第22話 徐々に近付いて来る不穏な足音

「……ここが……ギルド本部……」

 リラに案内された場所には、見上げる程の大きな建物がそびえ立っていた。横の大きさもだが、高さもある。三階建てだろうか? この世界の建築技術でどうやって建てたのだろうなどと、余計な事を考えてしまったな。

 ギルド本部に入ると、人がごった返していて喧騒けんそうが耳をつんざく。受付が何ヶ所もあり、人が沢山並んでいる。カルディオスの町と比べ規模が桁違いだな。流石は王都のギルドといった所か。この列に普通に並んでいたら骨が折れる所だが、アポを取ってある俺達には関係ないな。

 その様なわけで、俺達は受付ではなく奥の部屋に続く通路に立っていたギルドの制服を着た職員の男に話しかけた。

「すみません、カルディオスから来ましたレオンと申します。本部長にお取次ぎ願えますか?」

 と言ってギルドカードを渡した。

「レオンさんですね。話はうかがっています。本部長室へ案内します」

 と、あっさりと奥の部屋に通される。報・連・相はしっかりと出来ているようで安心したよ。

 奥に進むと豪奢ごうしゃな装飾の付いた扉が出現した。

「失礼します。本部長、お客様をお連れしました」

『入りたまえ』

 職員が扉をノックすると共に声をかけると、中から男の声で返答があった。

 職員の男が扉を開け中に入ると、立派な机がありそこに初老の男が座っていた。この男が本部長なのだろう。

「では、私はこれで失礼します」と職員の男が部屋を出ていく。そして本部長と思わしき男が立ち上がりこちらに近づいてきた。

「初めまして、私はトーマスと申します。王都ギルド本部長を任されています」

「レオンと申します。新米ですが、どうぞ宜しくお願いします」

 差し出された手を握る。その手は細くしわが刻まれていたが、握ると確かな力強さを感じた。それにしも、物腰の柔らかい人だな。ギルドの本部長と聞いて、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの大男を想像したが……。

「ライアンから聞いていますよ、期待の新人だと」

「いえいえ、大した事ありませんよ。こちらはマリーにプリムラです。リラは御存じですよね?」

 マリーとプリムラが俺の言葉に合わせて会釈する。 

「ほう、お二人も中々の実力がおありの様で。リラ君の事は勿論知っているよ。若手の有望株だからね」

 お互いにこやかに社交辞令的なやり取りを行う。ならばここで「期待の新人」の力を見せてあげるとしよう。

「……ところで本部長殿、に居るもう一方ひとかたは、ご紹介頂けないのでしょうか?」

 この一言で本部長が笑顔のまま凍り付いた。

「……何の事ですかな?」

 表情を変えなかったのは流石だが、追及の手は緩めんぞ?

「では、部屋の隅に居るのはどなたでしょうか? 本部長殿の身に覚えが無いのなら暗殺者かもしれません。それならば攻撃しても構いませんよね?」

 そう言って槍を取り出すと、トーマスが慌てだした。

「ま、待ちたまえっ! 早まってはいかんっ!」

 ボロを出すのが早かったな。つまり隠れているのは本部長の知り合いで、かつそれなりの地位に就く大物の可能性がある。もう少しつついてみるか。

「おや? 本部長殿には心当たりがあると? いけませんな~、こんな新米の若造に嘘を付くなんて。悲しみのあまり本部長の事を信じられなくなってしまいますよ」

 全身を使った大袈裟おおげさなジェスチャーを交えてそう言うと、トーマスは渋い顔をして黙ってしまった。さあ、どう出る?

 とその時、

『は~っはっはっはっは……お主の負けじゃ、トーマス』

 そんな高らかな笑い声と共に現れたのは、どう見ても幼女にしか見えない女の子だった。長い銀髪にゆったりとしたローブを身に纏い、長い杖とマントという姿。それにとがった耳をしていたので正体は直ぐに判明する。

「エルフの方ですか」

「うむ、そうじゃ。見ての通り、普通のエルフじゃぞ? ち~っとばかし歳は食っておるがのう」

 その見た目で「のじゃ」口調……まさか伝説のロリB○Aだと? 異世界バンザイ。

 それはそれとして、見た目通りとか普通とか、嘘は良くないな。例えば先程まで隠れていたのは、恐らくステルスに酷似こくじした魔法だろう、それで視界から消えていたと推察する。そんな魔法ホイホイと使える奴はいないだろう。それにこうして対面して初めて気付いたよ。体内に渦巻くとんでもない量の魔力を宿している事に。コイツ……只者じゃない。

「それで、途轍とてつもない魔力を持った普通のエルフ殿は、一体何者でしょうか?」

「ほう……やはり、お主『えて』おるな?」

 そう笑顔で質問してくるエルフ殿。だが目元は笑っていない。

「ええ。そうでなければ、貴女様は見つけられなかったでしょう?」

「かっかっか、新米と聞いていたが……中々やりおるわい。気に入ったぞ」

 どうやら俺は御眼鏡おめがねに適ったようだ。実は本部長の魔力を探る「ついで」に発見したのは内緒だ。それよりも彼女が持っている杖が気になる。不思議な気配は感じるが……何だろう?

「では、改めて名乗るとしようかのう。ワシの名はエフィルディス。一応この国の魔法兵団の団長を務めておる」

 成程、この国の魔法使いのトップが登場とはね……やはり今回の件を重く見ての事だろう。

「世間では『賢者』と呼ばれる、偉大な魔法使いですよ」

 トーマスが追加で情報をよこす。

「ええい、余計な事を言うでない! まあ、ワシの事は好きに呼べばよい。何なら「エフィルちゃん」と呼んでも良いぞ?」

 何とも軽い御仁だ。これが素なのか演技なのかはわからないがな。

「では『賢者殿』と呼ばせて頂きます」

 俺のセンサーが「こいつは危険だ」と告げている。油断は出来ん。

「なんじゃ、つまらんのぉ。それと堅苦しい態度は不要じゃ、公式の場でもなければ気にせんわ」

 話のわかる人で助かるな。彼女の評価を少し改めるか。では本題に入るとしよう。

「それで、ここへ来た要件ですが……」

「うむ。未知の魔物を討伐したとか、それでは解体室へ向かいましょう」

 そうしてトーマスの先導で場所を移動する。ちなみに今迄黙っていた嫁達だが、後で聞いたら「話に入れる空気では無かった」との事。初対面が「アレ」ではそうもなるか。

 解体所とやらに到着したが、中には誰もいなかった。

「出払ってもらったのですよ。事が事ですから」

 騒がれても困るし、要らぬ憶測を呼ぶ事になりかねんしな。妥当な判断か。

「では、魔物を出します」

 巨大な机の上にキマイラの死骸を乗せる。すると両名は鋭い視線を向けた。

「……確かに初めて見ますね……エフィルディス様は?」

「……小僧、レオンとか言ったな。お主の意見を聞かせてくれぬか?」

『賢者殿』はトーマスの質問を無視して俺に尋ねてきた。俺を試しているのか? まあいい、では俺の見解を述べるとするかな。

「この魔物の体内には、異なる複数の魔力が混ざり合っていました。自然にこのような生物が発生するとは思えません……つまり、この魔物は『人工的に造られた』と考えるのが妥当だと思います」

「馬鹿なっ? 人工的に魔物を造るだと⁉」

 目を見開き叫ぶトーマス。随分と取り乱しているな。

「落ち着けい、トーマス。それに、ワシも小僧と同じ意見じゃよ」

 賢者殿にたしなめられ、次第に冷静さを取り戻すトーマス。

「申し訳ありませんでした……それでは一体誰が、何の為に?」

「そこまでは分からん。此奴が生まれたのが、偶然なのか必然なのかもな」

 何かしらの目的があっての事だと思うが、こういう時は大抵ろくでもない理由だと相場は決まっている。

「それに、造られたのがこの一匹だけとは限りませんね」

「確かに……そして重要なのは此奴の強さじゃ。直接戦ったお主らの感想を聞きたいのじゃが?」

 そう言われ、俺達はそれぞれ戦った印象を説明した。それらを纏めると、

「……つまり、かなりの速さで空を飛び、高所からの強襲に加え、炎の息も吐くと……よく勝てたのう、お主ら」

「まあ、防御力は低めでしたし、知能も低かったのでどうにか倒せました」

 確かに強敵だったが、弱点もあったし人数差も大きかっただろう。

「それでもじゃ。お主ら以外のCランクが戦えば負けていたじゃろうて」

「我々は貴重な情報を得る事が出来たよ、ありがとう」

 これで伝えられる事は伝え終わったかな。

「今日はこれで終了とするよ。これから本部の人間で詳しく精査して、その結果で君達に支払う報酬を決めさせてもらうとする」

「わかりました、では明日また伺います」

 報酬も気になるが、この魔物のランクにも注目している。もしも高ランクに認定されれば、自由自在に高ランク魔物を造り出せる人物・組織が存在する可能性があり、それすなわち『世界の危機』と言っても過言ではないだろう。近付きつつあるのか? 真相に……。

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