第17話 先輩冒険者の実力は如何に?
「マリーです。よろしくお願いしますね」
「……うん……よろしく」
「プリムラですわ。よろしくお願い致します」
「……うん……よろしく……ですわ?」
挨拶自体はあっさりとしたものだったが、姦しいとは良く言ったもので、道中の会話は途切れる事が無かった。会話の内容は、取り留めない日常会話が殆どだ。趣味や好きな食べ物、髪の手入れの仕方、どんな魔物を倒したとか、武器の手入れの仕方等、年頃の女性らしい会話内容だった……一部物騒な話題もあったが、気にしてはいけない。
そんな会話の中で、彼女が「Cランク」である事が判明した。彼女の
実際は会話というか、マリーとプリムラが質問し、それにリラが答えるといった感じだな。
その事から推察するに、リラは自分から発言するのが苦手な様子。とは言え会話自体が嫌いなわけではなく、二人の問いにはしっかりと答えている。
周辺の地理に詳しいという事で、リラに案内を任せた。と言っても森と違い見晴らしの良い地形なので、主に
そんな話をしていたら、遠目に魔物を発見した。
「……あれが……さっき話した「チャージホース」……という魔物……凄い勢いで突撃してくるから……それを避けて攻撃すれば……大丈夫」
と、普段通りの眠たげな表情のまま、淡々と告げるリラ。簡単に言ってくれる……まあ、俺達の実力を評価しての事だと思うが……。
現れたチャージホースの数は4頭。一人一頭の計算だな。
俺達の姿を見つけたチャージホースの群れがこちらに向かって突撃してくる!
突撃の速さは中々のものだが、アサシンタイガー程では無いな。回避と同時に腹部へと反撃の槍を突きこむ! 衝撃でバランスを崩し、地面に倒れこんだ所に、止めの一撃を入れ絶命させた。
さて、他がどうなったかと周りを見たが、特に苦戦することも無く、倒せたようだな。
マリーとリラは、
「……うん。ハンナの言ってた通り……とっても強い」
リラが一言そう呟いた。表情の変化が少ないのでわかりにくいが、嬉しそうであると辛うじて読み取れるな。
「リラさんも素晴らしい手際でした」
マリーがリラをそう評した。この若さで、しかもソロでCランクになっているのは
リラが倒した魔物を見てみると、綺麗な太刀筋で一刀のもとに首を切り倒しているが、よく見ると傷口が僅かに凍結している? これはもしかして、
「リラさん、貴女の持つ剣は特別な力があるのですか?」
「そう……これは氷の魔力を……持った魔剣……ダンジョンで見つけた」
魔剣! 何と心躍る響きだ、俺も欲しいぞ! ダンジョンに行くのは確定事項だな。町に帰ったら早速ダンジョンについて調べなければ!
「魔剣ですか、私は初めて見ました」
「ワタクシは城の宝物庫で幾つか見かけた事がありますわ」
あっ……こら。城とか宝物庫とか、余計な事は言うな。そこを指摘されたら説明が面倒だ。
しかし、リラは特に興味が無いのか、何も指摘してこなかった。後でプリムラには一言忠告しておかなければいかんか。
その後も順調に魔物を討伐していく。その中でアイテムボックスの事は話しておいた。ハンナの幼馴染という事もあるし、実際に行動を共にして信頼できる人物だと判断したからだ。
話を聞いたリラは「……アイテムボックス……
(与えたのはボクだよ? もっと感謝してくれてもいいんだよ?)
何か戯言が聞こえた気がするがスルーだ。
次に見つけた魔物は「ダッシュバード」と呼ばれる鳥型の魔物だ。
鳥と言っても、羽を使って空を自由に飛ぶわけでは無く、ダチョウに似た魔物だ。と言っても、元の世界のダチョウより幾分か大型だがな。しかしこの魔物、脅威になる存在を確認すると一目散に逃げ出すのだ。その為、特段狩る必要のない魔物だと思ったのだが、何と高級食材として非常に人気なのだそうだ。その味は舌の肥えた貴族連中すらも虜にする程らしい。驚くことにダッシュバード狩り専門の冒険者もいるとか。
そんな奴どうやって倒すのかと聞いたら「罠を張って、掛かるのをひたすら待つ」と言われた。知識や経験も重要だが、何より『運』が必要とか。珍獣ハンターとでも言えばいいのか? 正に一攫千金だな。
難易度が高いと言われたら、挑戦したくなるのが男の
一羽は倒す事に成功したが、それ以外は既に遠くに逃亡していた。今から追いかけるのは骨が折れるな。まあ、一羽倒せれば十分か。
戦利品を手に皆の下に戻ると、拍手で迎えてくれた。
「素晴らしい速さでした」
「ワタクシには、旦那様が消えた様に見えましたわ」
愛しの嫁に褒められるのはいいものだな。
「……本当に……人間?」
リラには人外扱いされてしまった。まあ、常識外れな動きをした自覚があるだけに何も言えんな。
その後もリラと協力して魔物を倒していった。協力と言っても、最低限お互いの邪魔をしない程度だがな。初対面の相手と息を合わせて連携しろなど、無理難題と言うものだ。
戦闘が終わり一息付いていた時に、不意にリラが話しかけてきた。
「……レオン」
「はい? どうかしましたか?」
「……私と手合わせして」
何を言い出すかと思えば、手合わせだと? 今は安全だがここは魔物の生息地域、いつ襲われるか分からないんだ。断ろうと口を開きかけたが、
「……」
俺を見つめるリラの瞳に、強い意志を感じた。当然リラだって今が危険な状態だと理解しているはずだ。それにも拘らずこのような提案をしてきたのだ。彼女にとって俺との手合わせは重要な事なのだろうと考えた俺は、
「……マリー、プリムラ。周囲の警戒を頼む」
断ると思っていたのだろう、俺に了承の意思がある事に驚いた二人だったが、何も言わずに行動してくれた。全く、俺には勿体無い位、出来た嫁さんだ。
「……用意はいい?」
「……何時でもどうぞ」
次の瞬間、キンッという甲高い音が辺りに響いた。リラが振るった剣を俺が槍で受け止めた音だ。彼女の戦闘を見ていたので分かってはいたが、恐ろしく速い踏み込みだ!
その後もリラの攻撃が続く。俺はそれを回避し、受け流し、防御に徹した。
彼女の攻撃は速く、鋭く、正確だ。フェイントも巧みに使い、蹴りなどの体術も織り交ぜてくる。間違いなく『強者』である。俺も思わず笑みを浮かべてしまった。強者との戦闘は楽しいなぁ。そう思ってしまうのは、男の子ならしょうがないよな?
守勢に回ってばかりでは申し訳ない。次はこちらから攻めるとしようか!
両足に力を入れ、腰を落とし、一気に距離を詰め鋭い突きを繰り出した。リラは素早く回避して反撃を繰り出そうとしたが、続けざまに突きを繰り出し反撃の機会を潰す! さて、休んでる暇はないぞ? 俺は「眼」に魔力を集中させた。
俺が槍を突く、リラがそれを回避、回避する場所を先読みして俺が攻撃を『置く』それを繰り返した。やがてリラが回避しきれなくなり、剣で受け止めようとした。しかし受けた衝撃で数メートル吹き飛んだ、だが両足でしっかりと着地に成功した。ダメージは皆無のようだな。
「……読まれてる?」
流石におかしいと思ったのだろうが、「種」までは分からないようだ。
「……なら、次は……これ」
リラの纏う魔力が高まりだした。魔法を使うつもりか!
彼女の足元から頭上に向かって魔力が渦巻き始めた。やがて強風が吹き荒れ、そこに雪が混じり「ブリザード」を発生させた! 局地的とはいえ、ブリザードを発生させるとは、彼女は魔法使いとしても一流だな。
ブリザードのおかけで俺の視界は遮られた。更に低体温による身体機能の低下も狙った素晴らしい魔法だ。読まれているならそもそも読ませなければいい、素晴らしい対応能力だな。戦闘のセンスは抜群だ。普通ならこれで勝負あり……となるが、残念だが君の狙いは外れる事になる。
リラが攻撃を仕掛けてきた。吹雪で視界が封じられ、寒さで動けないと思っているだろう。回避されるはずがない――しかし俺は問題無く回避して見せた。
二度三度と攻撃を仕掛けるが、一向に当たる気配が無い。
「……どうして?」
思わずといった感じの呟きが口から漏れてしまったみたいだ。種明かしをすれば単純だ。前にも説明したが眼に魔力を集中するとその生き物の魔力の動きがわかる。その為「サーモグラフィ」の様に魔力のシルエットが浮かび上がり、視界が悪かろうがお構いなしと言うわけさ。この世界の生物は全て魔力を持っている為、この技術を身に着ければ色々と便利だな。それと体の周りを魔力で発生させた熱で覆う事により、低体温の予防もばっちりというわけだ。
とは言え、やられっ放しと言うのも面白くない。次はこちらの魔法を
イメージは『爆発』、具体的にはダイナマイトだ。魔力で爆発物の塊を作り出し、脚部に魔力を集中させ上空高く飛び上がる! 十メートル程跳躍した所で、真下に向かって『爆発物』を叩きつけた!
凄まじい轟音と爆風が巻き起こり、ブリザードを消し飛ばした!
後に残ったのは大きなクレーターのみ。これ、環境破壊だとか言って怒られないよな?
リラは爆風で吹き飛ばされて、地面に寝ころんでいた。うむ、今の魔法は『
どうやら彼女は気絶しているみたいだな。まさか爆発するとは思っていなかったはずだしな。俺は彼女の傍まで行き、起きるのを待った。
「……ん」
短い呻き声と共にリラが目を覚ました。彼女は自分が寝ころんでいる事、俺が目の前に居る事で事態を把握した。
「……負けた」
眉尻が下がり、がっかりした様子のリラ。普段表情の変化が乏しい彼女が、これだけ分かり易い表情をしたのだ。負けた事のショックが大きかったのだろう。
「……剣でも……魔法でも……負けた」
「貴女も十分強かったですよ」
「……自信……あったのに」
俺の慰めはどれ程効果があったのだろうか? しばらくぼ~っとしていたが、何事も無かったかの様に立ち上がり、服に付いた土埃を払った。
「怪我は無いか?」
「うん……大丈夫」
丁度良い機会なので、気になった事を質問してみた。
「防具はその服で大丈夫なのか? とても防御力があるようには思えないのだが……」
「……大丈夫。この服は……ダンジョンで見つけた……特別品。鉄の鎧より……頑丈」
何と! 剣だけではなく、鎧(?)までダンジョン産とはね。しかし、あれだけ派手に吹き飛んで露出した肌に傷一つ無いのはどういう原理なのだろう? それはそれとして益々ダンジョンに潜りたくなってきたな。
「……レオンに……お願いがある」
リラが俺の顔を見つめながら言った。
「お願い? 俺に出来る事なら協力しますよ」
短い期間だが彼女と共に行動し、手合わせもして、思いの外彼女の事が気に入ってしまったようだな。
「……私を……強くして欲しい」
強く……ね。実にシンプルなお願いが来たものだ。
「……私は……強くなりたい……もっと……強く……」
鬼気迫る表情で訴えてくる。余程の事情があるのだろう。出会って未だ間もないが、彼女の事は好ましく感じている。出来れば彼女の力になってやりたいな。
「わかった、リラが強くなれるよう力を貸そう」
「……ありがとう……レオン」
うっすらとだが微笑むリラ。この娘の笑顔をもっと見てみたいと思わせる、印象深い微笑みだった。
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