第24話 続・王都観光 もう少しだけ続きます

 湯船に浸かる前に体を洗う、これは基本のマナーだな。木桶きおけでお湯をみ、タオルを浸して石鹸を擦り合わせる。やがて泡立ち、準備が完了した。

 嫁達の方に向き直る。当然、全員全裸だ。魅力的な肢体を惜しげも無く晒しているのが目に入り、情欲じょうよくたぎらせそうになるが、今は我慢だ。今は風呂の素晴らしさをくのが先だ。

「一番手はマリーだ。さあ、こっちへ」

 まずは手や足、背中をタオルで優しく擦っていく。

「ん……くすぐったいです、旦那様」

 マリーの艶っぽい声を聞きながら、正面を洗うべく向き直る。そしてその豊かな胸を包み込む様に優しく洗っていく。ゆっくりと丁寧に。

「あんっ♡ 旦那様、手つきがいやらしいですよ?」

「す、すまんっ、少し我慢してくれ」

 これでも邪念じゃねんを捨て必死にやっているんだ、でなければ今頃マリーに襲い掛かっているさ。故に、多少の粗相そそうは許してほしい。

 やがて全身を洗い終わり、マリーの全身が泡だらけになっていた。

「ふふふ、不思議な感じですね」

 続いてはプリムラ。

「さあ、あなた様。存分にワタクシの体を堪能して下さいな」

 マリーに勝るとも劣らないスタイルを誇るプリムラが、腰に手を当て挑発的な態度をとる。いいだろう、そっちがその気なら容赦はせんぞ?

 プリムラの体を洗っていくが、マリーの時よりも気持ち力強く。

「あぁんっ♡ 気持ちいいですわぁ……あなた様……」

 顔を赤らめ、潤んだ瞳で俺を見つめてくるプリムラ。くっ、まだだ! まだその時では無いっ! 静まれっ!

 最後はリラだ。マリーやプリムラを圧倒するその質量の胸を突き出すように立っていた。

 俺は、花の蜜に誘われる蝶の様にふらふらと、その胸に吸い寄せられた。

「……あわあわ……楽しいかも……」

 泡だらけの自分の姿を見て楽しそうにしているな。手を見たり足を見たり背中をみたり、そうやって体を揺らすと、その見事な胸がブルンブルンと揺れる……もういいよな? 十分我慢したよな?

 そんな俺の『雄』が強まる気配を感じた三人は、

「苦しそうですよ? 旦那様、さあ、こちらに……」

「遠慮はいりませんわ。ワタクシ達は夫婦なのですから」

「……我慢は……良くない……」

 全身泡だらけの嫁達が俺を誘ってくる。それで俺の理性は粉々に砕け散った……。



「やはり風呂は良いものだな……」

 溢れる欲望を発散し、体中の泡やら何やらを洗い流し、全員で湯船に浸かる。泡だらけの体は素晴らしかったとだけ言っておく。

「……お風呂……凄いね……」

 お風呂初体験のリラには、大変好評だったようだな。

「疲労がお湯に溶け出していく感覚、最高ですわね」

 プリムラは分かっているじゃないか、それこそが風呂の醍醐味だな。

「しかし……これだけ素晴らしい物なら、もっと庶民に浸透しても良さそうですが? 私達が利用している『そよ風亭』にはありませんよね?」

 マリーが風呂を堪能しながら、そんな疑問を投げかけてきた。まあ、その答えはある程度の予測が出来る。

「魔法を使って全身の汚れを取り除く事が出来る為、風呂の必然性が低いんだと思う。水浴びでも代用出来るし、ハッキリ言って「金持ちの道楽」程度の認識になってしまったのだろう」

 魔法を使ってお湯を用意するにも、それなりの労力を要する。ましてや薪を使って風呂を焚こうものなら、その手間と金は馬鹿にならない。実用性が無い……とまでは言わないが、正直趣味レベルの域なのだろう。

 勿体ない。こんな素晴らしい文化が広まってない事がな。ならば俺が広めようではないか! 神の要請をこなすだけではつまらんからな。個人的な目標を設定するとしよう。そうだな……最終的には、一家に一つ風呂場の建設を目標にしようか。




 ひとしきり風呂を堪能して、脱衣所に戻る。大きめのタオルを使い、しっかり水分を拭き取るように指導する。ついでに脱いであった服に「洗浄魔法」を使い綺麗にしておく。

 各々部屋着に着替え(マリーは相変わらずメイド服)ベッドルームで寛いでいた。

 なんとベッドルームの天井はガラス張りになっており、満点の星空が堪能出来るようになっていた! まさかガラス窓が存在するとは、正直、異世界の技術を過小評価していたな。

 寝るまで少々時間があったので、ギルドから借りてきた最後の本を読むことにした。タイトルは「ダンジョンとは? その謎に迫る」だそうだ。

 ダンジョンについて書かれた本だが、さてさて一体どんな事が書いてあるのかな?

 本の中身は意外にも真面目な考察が書かれていた。内容は以下の様な感じだ。

 ・ダンジョンの魔物モンスターは素材が取れない代わりに「魔石」を落とす。

 ・魔物は自動で再配置される。

 ・ダンジョンでは「宝箱」が落ちている事がある。宝箱は一定の期間で再配置される。

 ・一定の階層毎に「ボス魔物」が配置されている。

 ・ボス魔物を倒すと、希少なアイテムを入手出来る。

 ・最下層にはより強力なボスが存在する。

 ・最下層のボスは再配置されない。倒されるとそのダンジョンは「攻略済み」となる。

 こんな所かな。最後にこの本の筆者の言葉を聞いてみようか。

「ダンジョンは何時、誰が、何の目的で造ったか不明だ。故に「神の贈り物」や「神の試練」と言う者もいる。だが私は違うと思っている。ダンジョンは『生物』だ、我々と同じである。この論理が正しければ、ダンジョン内でのみ起こる様々な出来事も説明出来るだろう」

 ふむ、実に興味深いな。特に『ダンジョンは生物だ』という文言、確かにこれで色々と説明出来る。

 魔物や宝箱が自動生成されるのは、外から人間と言う「餌」を呼び込むためだろう。そしてそれに釣られた人間を捕食する……そう考えれば納得出来るな。うむ、ダンジョンに潜る楽しみが増えたな。色々な謎を解明するのはいつも心躍るよ。

 ちなみに、リラにダンジョンに潜った感想を聞いたが、

「……暗くて……罠が多い……」

 とのことだった。冒険者にとっては稼ぎ場所の一つでしかない、その正体を探ろうとする奴などいないか。

「そろそろ寝ようか」

 本を読み終わり、やる事も無くなったので皆にそう声をかけた。

「そうですね」

「では、準備をいたしましょうか」

「……うん……」

 準備? 何を? と思っていたが、嫁達が服を脱ぎ裸体を惜しげも無くさらけ出した事で全てを理解した。

「いや……先程、風呂でイタシタよな? もう満足したよな?」

 無駄だとはわかっているが、それでもこの危機を回避できる可能性に一縷の望みに賭けた。俺にも限界というモノがですね……。

「それはそれ、これはこれ、ですよ? 旦那様♪」

 このマリーの言葉を合図に俺の服を脱がせていく三人の嫁達。やはり駄目だったか……明日の朝日が拝めるよう祈ろう。




 朝の日差しで目を覚ます。天窓からの光が心地よいな。

 嫁達は俺の傍で静かな寝息を立てている。嫁達を起こさない様に起き上がろうとしたその時、腰に鈍い痛みが走った。あれだけ激しい運動をすればこうもなるか。体が若返っているから多少の無茶は問題無いと思ったが、多少では済まなかったか……。

「お早う御座います、旦那様」

 俺が起きて直ぐにマリーが起床した。そして二人で「後始末」を終えて、残りの二人が起きるのをまったりと待つ。

 やがて二人が起床し、身嗜みを整えていると宿のスタッフが朝食を運んできた。夕食と比べると軽めの食事だが、しっかりと満足できる味と量だった。

 食事を終えて、チェックアウトの意思を支配人に伝えた。その際銀貨を一枚渡し「次もまた利用する」と言うと、満面の笑みで出口まで見送りに来た。

 宿を出て、ギルドに行く前に昨日寄った服屋に向かうとしよう。朝起きてからずっと楽しみにしていたんだよ。思わずにやけてしまうのは許してくれ。

 店に入ると、昨日応対していた店員がダッシュで俺達を出迎えた。どうやら店長らしい。

「お待ちしておりました。依頼の品は私達一同、会心の出来だと自負しております」

 力強い声とは裏腹に、顔はやつれて眼が充血していた。本当に大丈夫か?

「ささっ、どうぞこちらで着替えて下さい」

 そう言って店長が嫁達を奥へと連れて行った。待つこと数分、先に店長が出てきた。

「さあ、ご覧下さい。私達の技術の粋を集めた逸品を!」

 最初に出てきたのはマリー、続いてプリムラ、最後にリラという順番だ。

「素晴らしい……まるで女神の様だ」

 思わずそんな言葉が漏れてしまう程、俺は目の前の嫁達に見とれていた。

「ふふ、少々恥ずかしいですね」

 マリーのブラジャーは白のハーフカップ。髪の色とマッチしていて最高だ。意匠も凝っていてレースやフリルも取り入れられていて良い仕事ぶりだ。ブラジャーをしたことで胸がしっかりと固定され、今迄よりも美しく、そして大きく見える。ショーツもブラとお揃いの色と意匠で、これもまた素晴らしい。

「どうですかあなた様? ワタクシの下着姿は?」

 プリムラのショーツは、形と見た目はマリーと同じ物だが、ブラジャーは特徴的で、ロングラインブラと呼ばれる腰まで覆うタイプで、色は黒。これにより、プリムラの艶やかさが際立つ仕様だ。形や大きさが良くなる点も同じだ。

「……胸が……揺れない……」

 リラのブラジャーはフロントホックと呼ばれるタイプ、胸の前方で簡単に着脱できるのが特徴だ。色は青で、これも髪の色に合わせた。リラも言っていたが、今回のブラジャー着用には胸の揺れを軽減するというのが最大の目的だ。彼女達は、戦闘で激しい動きをするので、動きを阻害しないようにする事を念頭に置いた。勿論、俺の趣味も兼ねているのは言うまでもない。

 俺が満足し頷いていると、店長がすっと素早く詰め寄って来た。

「どうでしょうか? 当店自慢の商品は。ひとつひとつ丁寧に手作りで仕上げました」

 ほう、それは凄いな。俺の拙い絵で良くぞこれ程の物を。

「それでですね……この商品を当店で取り扱いたいのですが……」

 ああ、成程ね。そういう話ならば問題無い。

「この店で好きに販売してもらって構いませんよ。お金もいりません」

 ここで恩を売っておくのが正解だ。

「よ、よろしいのですか⁉ この商品は貴族の方々に売れるでしょう、そうなればどれ程の儲けになるか……」

「大丈夫です。その代わりまたこちらの要望で衣装を作って下されば、それでいいので」

 この店とパイプを持つのが先決だ。

「わかりました、お約束いたしましょう……では、こちらの服に名前を付けて頂けませんか?」

 名前か、変にひねる必要はないか。

「では、上がブラジャー。下がショーツで」

「ふむふむ……ブラジャーにショーツと……」

 紙とペンを取り出しメモをする店長。あると便利だよな、俺も買って正解だったよ。

「それと、お客様の名前も教えて頂けたら……」

 ん? 俺の名前など聞いてどうするのだろうか。まあいいか。

「私は冒険者のレオンと言います」

「レオン様ですね。申し遅れました、私はこの店の店長でユニスと申します。これからも当店をご贔屓にお願いますね」

 この時名前を名乗った事が、まさかあんな風になるとは。俺も思ってもみなかったよ……。

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