第20話 先輩冒険者と「仲良く」なろう
そろそろ夕食を食べようと三人で部屋を出る。するとハンナが「丁度いい時に来たね。今出来上がった所よ?」と言って、素早く料理が提供された。ちなみにリラも既に来ていたので、合流して一緒に食べる事にした。
運ばれて来た料理を観察すると、圧倒的なオーラを放つしっかりと焼き目の付いた肉がそこに
恐らく、ただ焼いて塩をふっただけの肉。しかし、それだけにも拘らずこれは絶対に「美味い」と思わせる、その圧倒的存在感。
肉を一口サイズに切り分け、口に運ぶ。マリーとプリムラもそれに続いた。
最初に感じたのは、圧倒的な肉の旨味。まるで牛肉の様な味だった。鳥の肉だと思っていたから、もっとあっさりとした味わいだと……まさかこれ程とはな。侮っていた、今迄の食事レベルを見て高級食材だろうと、大した事ないレベルだと思い込んでいた。
ふと周りを見渡すと、全員が黙って食事をしていた。そして黙々と料理を口に運んでいた。中には涙を流している者もいる。
食事を終ると、ポーラから感謝の言葉を貰った。その際に「お礼にうちのハンナを貰っていって」と言われてしまったがどうしろと? ハンナも「お母さんっ⁉」と困惑。
その後ポーラは「ふふふ、冗談ですよ……今の所は」と不穏な事を言っていたが、どうなることやら。
部屋に戻ったが寝るには早いと、それぞれ思い思いに過ごす。マリーとプリムラは明日の王都での事で話が弾んでいた。内容は主にショッピングに関してだ。俺もそれに付き合うのだろう……。そして俺はと言うと、二冊目の本に取り掛かった。タイトルは「魔法使いへの道~初級編」だそうだ。早速読んでみるとしよう。
ふむ、本を読んでの感想だが……本当に基礎的な事しか書かれていなかったな。
「まず初めに、自身の中にある魔力を感じましょう。次に感じた魔力を高めましょう。最後に高めた魔力を、自身の思い描いた通りに放出しましょう。それが魔法です」
要約するとこんな感じだな。付け加えるなら「高めた魔力で炎をイメージしましょう。それを球状にして放つとファイヤーボールです」別のページに「高めた魔力で炎をイメージしましょう。それを壁状にして放つとファイヤーウォールです」だそうだ。
つまり、魔力を高め、炎をイメージする所までは一緒、放出する際に何をイメージしたかで名称が変化するというわけだ。他のページに「水」や「風」についても同じ説明だったので間違いはないだろう。検証してみたい事が増えてしまったな、王都への道中にでも試すかな。
夜も更けて、そろそろ「夫婦の時間」を過ごそうとしていたその時、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。こんな夜更けに、一体誰だ?
「どなたでしょうか?」
俺が応答しようとしたが、それよりも速くマリーが応答した。流石はメイドさんだな。
「……リラ……話が……ある……」
訪問者の正体はリラだった。マリーがこちらを見てきたので頷き、了承の意を伝えた。
部屋に入ったリラだったが、入り口でじっと立ったままだ。おっと、これは気が利かなかったな。
「立ったままでは落ち着かないだろう、空いているベッドに腰かけてくれ」
現在部屋に二つあるベッドの内、一つは我々三人が腰かけている。まあ、三人であれこれしようとしていたからな。もう一つが空いている為、そこに座ってもらおうと誘導した。
ベッドに座るリラ。さて、話があるらしいが何の話だろうか?
しばらく座ったまま口を閉ざしていたが、やがて意を決したように喋り始めた。
「……レオンに……お礼をしに来た……」
お礼とは、もしや昼間の事かな? 律儀な
「昼間の事を言っているのかい? なら、あの時も言ったがお礼を言われる程の事はしていないよ」
俺がそう言うと、彼女は首をふるふると横に振り、否定の意思を表した。
「……レオンがいなければ……負けていた……きっと私は……死んでいた……」
普段口数の少ないリラが、喋り続ける。何やら事情がありそうだな。
「……私は……強くなりたい……もっともっと……だから……」
そういうとリラは、着ていた服を脱ぎ始めた。元々薄着だった事もあり、脱ぎ終わるのはあっという間だった。
目の前に現れたのは、圧倒的な存在感を放つ『双丘』いや『双球』と言うべきか? 服を着ている時から凄かったが、脱いだらもっと凄かった。『爆乳』という言葉がピッタリ当てはまる二つの物体がそこにはあった。
「……私に……あげられる物は……これしか……ない……だからお礼に……貰って欲しい……」
このリラの突然の行動と言葉に思わず唖然としてしまったよ。お礼と言っても、冒険に役立つ情報や物品が貰える……くらいに考えていたからな。まさか自身の肉体を差し出してくるとは、誰が予想できるだろうか?
さて、どうするべきか……正直な事を言えば、この提案を受ける事のメリットが非常に大きい。大前提として俺達はしばらくの間、冒険者としてこの世界で生活していく。この世界の住人で戦闘能力も高く、素性も知れているリラと懇意になるのはメリットしかない。言っておくが、リラの提案を受けたとして、この場限りの関係にするつもりは毛頭ない。そうなったら是が非でも『嫁』になってもらうぞ。それが俺の『
ではここで改めて「リラ」という女性について考えてみよう。
見た目は非常に俺好みの美女だ。スタイルも文句無し。性格の方も、出会って間もないが、一緒に冒険した感じ特に問題があるようには見受けなかった。それに嫁さん二人とも仲良くなったしな。
戦闘力に関してだが、これも何の問題も無い。そこに冒険者としての経験もプラスされる。頼もしい限りだ。
最後に、肝心の俺自身の「気持ち」なのだが……非常に好ましい女性だと思っているよ。
ふむ。これだけの能力の持ち主だ、
「リラ。君の気持はとても嬉しいが、俺は嫁意外とそういう事はしないと決めているんだ」
俺は真剣な表情でそう訴える。
「……うん……わかった……レオンの……お嫁さんに……なる……」
俺の眼を真っ直ぐに見つめながら、リラがそう言葉を返してきた。その表情からは、しっかりとした決意が感じ取れる。ならばこれ以上問答を交わす必要は無い。
となれば、次に考えるのは『夫婦』の問題だ。俺はマリーとプリムラを見る。すると二人は「理解しています」と言わんばかりに頷き、
「旦那様の器量なら妻が増えるのは当然の事でしょう」とマリー。
「ええ、あなた様を支える妻が増えるのは喜ばしいことですわ」とプリムラ。二人がそう切り出してきた。
おや? 今しているのは、お礼を受け取るか否かの話で、「嫁」にするという話はしていないはずだが……。
「旦那様は、ただ無意味に体を重ねるだけの関係はお嫌でしょう?」
と、マリーに笑顔でそう言われてしまった。全てお見通しか……。
「それに、あなた様は彼女の事を気に入っていらっしゃるでしょう? それはワタクシ達も同じですわ」
まあ、気に入っているのは事実だな。それにお断りなのは、金や権力目的で近寄って来る輩だ。むしろそれに関しては両方ともリラの方が持っているだろう。今の俺は、しがない新米冒険者でしかないのだから。
嫁達は了承している。後は俺の意思と彼女の「覚悟」だけだな。俺達に付いて来るとはどういう事かを教えなければな。
「リラの気持ちは嬉しいが、その前に伝えなければならない事がある」
「……?」
可愛く首を傾げるリラに俺は語った。俺が別の世界から来た事。神との取引でこの世界を救うのが目的である事。その報酬で『嫁』が召喚出来る事。マリーとプリムラが「報酬」である事。その為、長く辛い旅になるという事……全てを話した。彼女ならそこら中に言いふらす事はしないだろう。
ちなみに、説明している最中リラをベッドに座らせ、ベッドシーツを肩から掛けている。全裸で立たせていると、気が引けてしまう。目のやり場に困ってしまうというのが本音だがね。
全ての話を聞いた上で、俺達に同行するのか、そして俺の『嫁』になる気があるのかを尋ねた。
「……強くなれるなら……別の世界とか……気にしない……それに……お嫁さんになって……レオンを……守る」
という力強い返答を頂きました。それに、この縁は間違いなく良縁だ。それをみすみす逃すのは、愚か者のする事。つまり、最初から答えは決まっていたのだ。
「では、今日この時より、リラは俺の『嫁』だ。改めて、夫婦として宜しく頼む」
「……うん……よろしく」
この世界で一般人の結婚に関する決まりは特に無い。勿論、貴族などの特殊な連中には存在するがね。
元の世界の様に、役所に婚姻届けを提出する必要は無い。当人同士が「私達は今日から夫婦だ」と思えば、それで夫婦になると言う訳だ。
まさかこんなタイミングで新たな「嫁」が出来るとは……世の中何が起こるか分からないな。だからこそ面白いと思えるのさ。
俺はリラの肩に手を伸ばし、少しずつ力を入れていきリラをベッドへと横たえた。
「……こういう事……良くわからないから……」
「大丈夫だ。全て俺に任せてくれ」
不安な顔でそう言うリラの頭を優しく撫でる。
俺は傍に居るマリーとプリムラへと目配せを交わす。すると二人は優しい微笑みを湛えてゆっくりと頷いた。本当に出来た嫁さん達だよ。
「では……いくぞ?」
そう宣言してから優しく口付けをし、心と体を重ね合わせた……。
「……凄かった……」
情事を終えて、一息ついていた俺の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。
「……何だか……不思議な感じ……でも……嬉しい……」
「それは良かった。これから俺達は『家族』だ、遠慮なく何でも言ってくれ」
お決まりになりつつあるセリフだな、これは。
「……家族……?」
首を傾げるリラ。何を言われたのか理解出来ないという感じだ。
「……いいの?」
恐る恐る言葉を発する。何か不安な事があるのだろう、どうにかしてその不安を取り除いてやりたいが。
「勿論です、これからは家族――私達とは姉妹と言ってもいいでしょう。貴女に困った事があれば、私達が必ず手を差し伸べましょう」
俺達の情事を静かに見守っていたマリーがそう答えた。
「ワタクシ達が貴女を助け、貴女がワタクシ達を助ける。お互いを助け合うのが『家族』だと教わりましたわ」
プリムラも続く。では俺が締めの言葉を紡ぐかな。
「リラ。俺は君が幸せになるように努力しよう。何か不安があるなら、それを取り除く手助けをしよう。だから何も恐れる事は無い。皆で家族になろう」
「うん……家族になる……ありがとう……」
そう言ったリラの目から涙が零れ落ちた。俺は彼女が泣き止むまでずっと抱きしめていた。冒険者ランクCで「強者」と呼ばれるリラだが、抱きしめたら壊れてしまいそうな程か細い体だった。どれだけ強くとも
と、良い話で終わろうと思ったのだがそうは
「早速で悪いが、俺を助けてくれるか?」
「……? 助ける……?」
リラは一体何を言っているんだ? と思っているだろう。それは仕方がない、初めての場面だしな。
「あら? 助けて欲しいなど、まるでワタクシ達が悪者みたいではありませんか?」
「ええ、悲しくて涙が出てしまいそうです……」
覚悟はしていた。心構えもしっかりしていた。しかし現実に起こると、こうも恐ろしい出来事だとはな……主に体力的にな。
ベッドで抱き合う俺達に声を掛けたのは勿論、マリーとプリムラだ。それも既に衣服を脱ぎ去り臨戦態勢で。
「……次は……マリーと……プリムラの……番?」
察しがいいですねリラさん。
「それだけではありませんよ?」
「ええ、その通り。我が家の規則で「皆で仲良く」というものがありますわ」
「……皆で……仲良く?」
そんなものを制定した覚えはないのだが……まあ、それについては自業自得なので、今更何も言うまい。それに仲良くする事自体は何も間違ってはいないしね。
「……レオン……大丈夫?」
全てを察したリラが優しい言葉を掛けてくれた。おおっ! ここに俺の味方が? 嬉しくて涙が出そうだよ。
「勿論、大丈夫ですよ」
力強く返答するマリー。何故、君が答えるんだい?
「そう……頑張って……」
はい、あっさりと味方はいなくなりました。更に、プリムラが素早くベッドに侵入して、俺の腕をホールドした。マリーはというと、俺の上に跨り、妖しくも美しい笑みを浮かべていた。
「お疲れでしょうから、旦那様はそのままで大丈夫ですよ」
それでも休憩を挟みましょうとは言わないんですね、マリーさん。
良いだろう。俺も『切り札』を使わせて貰うとするか。まさか先程読んだ本の内容が役に立つ事になるとは思わなかった。日頃の行いが良かったと信じたい。
男のプライドを賭けた、長い夜が始まろうとしていた。
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