第23話 ワクワク、王都観光・前編

 ギルドを出て、これからどうするかを四人で相談する。

「折角ですので、王都を観光するのはいかがかしら?」

 というプリムラの意見を採用し、王都を見て回る事にした。

「……案内は……任せて……」

 リラが案内役を買って出てくれた、助かるよ。

 先ず俺達が向かったのは、所謂「道具屋」だ。これからの冒険や旅で役に立つ物を買おうという事になった。それに王都の品揃えも個人的に気になる。

 そしてリラから驚くべき事実を伝えられた。なんと「冒険者の為の道具屋」と「庶民の為の道具屋」の二種類があるという。更にそれぞれ複数店、王都にあると。いや、冷静に考えれば当たり前か。

 その中からリラお薦めの「冒険者の道具屋」に来た。リラの話では、

「……ここで……なんでも揃う……」

 だそうだ。楽しみになって来たな。それにこの世界の生活レベルの一端を拝めるかな?

 辿り着いた店は、ギルド本部にも劣らない、二階建ての大型店舗だった。一階が庶民用、二階が冒険者用という事で、両者が一緒になった店舗は王都でもここだけとの事。先ずは二階に向かった。

 店内に入ると、壁際に商品棚が陳列されているのが目に付く。さて、どのような物があるか楽しみになって来たよ。

 俺が一番興味を持ったのはずばり「魔道具」だ。火を付ける魔道具、どう見ても「ライター」にしか見えない。リラに使い方を聞いたら、

「……スイッチを押す……それで……火が出る……」

 成程、構造はライターに酷似こくじしていて単純な作りだな。試しにスイッチを押そうとしたらリラに怒られた。

「……ダメ……店員に怒られる……」

 だそうだ、残念。

 それ以外にも興味をかれる物品が多すぎて、思わず店員に色々聞いてしまった。それでわかった事は、

 ・動力は「魔石」と呼ばれる物。これはダンジョンで採れるそうだ。

 ・魔法の効果を記憶した「金属板」を内蔵している。

 ・魔道具は専門の技師が作っている。

 店員に聞けたのはこんな所かな、これ以上は専門家に聞いてくれと言われた。うむ、是非話を聞きたいな。何処に行けば会えるかと聞いたら「城」に居ると言われた。今は諦めるしかないか。

 どうやら魔道具技師は国が免許を出して国の為に仕事をしている、つまり「国家公務員」というわけだ。当然と言えば当然か。危険な魔道具を勝手に作られたら、それだけで他国との戦争に発展しかねん。国が管理するのは至極当然だな。

 俺は魔道具を購入した、それはもう手当たり次第に。役に立つのか不明な物まで買ってしまったのでマリーから、

「旦那様、無駄遣いは程々にお願いします」

 と言われてしまう。それについては反省しています。だが後悔はしていない。

 それと、魔道具の値段が思ったより安かったのに驚いた。無論、大型の魔道具はそれなりの値段だが、先程のライター程度なら庶民でも十分に手が出る価格だ。これはつまり、魔道具は広く一般しょうさに浸透している証左しょうさだろう。

 嫁達にも気になった物は遠慮せずに購入するようにうながした。荷物についてはアイテムボックスがあるので気にせず買い込んだ。寝袋や雨合羽もあったので人数分買っておいた、いずれ役に立つだろう。

 二階は見て回ったので、続いて一階に向かう。

 一階はそれこそ「スーパーマーケット」の造りに似ている。食料品や日用雑貨が豊富に揃えられていた。

 とは言え、ここで買うものは殆んどないのだが。何せ宿暮らしで食事も自分達で用意する必要がないし、日用雑貨も既に揃え終わっていて、今の所必要ない。今後、家を所持出来たらここで買い揃えるのも良いかもな。

 ここで買った物は、紙とペンだ。意外だったのだが、紙が思ったほど高価では無かった事。つまり紙の大量生産が可能なのだろうが、それでもコピー用紙がどこでも買える元の世界と比べてはいけない。ペンは羽ペンとインク壺という前時代的な代物だった。味があって俺は好きだがな。

 次に訪れたのは服屋だ。これは俺が行きたいと懇願こんがんして案内してもらった。どうしても欲しい物があってな……。

 リラに頼んで、この王都で一番の高級店に案内してもらった。名前は「服屋ユニス」。ここでなければ諦めるしかない。決死の覚悟で店の扉を開けた……。

 流石は高級店――貴族御用達の店だけあって「一見さんお断り」と言われ入店を渋られたが、金貨を数枚チラつかせ黙らせた。こういう手合いは金を持っていると知れれば、喜んで商売するものだ。

 店内を見まわし、俺は遂にを発見した。それとは即ち『下着』である。それも俺の良く知る女性用下着に近い物だ。

 勿論、俺が着用するのではない。女性用下着だ。愛しの嫁達に着てもらうが為に求めていた。

 突然だが、ここで嫁達の下着事情を説明しよう。

 マリー・上はノーブラ、下はズロース(短パンの様な物)。

 プリムラ・上はさらしの様な何か、下はズロース。

 リラ・上はノーブラ、下は無地のショーツに似た何か。

 ……おわかりいただけただろうか?

 全員ノーブラなのだ。更に下はズロースが二人、無地のショーツもどきが一人。これは早急にどうにかしなくてはならない! 特にブラジャーは最優先で揃えたい、嫁達の健康の為にもだ。俺の為というのも否定はせん、俺も嬉しいからな。因みにショーツは完全に俺の趣味の問題だ。

 そんな訳で、先程買った紙とペンを使い「こういうのを作ってくれ、人数分。最高級の素材で」と言いデザイン画と金を渡した。10万G渡したら、飛び跳ねたよ、店員が。

 オーダーメイド品になるので、全員分の採寸を測る。明日の朝までに出来るか? と言ったら、

「必ずや、明日の朝までに仕上げてみせますっ!」

 と気合十分の返事が返って来た。よろしい、期待しているぞ?

 嫁達には高い買い物だと小言を頂戴ちょうだいしたが……是非、皆に着て欲しい。最高に似合うぞ。と言ったら満更でもない笑みを見せたのでのセーフという事に。




 気づけば日が落ち始める夕方になっていた。そろそろ宿を決めようか。リラにどこかお薦めの宿は無いかと尋ねた。高くても良い、セキュリティが万全な所という条件でだ。

「……貴族の人が……泊まる宿がある……」

 そこなら安心安全だな。リラの案内で宿屋に到着したが、何というか外見が派手だ。金箔で塗装しているのか、金ピカに輝いている。この建物だけ周りから浮いているぞ。ちなみに宿の名前は『最高級宿・極楽ごくらく』。名前のセンスについては何も言うまい。

 中は更に派手だった。成金趣味と言えばいいのか、あちこちを金箔で装飾していて、目がチカチカするぞ。

 支配人を名乗る男がやって来たので宿泊したい旨を伝えると、初めは渋い顔をしていたが、金貨を取り出すとニコニコ顔と揉み手で近寄って来た。実に分かり易い。

 4人で泊まれる広い部屋を所望したら、「ゴージャス・スイートルーム」という最上階の部屋を提示された。一人一泊1000Gと言われたので金貨5枚渡してやると、支配人は笑みを深くして自ら客室まで案内してくれた。

 通された部屋は、広々していて素晴らしい内装だった。流石に部屋の中まで「アレ」だったら落ち着かないしな。

 食事はどうするか聞かれたので、直ぐに食べたいと伝えると、

「直ぐにお持ちします」

 と言って部屋から出て行った。部屋まで持ってきてくれるそうだ。高級宿らしい対応に満足だ。

 食事が来るまでの間、皆で部屋の感想を言い合う。

「隅までしっかり掃除の手が行き届いていて素晴らしいですね」

「部屋の調度品のセンスも悪くないですわね」

「……ベッド……ふかふか……」

 三者三様の意見だったが、俺が注目したのはベッドの大きさだ。大人が十人寝ころんでも未だ余裕があるぞ。

『そよ風亭』でもそうだったが、ベッドが大きい事に何か意味があるのだろうか?

 リラにこの事を聞いたら、

「……巨人族の為……あの人達は……体がとても大きいから……」

 言われて納得の理由だ、特に高級店ともなれば様々な要望に応えなければ、店の名前に傷が付くだろう。

 部屋の奥に入り口とは別に扉が付いていた。さて、ここは何処に続いているのかと扉を開けようとしたそのタイミングで食事が運ばれてきた。探検は一旦中止だ。

 料理が普通の大きさのテーブルに並べられていく。隣に巨大なテーブルと椅子があるが、これも巨人族用だろう。

 テーブルに所狭しと並べられる料理の数々。どれもこれも美味しそうな匂いが漂っている。料理の名前は分からんがね。

「食事が終わりましたらこちらのベルをお使い下さい。係の者が下げに参ります、その他にも何かありましたら、このベルでお呼び下さい、直ちにお伺いします。それでごゆっくりどうぞ」

 では、食事を頂こうか。マリーとプリムラはナイフとフォークを巧みに操り、上品に食事を楽しんでいる。リラはその辺り適当だな、正式なマナーが必要な場所でもないし問題ないな。俺もリラに倣うとするかな。食事は楽しくが俺のモットーだ。

「素材の味を活かしつつ、それを邪魔しない味付け……腕の良い料理人のようですね」

「ええ、とても美味しいですわね。城のシェフの味と比べても遜色なしですわ」

「……もぐもぐ……美味しい……」

 食事は大変満足のいくものだったな。肉や魚、野菜などバランス良く使われていた。

 ベルを使い食べ終わった食器を下げてもらい、先程開けようとした扉の中に侵入した。

「こ、ここは? まさか脱衣所かっ⁉」

 更に奥にもう一つ扉が見えた。高鳴る胸を抑えて扉を開いた。

 部屋は白い壁面で覆われていた。そして中央には大きな浴槽が……まさしくここは『風呂』だ! この世界には存在しないのかと諦めかけていた。しかし! 諦めなくて良かった、夢はここにあったのだ!

「旦那様? ここは一体何の部屋なのでしょう?」

 俺の後をついて来たマリーがそう尋ねてきた。うむ、これはいいものだ。風呂を知らないマリーには懇切丁寧こんせつていねいに説明せねば。

「今すぐ二人を連れてきてくれ。全員揃ったら説明する。ただ一言だけ、ここは素晴らしい場所だぞ」

 俺がこれほどまでに興奮しているのが珍しかったのだろう、マリーは首を傾げながら二人を呼びに行った。

「どれ、色々調べてみるかな」

 浴槽に近づくと、近くにの壁にスイッチがあった。押してみると壁に備え付けられている蛇口からお湯が出てきた。成程これも魔道具なのか。その他にも固形の石鹸も見つけた。取り敢えずこれで最低限、体を洗えるかな。

 プリムラとリラを連れて戻って来たマリー。うむ、ナイスタイミングだ。

「よし、これから全員で風呂に入るぞっ!」

「お風呂があるのですか? 流石は高級宿ですね」

「まあ、お風呂ですの? それは楽しみですわね!」

「……おふろ?」

 マリーとプリムラは嬉しそうに声を上げたが、リラは首を傾げていた。どうやらリラは風呂に入った事が無いらしいな。まあ直に体験すれば、その素晴らしさがすぐに理解出来ることだろう。

「先ずは脱衣所で服を脱ぐぞ」

 脱衣所に備え付けられた棚に服を入れ、そこにあった小さめのタオルを手に持ち、いざ風呂へ!

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