殿下。着ているのは大人しいデザインのプリンセスラインドレスだが、胸元が大きく開いており、大きな胸が零れ落ちそうになっている。大胆なデザインのドレスで、王女が着るものではないと思うが……まあ王女の趣味かもしれないし、そこは気にしない事にしよう。
余談だが、この胸元が大きく開いたデザイン。後日質問してみた所、本人の趣味がどうこうではなく、こうしないと胸元が苦しくて辛い為、仕方なく開けているとの事だ。うむ、さもありなん。
それはさておき、どの様に返事を返そうか……下手な事をして出自を探られるのも面倒だし、ここは普段通りでいいか。何かあれば賢者殿にフォローしてもらおうか。
「初めまして王女殿下、私はレオンと申します。田舎者故に、ご無礼を働いてしまうと思いますが、ご容赦頂けると幸いです」
と、一礼して答えた。これ位なら問題無いか? さてどうなるかな。
「構いませんよ。それに私の事はアリスとお呼び下さい、言葉使いも普段通りで結構です。ここは王宮ではないのですから」
王女殿下は穏やかな笑顔でそう仰った。話の分かる王女のようでなによりだ。
「承知しました、アリス姫様。そして、こちらが妻のマリー、プリムラ、リラ、ソニアです」
俺がそう紹介すると、嫁達は会釈をした。すると王女殿下は口に手を当て驚きの表情を浮かべた。
「まあ、奥方様が四人も……それだけレオン様は魅力に溢れた素晴らしい殿方なのですね」
確かに、ただの冒険者に嫁四人は多いか。これ以上はつっこんでくれるなよ? 頼むから。
「うむ、挨拶は終わったようじゃな、それでは町を案内するぞ。行くぞアリス」
「はい、わかりました『先生』」
俺の気持ちを察したのか、賢者殿が助け船を出してくれた。今回は感謝しておこう。
それにしても『先生』か。どうやら単純に王女と家臣という関係ではなさそうだ。言葉遣いも王族に対するものじゃ無かったしな。
「なんじゃ? お主はアリスの事が気になるのかのぅ、まったく、お主ときたらローリエだけではなく、アリスも狙っておるのか?」
なに
そして慰問団一行と共に町中へと向かって進んだ。
王女殿下は町を見て回り、町民ひとりひとりに話しかけ手を握っていらした。丁寧に人々に接する態度で国民を本当に大切に思っているのが見て取れる。良い王女様ではないか。
「町の皆様が笑顔で過ごされているのを見ていると、私も嬉しくなりますね」
「うむ、それを成しえたのは、ここにいるレオンの小僧の活躍があればこそじゃ。でなければ今頃この町は見るも無残な姿になっていたであろう」
「いえ、私だけの力では不可能でした。集まってくれた冒険者や、騎士団、魔法師団の方々の協力があればこそです。
「ふふふ、とても謙虚な御方なのですね」
う~ん、この姫様の真意がわからん。常に笑顔を絶やさず、俺の様な得体のしれない輩にも物怖じしない態度。俺の人となりを見極める為か? 現状では王女殿下の情報が少なすぎて判断するのは不可能だ。まあ、俺は自分の役割を果たすだけさ。
そしてギルド本部で協議をすることになった。これからの日程についてだそうだ。出席者は王女殿下、支部長ライアンそして『賢者殿』の三者会談だ。勿論ローリエは護衛としてその場に待機しているだろうが。
「ではまた後程」
そう言って支部長室に入っていく王女殿下。ひとまず今日の俺の仕事はここまでだ。
「これからどうしますか?」
マリーがそう質問してくる。そうだな……恐らく晩餐会とはいかないだろうが、歓迎の食事会は開くだろう。それの準備を手伝うとしようか。
「折角だし、夕食に出す『食材』を取りに行こうかと思うがどうだろう?」
「……ダッシュバード?」
リラの問いに頷いて答える。高級食材と言われているので喜ばれるだろう。
「あれは素晴らしいものでしたわ」
「へぇ、おねぇさんは初めて食べるけど楽しみねぇ」
プリムラとソニアも特に反対はしないようだ。特にソニアは初めての食材に心を躍らせていた。
ダッシュバードはとても逃げ足が早く倒すのが困難である。その為入手出来る数が極少数で、その肉が高級食材として取引されている。つまりその『速さ』に追いつければ狩るのは容易いのだ。
現状『身体強化』の魔法による脚力の上昇により、俺とマリーとリラは十分にダッシュバードに追いつく事が出来る。しかし、プリムラとソニアは無理だった。
プリムラは『ドレスアーマー』という我々の中では比較的重装備の為、機動力という点では一歩劣ると言わざるを得ない。ソニアは魔法使いという職業上元々の身体能力が高くないので、強化してもダッシュバードに追いつける程ではなかった。
だが、俺が立てた作戦により、大量のダッシュバードを狩る事に成功した。正攻法で倒すだけが戦いでは無い。
中身はこうだ。俺、マリー、リラのチームとプリムラ、ソニアの2チームに分ける。そしてダッシュバードの群れを挟む様に配置した。初めに俺達のチームが群れに突撃する。そこで一人一羽を狩る。そして生き残りのダッシュバードがプリムラ、ソニアチームの方へ向かって逃げ出す。そこでソニアが魔法で素早く『土の壁』を造り出し、逃げ道を塞ぐ。高速で移動しているダッシュバードは当然それを避けられず壁に激突していく。そこにプリムラが襲い掛かり止めを刺す。これで群れを纏めて狩る事に成功した。そのような調子で次々と狩っていき、最終的には五十羽を超えた。
「よし、十分な数が確保できたし、撤収しようか」
こうして俺達は大量のダッシュバードを持ち帰る事に成功した。
宴がまだ終わってなかったので、ダッシュバードの差し入れをしたら泣いて喜ばれたよ。正直少しひく位の感謝のされ方をした。まあ、あの肉が味わえるとなればその気持ちも少しは理解できるが……。
そして話し合いが終わったのであろう、王女一行が広場で談笑していた。そこで夕食にダッシュバードの肉を提供すると申し出ると、その場は熱狂に包まれた。宴の熱狂よりも凄まじい熱量だったな。意外な事にこの事に一番喜んだのがローリエだった。
「この御恩は一生忘れませんっ!」
と言って、俺の手を握り興奮した表情で感謝の言葉を述べた。恩義を感じる程に好きなのか?
「ローリエはダッシュバードのお肉が大好物ですから」
そう言って苦笑する王女殿下。ちなみにローリエのふさふさした尻尾が大きく左右に揺れていた。これで興奮度合いが分かるのは面白いな。
ダッシュバードの肉を提供したからか、慰問団一行の歓迎会も大盛況で終わり、そこで解散となった。王女殿下はどこで寝泊まりするんだろうかと思っていたが、ギルドに併設されている来賓用の部屋に宿泊するそうだ。そんなものがあったんだな。明日には王都に戻る予定の慰問団、俺達もそれに同行し王宮で行われる式典に参加予定だ。さて、どうなることやら。
ちなみに素材の買い取りについては王家御用達の商人、名前はジャックと言う
そして厄介な事に、ライアンがその金の大半を俺に押し付けようとしてきたので断った。
「君達にはこの金を貰う権利がある」とか言ってな。なので「貰う金額は冒険者の皆さんと同じで結構です」と言ってやった。今欲しいのは金では無い。これを機に冒険者とギルド双方に恩を売っておく方が先決だ。現に救援に駆けつけて来た幾つかの冒険者パーティとコネクションが出来た事だしな。この世界に来て伝手などある訳も無い。最終目標をクリアするのにどれだけの人出が必要か、想像も出来ん。
考える事は多いが、今日の所は寝るとしよう。先程からベッドの上で待機している嫁達が待ちきれなさそうだしな。明日の事は明日考えようか。
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