第11話 新たなる出会い 遂に登場、二人目の「嫁」

 小鳥のさえずりで目が覚めた。異世界でも鳥の鳴き声は変わらないんだなどと、どうでも良い事を考えてしまったよ。

 清々しい目覚めだ。こんなにも爽快な朝を迎えられたのは、いったい何時いつ以来だろう。その原因は当然、隣に感じる人のぬくもりに他ない。

 俺の腕の中にすっぽりと納まり穏やかな顔で眠っているのは、愛しの妻マリーである。この表情を見るに、どうやら不安はある程度解消されたようだ。

「ん……」

 マリーがゆっくりとまぶたを開ける。お目覚めのようだな。

「おはよう」

「はい、おはようございます」

 朝の挨拶もそこそこに、俺は不意を突いてマリーの唇を奪った。

「んっ……旦那様……」

 一瞬驚いた顔をしたが、直後、嬉しそうに微笑む。うむ、毎朝の日課にするかな。

 昨日の事は、マリーとのコミュニケーションエラーによるものだ。

 思えば彼女の趣味趣向など、何一つ知らない。それなのに夫婦とは……いや、この世界やマリーの住んでいた世界ではそういうものかも知れないが、俺の価値観とは合わない。お互いに歩み寄れればそれが最高だろう。折角異世界まで来たのだ、どこまでも理想を追い求めてやるさ。

「さて、準備が出来たら朝食を頂こうか」

 朝食中にハンナから「マリーさん元気になったね」と言われた。昨晩の夕食の時も何かを察して話しかけてこなかったからな。ハンナには心配をかけてしまった。

 ギルドに寄る前に市場に寄って、色々とマリーと買い物に興じた。マリーの居た世界の果物に似ているものを買ったり、服屋に寄ってマリーに似合う服を買ったりと、先日に引き続き「デート」を行った。マリーは終始笑顔を浮かべ、楽しそうにしていた。こうした何気ない日常の一幕が大事なのだと悟ったよ。

 適当な所でデートを切り上げギルドに向かう。中に入るとカウンターに居たハンナが俺達に声をかけた。

「レオンさん、早速で申し訳ありませんが依頼の話をしてもよろしいですか?」

 前置きも無くハンナがそう申し出た。ギルド内部を見渡すと、皆浮足うきあし立っている感じがする。昨日の話が事実なら、この町の崩壊が迫っているということだからな。当然か。

「昨日も言いましたが、依頼は周辺地域の調査。期間は三十日、依頼料は一日五千Gです」

 ふむ、随分とギルドは奮発したな。それだけ今回の件を重く見ているという事か。

「この依頼を受けている間は、基本的に他の依頼を受ける事はできませんので、ご注意下さい」

 当然だな。しかし素材の買い取りは可能だろうか?

「依頼中に倒した魔物の素材の買い取りはしてもらえるのですか?」

「勿論可能です。さすがにそこまで禁止にはしませんよ」

 苦笑しながらハンナにそう言われた。まあ、当たり前の事だが、一応確認をしたまでだ。

「それでは依頼に向かいますが、基本的にはこちらの自由で構わないですね?」

「はい、ただ一か所に集中するのではなく、色々な場所におもむいて欲しいと思います」

 周辺の地理の把握の為にも、色々と見て回るのが良いだろう。

「了解しました。それでは行ってきます」

「気を付けて下さいね」

 ハンナに別れを告げて、町の外へ出た。




「今日は何処に向かうのですか?」

「昨日と同じ場所――森へ向かう。我々は揃って土地勘が無いからな。闇雲に探すより効率的だろう」

 マリーの問いに、俺はそう答えた。現状では手掛かりと呼べる物は森で出会ったオークしかない。ならば他に手掛かりが無いか、もう一度調べた方がいいだろう。

 さて何から始めようかと思ったその時、指輪が光った。

 今迄何のリアクションも無いから忘れていたが……ガーベラに何かあったのだろうか?

 その場から移動し、人目に付きづらい場所にて、ガーベラ――ノートパソコンを展開した。

「何かあったのか? ガーベラ」

『はい。連絡事項がありましたので、ご報告致します。』

 連絡事項ね、さて何の事だろう。

『冒険者ランクCへの到達に伴い、召喚権が一回付与されます。』

 それは朗報だ。パーティの強化は急務だったからな。ナイスタイミングと言わざるを得ないな。

 ……うん? 何故、今なんだ? 冒険者ランクが「C」に上がったタイミングなら、昨日中にアナウンスがあってしかるべきだろう。一日ずらす意味があったとでもいうのか?

「その報告が昨日ではなく、今日だったのには何か理由があるのか?」

『はい。昨晩に報告しようとしたのですが、お取込み中だったので、あとに回しました。確かこういう時は「昨晩は、お愉しみでしたね」と言うのが正しい作法だと記憶しています。』

 まさかその台詞を、この異世界で聞くことになるなんてな……。しかし、実際に言われる立場になってみると、何とも言えん微妙な感じだよ。反応に困るな。

「そうか。しっかりと配慮が出来る、素晴らしいAIだよ」

 そう答えるのが精一杯だったよ……。ガーベラは事実を述べただけだしね。

 それよりも、だ。念願の召喚権の追加だ。これを使わない手はない。

「よし、早速召喚しよう。マリーにも同席してもらいたい、一緒に例の空間へ転送してくれ」

『了解しました。転送を開始します』

 視界をふさぐ程の眩い光が放たれる。光が収まるとそこは神に呼び出された空間に移動していた。椅子とテーブルはそのまま残っていた。こちらとしてはありがたいが、神の奴……片付けるのが面倒になったな?

(そ、そんなことないよ~?)

 何か聞こえた気がするが、無視するとしよう。

 今のパーティ構成を考えるなら、近接戦闘に特化した者か、魔法を得意とする者かの二択だな。

 とは言え、現状魔法なら俺が使える。だがしかし、素人に毛が生えた程度の俺よりも、しっかりと魔法の訓練を積んだ者に任せるのがいいか。そうすれば俺も周りを見る余裕も生まれるし、フォローもしやすい……と。

 さて、今回はどちらでいこうか……その時、ふとマリーを見て「ある事」を思い出した。よし、今回はこれでいこう。

 :年齢――若い、但し成人に限る

 :職業――騎士、可能ならば姫騎士

 :容姿――端麗

 :スタイル――抜群

 :その他、備考――戦闘技能有り・プライドが高い・慈悲深い

 何故「姫騎士」なのかというと、マリーの事を思って、というのが第一だ。

 職業病なのだろう。マリーが俺の世話をしようとしてくれるのだが、俺がそれに慣れてなくて断り、一人でやってしまうので少し寂しそうにしているのだ。やりたい事が出来ないのはストレスだろう。世話を「される」事に慣れた嫁を召喚すれば、マリーの精神安定上よろしいかなと思った次第だ。その他・備考に関しては、完全に俺の趣味だ。傲慢ごうまんで人を見下すような者は御免だからな、他人を思いやれる慈悲の心を持ち合わせた人物が良い。

 普通なら「そんな奴いねぇよ」の一言で切り捨てられて終わりだ。そこで俺の考案した「嫁召喚」が真価を発揮するわけだ。

 無数の世界に住む無数の人々。それだけの人数がいれば、俺が望む「実在しない」と思える条件に合う女性も存在するさ。

 たかだか数十億の中から理想の嫁を見つけるなんて、確率が低すぎたんだ。うん、そう思う事にしよう。

「出でよっ! 新たな『嫁』よ。その姿を俺に見せよ!」 

 俺はゆっくりと「召喚」ボタンをクリックする。以前から考えていたキメ台詞だ。雰囲気があって良かろう? さてどのような人物が現れるかな?

 足元に魔法陣が現れる。そして眩い光を放つ召喚エフェクト……これ必要か?

(演出は大事だよ!)

 まあいい。光が収まり、そこに現れた人物は、きらめく豊かな金髪とティアラが特徴的で、それを縦ロールにまとめ上げている。ドレスの様な服に、急所を守るように鉄板が付けられている――ドレスアーマーと言うべき物を着込んでいた。しかし一番目を引くのは、手に持った身の丈に迫る巨大な剣。

 やや幼さが残る顔立ちをしているが、意思の強そうな凛々りりしい眼差し。そして思わず視線が吸い込まれてしまう、素晴らしき胸の二つの膨らみ……マリーに勝るとも劣らない「爆乳」だ。外見は文句なしだが、さて……ここからが本番だ。

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