第18話 三度、現れる強敵~流石に慣れてきたな、この展開にも
手合わせを終えると、真っ先にマリーとプリムラに怒られた。それはもう鬼の形相で
「あくまでも手合わせですよね? 果たし合いでは無いのですから、手加減を忘れないで下さいっ!」
「い、いや……あの……先に魔法を使ったのは、リラさんですし……」
「言い訳無用ですわっ! あなた様ならもっと
それを言われると辛い。
「はい……申し訳ございませんでした……」
因みにこの間、俺は正座させられている。そろそろ許して下さいませんか?
「……悪いのは……私だから……許してあげて?」
おお、ここで天からの助けが……まあ、そもそもの原因は君だがね。
「ふう……リラさんに免じてこれくらいで許してあげます」
リラの
「大けがをしないか、心配したんですからね?」
「心臓が止まるかと思いましたわ」
泣きそうな表情で二人が訴えてくる。あれ? 何だろう、この既視感は?
ああ、思い出した――と言うか昨日の事じゃないか? その時の俺のセリフは「済まないなマリー、プリムラ。次からこのような事が無いよう努力しよう」だ。
うん。怒られて当然だな。昨日と今日で同じ事を二度やらかしたわけだから。
マリーとプリムラを抱きしめる。未熟な自分を許してほしい。
そんな俺達を見つめるリラの表情が、どこか
さて、調査を再開しようとしたが、そこで重要な事実に
先程のリラとの手合わせの影響か、周囲から魔物の気配が消えてしまったのだ。まああれだけド派手にやり合えばそうもなる?
いや、それにしては静か過ぎる。これだけ見渡しの良い地形で、魔物を見つけられないというのはどういう事だ? 何だ? 物凄く嫌な予感がするぞ。漫画やアニメでこのパターンは何度も見た事がある……。
「これはっ⁉」
一番にそれの気配に気づいたのは俺だった。この世界に来てから何度か感じていたあの感覚は『魔力の放出』によるものだというのが俺の見解だ。
様々な検証の結果、この世界における生物としての強さ=魔力の総量であると俺は結論付けた。
恐らく
例えば先日森で戦ったオークやアサシンタイガーだ。あの二体と対峙する前に、強烈な圧力を感じた。あの二体の魔物は、「獲物」である俺達を威圧する為に「魔力の放出」を行ったとすれば色々と説明が付く。威圧し、動きの鈍った獲物を楽に仕留める為だとな。
付け加えるならば、先程リラが魔法を使おうとした時にも魔力の放出による圧力を感じた。魔法を放つ際にも「それ」が発生し、俺がそれを感じた為だろう。当然魔力の総量多ければ、それだけ遠くに尚且つ多量に飛ばせると思う。
魔力の放出について長々と
それは、抜けるような青空から突如として現れた。バサバサと羽をはばたかせ、ゆっくりと大地に降り立った。
その姿は「
頭と体は
「何ですか⁉ この奇怪な魔物は⁉」
「わかりませんわっ! それにこの魔物から感じる嫌な感覚は何ですの?」
マリーもプリムラも、こいつから発せられる強烈な圧を感じているようだ。
「リラ。君はこの魔物に見覚えは?」
「……私も……初めて見る……」
リラも面識無しと……この周辺には生息していないだけなのか、それとも「存在していなかった」のか。気になる事は山ほどあるが、まずは目の前の危険を排除しなければな。
「取り敢えず、奴を『
仮称『
「全員退避だっ‼」
俺がそう叫ぶと同時に、奴の口から炎が噴き出した!
全員、何とか回避は間に合ったようだな。しかし、困ったぞ。あの巨体だ、接近戦は危険と判断する。かと言って距離を取れば炎のブレスが飛んでくる。まずいな……取り
そう思って皆に指示を出そうとしていた所、奴が空へと駆け上がった! まるで空中を疾走している様な軽快さだ。そして状況は最悪に近くなってしまった。理由は単純で、上空に向かって攻撃する手立てが少ない。というより、魔法で攻撃するしかない。しかし奴の飛翔速度次第では命中させるのは困難を極めるだろう。
マリーは敵の攻撃を華麗に回避し、すれ違い様にナイフによる反撃も行っていた!
斬撃は奴の胴体を切り裂き、出血させた。よし! 防御力はそれ程でもない、時間をかけて地道に攻撃を続ければ……。
そんな俺の考えを否定する事象が発生した。何と奴の傷口がみるみる
おいおい、
奴はその後も上昇、急降下攻撃を繰り返した。二度目以降は、全員冷静に回避していく。誰も当たらなかったが、それでも奴は繰り返した。ひょっとして奴は知能が低いのか? もうしそうなら、色々とやりようはある。
よし。そうと決まれば奴が無駄な攻撃をしているうちに、何か攻略の手口を見つけるとしようか。
……覚悟を決めるか。俺は
すると敵の魔力の流れが知覚出来た。魔力は血液の様に全身を廻っている。そして一際大きな魔力の塊を発見した。
胴体の中心にあるソレは恐らく『心臓』だ。そこを潰せば奴を倒せるに違いない。
それを確認して、俺は眼に魔力を集中させるのを止めた。くっ……視界がぼやける……それに頭もフラフラしているな。眼に魔力を集中させた反動だろう。覚悟はしていたが……これはキツイな。しかしぼーっとしている場合ではない。俺は頭を振り、何とか平常通りに戻す。
何はともあれ、攻撃しなければ始まらない。試しにと『風の刃』を放ってみた……だが奴に大した傷は与えられなかった。
ん? 妙だな? マリーの付けた傷より小さかった。それなりの魔力を込めたはずだが? もしや……魔法に耐性でもあるのか?
だがそれを検証している暇は無い。今は奴を倒す事に集中しなければ。そして観察を続けていくうちに、有効であろう攻撃方法を幾つか考案できた。大きく分けて、方法は二つ。
・強力な攻撃を加え、急所である心臓を破壊する事。これをプランAとする。
・奴の再生力を上回るダメージを与え続ける事。これをプランBとする。
プランAは、俺かプリムラの攻撃力なら可能だろう。但し、作戦の性質上敵に最接近しなければならず、鋭い牙や爪の攻撃を受ける危険が伴う。
プランBは、四人でヒットアンドアウェイを繰り返せば、比較的安全に戦う事が出来る。だがどれだけ時間が掛かるか不明だ。
しかし、長期戦になればなるほど不測の事態が起こり、負傷者を出す確率が高まる。なので出来ればプランBは使いたくないのが本音だ。
また二人を悲しませたり怒られたりするだろうが、プランAでいこうか……と思ったその時、視界に必死で攻撃を繰り返すリラの姿を
不意に先程のリラとの会話を思い出した。ふむ、予定を変更して彼女に倒してもらうとするか。強くすると約束してしまったことだしな。
マリーとプリムラは、敵にダメージを負わせる事は出来ている。だが、リラは
「リラ、魔力を体に纏わせる事は出来るか?」
「……やってみる」
リラが体に魔力を纏わせ切りつけると、先程までよりも大きな傷を付ける事に成功した。
「……出来た」
ぶっつけ本番で成功させるとは、流石のセンスだな、一度の説明でモノに出来るとは思ってもいなかったよ。そして、大きな傷を付けた事により、氷の魔剣の効果で傷の直りが遅くなるのが判明した。思わぬ収穫だな、これなら想定よりも早く仕留める事が出来る。
それにしても、この体に魔力を纏わせる「身体強化」は、メジャーな方法ではないのか? マリーもプリムラも知らなかったみたいだしな。後でリラに確認しておこう。
「よし! リラを中心に攻めるぞ。マリーとプリムラは足を重点的に攻撃してくれ! リラは敵の隙を見逃さないように!」
「「はいっ!」」「……わかった」
作戦通りに俺、マリー、プリムラは奴の足を攻撃していく。それによりバランスを崩しよろける。その隙を逃さずリラが何度も切りつける!
しばらくこのパターンで攻撃していたが、流石に奴もこの状況を嫌がったのだろう、空に逃げようとする場面が訪れた。その時を待っていた! 俺はすかさず『風の刃』を
「リラ! 首元を狙え!」
大きな隙を晒したこの時を逃さず、俺はリラに指示を飛ばした。
首を切られた事により、大量に出血し、
「一斉攻撃だ! 畳み掛けるぞ!」
マリーが尻尾を切り落とし、プリムラが後ろ足を両断し、俺が槍で横腹を貫き、リラが喉元に魔剣を突き刺した!
「リラっ! 合わせろっ!」
「……っ!」
俺は腕にありったけの魔力を込め、奴の心臓目掛けて槍を突き刺した! 俺の突きと同時にリラも魔剣を突き刺した。手応えあり……
俺の『眼』で確認すると、奴の体内で魔力の流れが確認出来なくなった。それは生命活動が停止したと同義だ。
「……死んだようだな……俺達の勝ちだ」
俺がそう言うと、マリーとプリムラが歓声を上げた。
「やりましたね、旦那様!」
「このような強大な敵を倒せるなんて、ワタクシ達の連携の
はしゃぐ二人とは対照的に、リラは魔物の
「……倒せた……の?」
「ああ、リラのお陰でな」
俺がそう言うと、嫁さん二人も同意する。しかしリラ本人は首を横に振った。
「……マリーとプリムラが……隙を作ってくれたから……それに……レオンのアドバイスが無ければ……私は何も出来なかった……」
「俺はほんの少し、背中を押しただけだ。倒せたのは紛れもなくリラの実力だ」
そう言って、俺はリラの頭をポンポンと撫でた。
「……ありがとう」
するとリラは笑みを浮かべ、抱き着いて来たのだった。俺の腹筋辺りで、マリーやプリムラを超える豊満な胸が「むにゅ」という音と共にひしゃげた。恐ろしい程の質量と肉感。素晴らしい……。
うむ、俺はずっとこのままでもいいのだが……後ろにいる嫁二人から発せられるプレッシャーが怖い。
「今日はこれで撤収しよう。これ以上の戦闘は危険だ」
大きな怪我は無いが、先の戦闘での
「それがよろしいかと思います」
「わかりましたわ」
「……わかった」
三人から異論は出なかった。皆の言葉の端々からは疲労が滲み出ていた。ここが潮時だろう。
俺達全員、勝利の余韻に浸っていた事もあって油断していた。その為、この戦いを遠くから観戦していた存在には、最後まで気付く事は出来なかったのであった……。
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