第25話 カルディオスの町へ帰還~やっとこさ帰ってこれたよ

 思ったよりもユニスの店に長居してしまったな。ギルドへは急いで向かうとしよう。

 少々早歩きで向かいギルドに到着するや否や、職員が駆け寄り本部長室へと案内された。

 中には本部長トーマスと『賢者』エフィルディスが既に集まっていた。この人、国のお偉いさんだよな? フットワークが軽すぎないか?

「早速で申し訳ないが、調査の結果を報告させて貰うよ」

 前置きも無いとはね、この様子では良い報告は聞けそうにないか。

「今回新しく発見された魔物モンスターを「ランクA」とし、国中のギルド支部は勿論、他国のギルドにも通達する事になった……ランクAの新規魔物なんて、一体何年ぶりでしょうね? 賢者様」

「さてな……少なくともここ三十年以内には無かったはずじゃ」

 つまり、それだけ希少な事例だということか。

「それで、この魔物に名前を付けてもらえるかな? 面倒だったらこちらで勝手に付けさせてもらうよ」

「名前ですか?」

 あれ? 何かデジャヴが。つい先ほども名前を付けたような……。

「慣例でね。新規登録された魔物は、討伐した冒険者が名付けるのだよ。中には面倒でギルドに丸投げする者もいるがね」

 折角だし俺が名を付けてみるか。とは言え、俺のネーミングセンスでは、気の利いた名前は出てこないぞ。ここは無難にいこうか。

「では『キマイラ』でどうでしょうか」

 というかこれ以外思いつかんぞ。くそっ、自分のネーミングセンスの無さを不甲斐なく思うよ。

「キマイラか……うむ、ワシは気に入ったぞ! 良いセンスじゃ」

 賢者殿には好評なようで何より。

「では、新発見の魔物を「キマイラ」と呼称する事とする。なお今回の登録料と素材提供で50万Gを報奨金として渡そう」

 金貨五十枚が入っているであろう袋が「ドン」という音と共に机に置かれた。随分と奮発したな、それだけ今回の件を重く見たか。

「これには『大氾濫』の情報提供も込みの金額だ。君のおかげで最悪の事態を防げたからね」

「うむ、王宮でもしっかりと準備しておる。正規軍の「王国騎士団」とワシの「魔法師団」が何時でも出撃可能じゃ。安心せい」

 国の支援が得られるのは有難い。少なくとも住民は安心するだろう。

「今回の要件はこれで終わりだ。他に何かあるかね?」

 俺は首を横に振る。特に何もないだろう。

「それでお主ら、この後直ぐにカルディオスに戻るのかのぅ?」

「はい、町が心配ですから」

 俺達のいない間に『大氾濫』が起こる。それだけは避けたいからな。

「では、ワシが特別にお主等を「送って」やろう。喜ぶがよい、滅多に使わぬ特殊な魔法じゃぞ?」

 今何と言った? だと? まさか……!

「転移魔法ですか?」

「なんじゃ知っておったのか、つまらんのぉ」

 賢者殿は拗ねた子供の様な顔をしていた(実際に見た目は幼女だ)が、俺は激しく興奮していた。

 理論的には可能だと思っていたが、それを体験出来るとは!

「異なる二か所に「穴」を開けて、そこを繋げて移動させる……といった所ですか?」

 つまり『ワームホール』を造り出すのだろう。

「小僧……何者だ? 少なくとも見た目通りの歳ではなかろう?」

 俺の余計な一言で、賢者殿の視線が鋭くなってしまった。

 ……ちっ、迂闊だったな。少し興奮しすぎたか、こちらの情報は限りなく漏らしたくない。これ以上喋るのは危険だ。

 俺は賢者殿の鋭い視線を笑顔で受け止める……しばらく賢者殿が俺を睨みつけていたが、根負けしたようだな。

「ふんっ、まあよい。今は非常時じゃ、見逃してやろう」

 やれやれ……これからも追及が続きそうだな。今後、迂闊うかつな発言は気を付けるとしよう。

「では、転送してやろう。ほれ、もっとくっつかんか」

 そう急かされて四人で密着する。体の至る所に柔らかい感触が……。

「頑張るのじゃぞ、若人たちよ! お主等の活躍に期待しておる!」

 賢者殿の魔力が爆発的に膨らむ。これ程とは! 賢者の名は伊達ではないな。

 高まった魔力が爆発するように放出されると、俺の視界が暗転あんてんした。




 暗転した視界が元に戻ると、頭がくらくらとし始めた。これは乗り物酔いになった時の感覚に似ているな。

 辺りを見渡すと俺達が草原にいる事が判明した。本当にワープしたのか……。

「い、一体何が?」

「頭が……ふらふらしますわ」

「……気持ち悪い……」

 嫁達は地面にへたり込んでいた。正直な話、今すぐ俺も地面に寝転がりたくなる。何回か経験すれば慣れるのだろうか? そうであって欲しいものだ。

 それから数分程して、全員が正常な状態に戻った所で、改めて現在地の把握をしようとしたら、視界の先に見覚えのある大きな城壁を捉えた。

「本当に戻って来たのですね……」

 マリーが口に手を当て、驚きの表情で呟いた。超技術ならぬ超魔法だったしな、驚くのも無理はないな。

「あなた様は同じ魔法が使えまして?」

「出来るとは思うが……これ程の距離を移動するのは無理だな」

 今の俺では、視界範囲内――約1キロメートルが限界だろう。魔法は遠くで発生させようとすると、途端に難易度が跳ね上がる。例えば5メートル先に手から炎を放射するのと、5メートル先の地面から火柱を上げるのでは、難易度が数倍にもなるだろう。適当にやっても火は出るが、集中しないと火柱は出ない位の感覚だ。

「……私は……無理……」

 がっかりした声色でリラがそう言った。いや、それが普通だよ。

 これだけの長距離を移動させるなんて、それこそ何十年、何百年と修練を重ねた者にしか出来ないだろう。長命のエルフだからこそ可能なのだろう。いや、あの『賢者殿』が特別なのかもな。

 城門へ向かおうとしたその時、俺の指輪から光が溢れ出した。これはもしかして?

『ご報告します。「新規魔物登録」の達成により、『召喚権』を新たに一回付与いたします』

 ガーベラからの報告が届いた。待っていたぞ、この時を。

「指輪が光って? 旦那様、もしかして……」

 マリーが光に気付いた。続いてプリムラ、リラもだ。

「ああ、新しい『嫁』を迎える準備が整ったようだ」

 道を外れ、人目を忍べる木陰の下に移動する。家族会議を行うぞ。

「さて、新しい『嫁』だが……正直迷っている。そこで皆の意見を聞きたい」

「そうですね、私は魔法の扱いに長けた人をお呼びするのがよろしいかと。『大氾濫』では大勢の魔物を相手にしなければなりません。その際広範囲に攻撃出来る物がいれば心強いと思います」

 マリーは「魔法使い」を推薦か。これは俺も考えていた、マリーも言ったが広範囲を攻撃出来る人材は重宝するだろう。

「ワタクシは、大勢の人間をまとめ、指揮を取れる方がよろしいかと。敵は大群で攻めてくるのでしょう? 冒険者の方々がバラバラに戦っても効果が薄いとおもわれます。集団で運用してこそ最大の戦果を得られると思いますわ」

 プリムラは「将軍」タイプを推薦だ。確かに冒険者連中に纏まりがあるのかと言われれば疑問符が付く。初日に絡んできた……何て名前だったか? まあいい、あの男のような奴もいるだろうし、そういう奴等を纏め上げ言うことを聞かせられる人材は必要だろう。

「……防御や……回復が出来る魔法使い……皆を守る人……」

 成程、リラは「ヒーラー」を推薦するか。消極的な意見に思えるが、俺達を最大限の戦力と位置付けて前線で戦い続ける、そんな作戦を実行出来る攻撃的な案だな。負傷者の手当も出来る点は一考の余地ありだ。

「貴重な意見をありがとう、どれも参考になる素晴らしい物だったが……すまない、もう少し考えさせてくれ」

 これからの状況の変化で必要な人材も変わってくるだろう。もう少し時間を置いても大丈夫だろうしな。

「どうぞ、じっくりとお考え下さい」

「ええ、あなた様が納得するのが一番大事ですわ」

「……新しい家族……楽しみ……」

 嫁達も特に反対はしないようだ。本当によくできた嫁さんだよ。

「よし、ひとまず中に入ろう。ギルドに報告もしなければならんしな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る