第27話 四人目の『嫁』、登場の巻
神域に転送されたのは全部で四人。俺、マリー、プリムラ、そして新たに召喚した『嫁候補』の四人だ。近くにいないと駄目なのか、リラは転送されていなかった。残念だが今回リラは不在で進めるしかない。
「あらぁ? ここはどこかしらぁ?」
「突然の無礼、お許し下さい。私はレオンと申します。本日は貴女にお願いがあって私がここに呼び出させて貰いました」
「ふ~ん……キミがねぇ……」
俺を探るような眼で見つめてくる女性。その恰好は特徴的で、右手には大きな長い杖、頭に三角帽子を被り、背中にはマントと、足元はロングブーツと、典型的な魔法使いルックだった。そして人族より長い耳、マリーに似た長い銀髪……いや、こちらの方が少し白みが強いかな? その銀髪を腰の辺りまで伸ばしている。そして特徴的な褐色の肌をしていた。成程ね、ダークエルフが召喚されるとは意外だったが、俺としては何の問題も無い。むしろ大賛成です、はい。
問題があるとすれば、その服装にある。あれは……服なのか? どう見てもスリングショットの水着にしか見えない格好だ。しかも色が白。褐色の肌と白のコントラストが美しくも艶めかしい、そして『巨乳と呼ぶのがおこがましくなるレベルの爆乳』と表現すべき乳房が衣服から
「それで、おねぇさんにお願があるってぇ? 一体どんなお願いなのかしらぁ?」
余裕のある大人の態度で語りかけてくる。折角だしそれに付き合ってやろうではないか。
「貴女に協力して欲しい事があります。とその前に、貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
第一に相手方の情報収集。交渉事の基本だな。
「あらぁ、ごめんなさいねぇ、そう言えば名乗ってなかったわねぇ。私の名前はソニアって言うの、よろしくねぇ」
うむ、挨拶も済んだ事だし文字通り交渉のテーブルについてもらおう。
「良ければ椅子に腰かけて下さい。飲み物も用意しましょう」
そして例の如く虚空からティーセットを取り出すと、彼女は目を丸めて驚いていた。まずはこちらの「一本先取」といった所かな? 続いてマリーが静かに近付いて来て、給仕を始めてくれる。メイドの鏡だな、本当に。
「では、改めまして……ソニアさん、少々話が長くなりますが、最後まで聞いてください」
俺は事情を説明した。俺が別の世界の人間である事。神の依頼で世界を救う事。その報酬で『嫁』を召喚出来る事。
「……そして今、私達が暮らしている町が壊滅の危機に晒されています。その危機を回避する為に貴女の力をお借りしたい」
「……ふ~ん、それは大変ねぇ……それじゃあ、そちらにいるお二人は?」
「はい。妻のマリーとプリムラです。ここにはいませんが、もう一人妻がいます」
「へぇ~、奥さんが三人もいるの、凄いわねぇ」
変わらずに気怠げな口調だが、その目つきは鋭さを増していった。
「それで、世界の危機だったかしらぁ? おねぇさんがそれを手助けする義理はないわよねぇ? その手伝いをしてぇ、私に何かメリットはあるのかしらぁ?」
正論だな。無益な事に喜んで首を突っ込むのは、余程の善人か愚か者かの二択だ。それに最初から正直に頷いてもらえるとは思ってないさ。ここからが本当の「交渉」だ。
「俺が貴女に提示するメリットは、こちらの世界での生活の保障と『自由』を約束する事です」
俺がそう言うと、ソニアはピクリと眉を動かした。
「……どうして「それ」がおねぇさんのメリットになるのかしらぁ?」
「簡単に言えば「この世界に来る事を了承する意思のある者」が召喚される条件になっているからですよ」
マリーもプリムラも、そして何より俺自身もそうだ。この世界に来る事で得られる一番のメリットは何か? それは『自由』を
彼女は、そのゆったりとした口調とは裏腹にとても聡明な女性だ。それはこれまでの少ない会話からも
「そう……じゃあ具体的に何をしてくれるのかしらぁ?」
「その問いに答える前に……ソニアさん、貴女は魔法に関してどの程度の実力がありますか?」
彼女の質問を遮り、逆にこちらが質問を返す。心の内を見透かされても、その余裕の態度は崩さなかった。ならばこれはどうだ?
「なぁに? おねぇさんの事知りたいのぉ? そうねぇ……これでもおねぇさんは『
食い付いて来たな、予想通り魔法に関してはプライドがある女性のようだ。それにしても「世界一」とは大きく出たな。だが彼女の言葉は本当なのだろうな。その『世界』とやらが一つであったのならばね。ではそこをつついていくとしよう。
「世界で一番とは、相当な自信がおありのようで。しかし私は貴女より優れている魔法使いを知っていますよ? しかも身近にいますね」
「へぇ……それなら是非とも会ってみたいわねぇ……そんな人が本当に存在するならねぇ」
「こちらの世界に来れば、直ぐにでも会えますよ」
「……」
表情が歪んだぞ? 一本取られたという顔だな。ここに来てから初めて表情を変えたな。
当然、俺の言葉の全てを信じた訳ではないだろう。だが、別の世界の存在を知らされた事で「ひょっとしたら……」という疑念が頭をよぎった筈だ。それだけでも彼女の気を引くには十分過ぎる情報だろうよ。
「……そもそもぉ、こんな回りくどい事をせずにぃ、無理矢理連れて行けばいいでしょう~? ここに連れて来たようにねぇ。「神」の力なら防ぎようがないのだからぁ」
おっと、
「それは貴女に納得してこの世界に来てもらう為ですよ。そして私の『嫁』になってもらいたいからでもあります」
「嫁って……あのねぇ? おねぇさんはこう見えて、キミよりず~~っと年上なのよ? そんな年増を貰っても困るでしょう?」
姉さん女房、最高じゃないか。これは何としても嫁に来てもらおう。
「何の問題もありません。私は是非、貴女を嫁に迎えたい」
「……それでも、おねぇさんは止めておいた方がいいわぁ。だって私は『呪われている』んだからねぇ……」
呪い……ときたか。これは詳しい話を聞いてみる必要がありそうだ。
「『呪い』とは穏やかじゃありませんね。詳しい話を聞きしても宜しいですか?」
「……この肌の色を見ればわかるでしょう? 父も母も姉も妹も皆、肌の白い普通のエルフだったのよ。私だけが『こう』だった」
そういう事か。確かに自分だけが周りと異なれば、そう思うのも仕方ないか。しかもそれが原因不明となれば尚更か。だが俺はつい先日、その変化の「答え」を知ったのだよ。
「ソニアさん、良く聞いて下さい。それは『呪い』ではなく、『適応』もしくは『進化』の結果です。こちらの世界では肌の色が異なるエルフが生まれるプロセスは解明されています。貴女の様なエルフが生まれるのは珍しい事ですが、何の問題も無い自然な事なのですよ」
先日読んだ本がここで役立つとはな。俺の知的好奇心も役に立つではないか。
「魔力の保有量が多い者は、肌の色素が変色する傾向がある。これは全ての種族に共通するが、元々魔力の多いエルフ族は特に顕著に表れる」と記述があった。何故エルフに多いのかと言うと、全種族の中で魔族に次いで魔力保有量が多い種族だからだと書かれていた。そう言えば『賢者殿』も褐色とは言わないまでも、他のエルフに比べて肌の色が濃いめだったな。ちなみに俺も少々肌が浅黒い色をしている。恐らくだが俺も影響を受けていると思われる。
「……嘘よ。信じないわ」
「嘘ではありませんよ。王都に行けばソニアさんと同じ様な肌の色のエルフを見かける事があります。それにそんな調べれば直ぐにわかる嘘を付いて、俺にメリットはありません」
「でも……」
迷っているな、なら「証拠」を提示してみせよう。
「この本をこのページをご覧ください。そうすれば私の言った事が事実だと理解出来るはずです。ああ、文字は問題無く読めると思いますのでご安心を」
俺はそう言って先日読んだ本「世界に住む種族全集」の該当のページを開いてテーブルの上に置いた。彼女は恐る恐ると言った感じで本を読み始めた。
どれ程時間が経っただろうか。未だにソニアは本を読んでいた。該当のページだけではなく、最初から新たに読み始めてしまったのだ。まあ、気が済むまで読めばいいさ。ここにいる間、時間は無限なのだから。
その間マリーとプリムラも着席させ、皆でティータイムを楽しんだ。多少の物音では気にも留めない程に彼女は本に集中していた。
それから暫くの後、ソニアは読み終わった本を閉じ、テーブルの上に置き顔を上げた。
「満足出来ましたか?」
「ええ、とっても。新しい知識を得るって最高ねぇ」
満面の笑みでそう答えるソニア。警戒心も良い感じでほぐれたみたいだな。では、本題に戻ろうか。
「ちなみに、この本は世間一般に広く流通している物ですよ。では改めて、こちらの世界に来れば貴女は「普通」のエルフになります、少々魔力が多いだけのね。それを望むなら俺の手を取って欲しい。貴女を嫁に迎えて、幸せにする努力をしてみせます」
そう言って彼女の目の前に、右手を差し出す。さあ、どうする?
「その前に、そちらのお二人に話を聞いてもいいかしらぁ?」
「ええ、問題ないですよ」
ふむ、何の話をするか興味あるな。
「改めて挨拶するわねぇ。私の名前はソニアよぉ。マリーちゃんとぉ、プリムラちゃんでいいのよねぇ?」
「はい、宜しくお願いします」
「ええ、それでワタクシ達に何か質問でも?」
今の今までにこやかに挨拶をしていたが、次の瞬間、表情を一変させて真剣な眼差しで質問を投げかけた。
「貴女達は違う世界から来たのでしょう~? 元の世界に未練は無かったのぉ? 後悔はしていないのぉ?」
成程、それは俺も聞いてみたいな。嫁達は文句ひとつ言わないから、俺も心配になっていたんだ。
「未練ですか? ありませんね」
「そうですわね。後悔も一切していないですわ」
一瞬の迷いも無く答えたな。何だか嬉しくなってくるな。
「元の世界では、自分が幸せなのか不幸なのか知らずに暮らしていました。それが悪いとは思いません。ですが「幸せ」を知ってしまった今の私では、元の暮らしは出来ないでしょう。そして私に「幸せ」を教えてくれた旦那様には感謝しかありません」
初めてマリーの胸中を打ち明けてもらったな。だがな、この程度で「幸せ」を感じていたらこの先どうするんだ? 楽しみになって来たよ。
「ワタクシは、元の世界で何一つ不自由なく生きてきました。ただしそれは「自由」と引き換えでしたけれど。決められた道を歩き続ける日々……ワタクシには夢がありました。ですがその夢を叶える事は元の世界では永遠に不可能でした。そんな時、最愛の夫と運命の出会いしたのですわ。それからの生活は驚きと興奮の毎日ですわ。そしてワタクシの「夢」が叶う日がいずれ訪れるであろうという希望に満ちた毎日。この世界に来て正解だったと思っておりますわ。後悔など微塵もございません」
プリムラは満面の笑みで堂々と言い放った。そうだな、プリムラはこの世界に来てから生き生きとしていた。友人(本人曰く姉妹)も出来て毎日楽しそうだったからな、俺も嬉しいよ。
「そう……今、幸せなのねぇ? 貴女達は……」
「「はい、幸せです(わ)」」
それを聞いて、ソニアは笑顔を見せた。今までの余裕に満ちた笑みではなく、心からの柔らかな笑顔だった。ああ、そっちの笑顔の方が君には似合うよ。
「私が貴女に提供する物は「自由」と「チャンス」です。それを受け取るか、拒否するかは貴女次第です。マリーもプリムラも、ここにいないもう一人の嫁も、そのチャンスを掴み取り、努力をしているからこそ、今幸せを感じていると俺はそう思っています」
さあ、これが最後の一撃だ。
「世界を救うのも大事ですが、私は最高の嫁と最高の家庭を築き、家族全員で幸せに暮らす事も目標にしています。ソニアさんにもその一員になって欲しいと心から願います」
さて、やれる事はやったな。後は俺の言葉がソニアの心に響くかどうかだ……。
「……何の変化も無い今の暮らしを続けるかぁ、それを捨てて未知の世界に飛び込むかぁ……最初から答えは決まっていたのでしょうねぇ……わかったわぁ、キミのプロポーズ受けさせてもらうわよぉ。これからよろしくねぇ『旦那君』」
そう言うとソニアは立ち上がり、俺に近づいて来て、目の前で立ち止まった。
「今日この時より、俺達は夫婦で家族だ。無理矢理にでも幸せになってもらうぞ? 覚悟しておいてくれ」
そう言って俺はソニアを抱きしめた。張りと弾力のある彼女の胸が俺の胸板を押し返してくる感触が大変素晴らしい。
「ふふ、それは楽しみねぇ……それにしても、人の体ってこんなに温かいのねぇ。忘れていたわぁ……」
名残惜しいが、俺は抱擁を止めソニアと体を離す。これで逆転へのピースが揃ったぞ。
「早速で悪いが、こちらの世界に来たらいきなり魔物の大群を相手にすることになる。そこでソニアには初手で広範囲を殲滅出来る魔法を放ってもらいたい」
数で押されてはどうしようもない、初手で敵の数を多く減らせれば勝負にもなろう。それに増援が来るまでの時間も稼げるはずだ。あの『賢者殿』が来るまで持ちこたえればこちらの勝ちだ。
「ええ。問題ないわぁ。それで、敵の数はどれくらいなのかわかっているのぉ?」
「正直な事を言うと不明だ。少なく見積もっても数百……多ければ千を超えるだろうな」
常に最悪を想定するのは勝負の鉄則だ。ソニアの魔法で全滅すれば最高だが、それはあまりにも楽観が過ぎるというもの。
「そう、それ位なら問題ないわねぇ。おねぇさんに任せなさぁい」
ソニアが胸を張って高らかにそう宣言した。その拍子に胸が「ぶるん」と弾んだ。やはり何度見ても素晴らしいな。
「恐らく、ソニアの初撃以降は敵味方入り乱れて戦う事になる、大規模な魔法は打てないと思う」
「わかったわぁ、味方を巻き込まない様に魔法を使うわねぇ」
よし、それでは行くとしますか。
「それでは行くぞ! 力を合わせ町と市民を守るんだ!」
「「「はいっ!」」」
「(ガーベラ、転送を頼む。それと後でソニアに君の事を紹介するので、楽しみにしておいてくれ)」
『(承知しました。楽しみにお待ちしています。)』
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