第21話 いざ! 王都へ

「……朝か」

 小鳥の囀りで目を覚ます。どうやら俺が一番早く起きられたみたいだな。嫁三人は未だ夢の中のようだ。「切り札」の効果は絶大だったな。襲い来る三人の刺客《しかくちにしてやったさ。

 どうやったかって? 今は魔法でゴリ押した、とだけ言っておく。

 体を起こしベッドを見渡すと、そこには凄惨な光景が広がっていた。情事の跡で色んな所が色々な体液でぐちょぐちょに汚れていた。ベッドのみならず壁や床にも被害が拡大していた。

 ひとまず嫁達の体を魔法で綺麗にする。その後ベッドとシーツ、それと壁と床もだ。こんな光景を他人様に見せるわけにはいかん。

 そうこうしているうちに、マリーが起床した。俺が後始末をしている姿を見て「お手伝いします」と言ってくれたので、試しに「洗浄魔法」を教えてみた所、驚く程あっさり習得してしまった。マリー曰く、

「何度か見て、体験しましたから。それに旦那様の教え方が上手でしたよ」

 だそうだが、マリーの魔法に対するセンスの高さゆえだろう。これからも色々な魔法を覚えて欲しいものだな。

 続いてプリムラ、リラも起床した。リラに体は大丈夫かと聞いた。

「……大丈夫」

 と、笑みを浮かべながら言ったリラだが、やけに肌がツヤツヤしているような……まあ、元気ならいいか。

 何時もより念入りに身嗜みだしなみを整えて、朝食を取る為に階下に降りる。

 四人で並んで現れたのを見てハンナが「昨夜はお愉しみでしたね」と言ってきた。意地悪な笑みと共に。まさかこの世界の住人からそのセリフを聞けるとは。これで二度目だ……意外とこの言い回しはメジャーなのか?

 聞けばリラはハンナと同じ部屋で寝るつもりだったが、俺の部屋に行くと言ったきり昨夜は戻って来なかった、つまりそういう事だろうと思ったそうだ。年頃の男女が同じ部屋で一晩過ごす。当然、何も起きないはずが無く……というやつだな。

 その後、ハンナが真面目な顔で、

「リラちゃんをお願いしますね」

 と言ってきた。ここは俺も真面目に返そうかな。

「分かりました。リラは俺が責任持って幸せにしてみせます」

 そう高らかに宣言すると、ハンナが満面の笑みを浮かべ、リラが赤面した。

「……レオン……恥ずかしい……」

 当然だが、ここは食堂だ。女将のポーラもシェフのナッシュもいる。更に他の宿泊客もちらほら……流石に大胆だったかな? 拍手や指笛を吹いている奴もいた。

 そんなすったもんだがあったが、朝食を食べてギルドに向かう。

 その際、ポーラに王都へと向かう旨を伝えた。日帰りが出来るかわからない事を伝えて、お金はそのままで良いと。本来は返金してもらうのが正しいのだろうが、チップ代わりとでも思って断ったよ。

 ギルドに到着し、支部長ライアンと面会した。

「やあ、これから王都に向かうのかい?」

 こんな朝早くからギルドにいるのかと聞いたら、昨晩はギルドで寝泊まりしたと、力のない声で答えた。お疲れ様です。

「王都のギルド本部に着いたら、君のギルドカードを見せれば直ぐに本部長と会えるよ」

 色々と根回ししてくれたようだな、助かるよ。

「……本当は君達の様な新人に頼む仕事ではないのだけどね、我々の力不足で申し訳ない」

 そうライアンが言うが、それは仕方がない事だろうし、むしろ俺達がいて良かったと前向きに考えるべきだ。

「気にしないで下さい。それでは行ってきます」

「ああ、気をつけて」

 ライアンは頭を下げ、俺達を見送った。俺達がギルドから出るまでずっと。




 ところで、この町には外に出る為の門が二か所ある。門番のグレッグが常駐しているのが『南門』。これから俺達が向かうのは『北門』だ。普段使わない場所に向かうのは、不思議と気分が高揚してくるよ。

 まあ、手続き自体はいつもと変わらない。ギルドカードを見せて終わりだ。

 町の外に出て、リラにこれからの予定を尋ねる。

「それで、王都まではどうやって行くんだ?」

「……走って行く……馬車より……早く着くから……」

 単純明快な理由でよろしい。今は時間が惜しい、その判断を支持するよ。

「走って行くと言ったが、一気に王都まで行くのか?」

 するとリラは首を横に振る。

「……途中に……旅小屋がある……そこで休憩する……」

 中継場所があるのはありがたい。ひとまずそこを目指すかな。

「……行くよ?」

 そう言うなり、トップスピードで走り出して行くリラ。やれやれ、ついて行きますよ。俺は脚に魔力を纏わせ、リラの後に続いた。

 風を切って走る。一体どれ程のスピードが出ているんだ? 少なくとも人間の出せる速度ではないと思うが……魔法の凄さを改めて実感したな。

 そんな速度で走っているからか、時折通りがかる人々が、ぎょっとした顔でこちらを凝視していたよ。それはそうだよな。この世界の交通事情は知らないが、恐らく速く走る生き物といえば馬が主流だろう。その馬よりも速く走る人間を見ればそうなるか。

 どのくらい走っただろうか。体感的には二時間程かな? 当たり前だが道は舗装されていない訳で、でこぼこ道で走り辛かったり、石はそこら中に転がっていたりと、道に沿って旅をするだけでも一苦労だろう。

 やがて幾つかの小屋が建っている場所に着いた。そこでリラが足を止める。どうやらここが中継地点らしいな。

 小屋を良く観察してみるが、何というか……取り敢えず、雨と風が凌げれば良いといった感じか。ここで寝泊まりは無理だな。

 空いている小屋の中に入り、ようやく一息つけた。全員、動けなくなる程ではないが、それなりの疲労があるようだ。

 水分を取り、ついでに買ってあった保存食――干し肉だな、それを食してみた。

 そのままでは噛み切れないので水を含み、ふやかして食べるのだが、辛うじて肉の味がする程度で後は強烈な塩の味だ。元の世界の固形栄養食やゼリー飲料が画期的な発明だと思い知らされたな。ちなみに皆の感想は、

「……個性的な味ですね」とマリー。至極しごくオブラートに包んだ感想だな。

「今までに食べた事のない味ですわ」とプリムラ。初めて食べる保存食に満更でもない様子。

「……」黙々と口を動かすリラ。まあ、リラは食べ慣れているだろうしな。

 食事を済ませ、再び王都へ向けて走り出す。

 再び走り出して、それなりの時間が経った。

「後どれくらいで到着するんだ?」とリラに尋ねた。

「……後……少し……」

 だそうだ。こちらとしてはリラを信用して走り続けるしかないさ。

 更に走る事数時間、遠目に何か大きな建造物が見えてきた。あれは城か? という事は。

「……見えてきた……あれが……王都シャムフォリア……」

 リラが足を止め、そう呟いた。俺が想像していたよりも早く到着できたな。

「よし、あと一息だ。一気に行くぞ」

 気合を入れ、再び走りだした。そして城門まで辿り着いたのだが……。

「巨大な城門ですわね……」

 プリムラが呆けた表情で城門を見上げながら言った。ふむ、これ程の大きさで建造する意味はあるのか? 仮想敵は誰なのだ? 気になる事は幾つもあるが、それは後にして王都に入る為の列に並んだ。

 入る為の手続きはカルディオスと同じだった。ギルドカードを提示して、ここに来た目的を伝えて、それで終了。セキュリティが甘くないか? と思ったが、この文明レベルでは仕方ないか。

 ギルド本部の場所は、当然リラが知っていた。彼女の案内で俺達は王都の中を進んで行った。

 王都に来て驚いたのは、人の多さもさることながら、その種族の多さ。

 猫耳や犬耳の獣人を始め、背が低く筋肉質の髭もじゃのドワーフ、耳の長いエルフ、背の高い巨人族、それと極少数だが、肌の青白い魔族も居た。それらをリラに教えてもらいながら観察した。

 この国は比較的、どの種族にも寛容かんようであるという事。他国では差別や偏見が激しい場所がある等、この世界の情報を教わりながら王都の中を歩いていく。

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