第3話 初めての『召喚』~現れたのは銀髪メイドさんでした~

「……美しい」

 目の前に現れた女性を見て、思わずそう呟いてしまったのも無理はない。先ず目を引いたのは、その長くきらめくような銀髪。そして落ち着いた感じのメイド服。クラシックタイプというやつかな? 加えて「圧倒的」と言えるであろう胸の大きさ。グラマーという言葉では言い表せぬ程、スタイルが良い。漫画やアニメの中から出てきたような――そんな言葉がピッタリの存在がそこにいた。

「あの、すみません……ここは何処でしょうか? 私は御屋敷に居たはずですが?」

 ほう? 突然の出来事にも取り乱さず、冷静に状況を理解しようとしている。この時点で彼女に対する評価は上がった。

「突然このような所に呼び出して申し訳ない。私の名は礼音と申します。君をここに連れてきた張本人です。実は君にお願いがあってここに呼ばせてもらいました」

「お願いですか……」

 俺の言葉を聞き、彼女の視線が少々鋭さを増した。ふむ、警戒レベルが一段上がったな。まあ、突然拉致されてお願いがあるなどと言われたら警戒するのは当たり前か。先ずは警戒を解くのが肝要だ。

「立ち話もなんですから、座って落ち着いて話をしましょう……すまないが、椅子とテーブル、それに何か飲み物――紅茶でいいだろう。用意してくれ」

 俺は自称神に向かってそう言った。

「やれやれ……人使いが荒いねぇ……」

 面倒くさそうに言うが、律儀に要望したものを用意する。それと、お前は「人」ではないだろうが。

「なっ? 突然椅子とテーブルが? それに神?」

 突然何もない所から椅子とテーブルが出現すれば、警戒よりも動揺が強まるか。

「こちらの話を聞いた後、君の疑問・質問には必ず答えると約束します」

 そう言って俺は彼女の向かい側の椅子にすわる。更に営業スマイルも忘れずに……大丈夫だよな? 不信がられていないよな?

「……分かりました。ひとまずは貴方の言葉に従います」

 ようやく彼女は椅子に座った。目線の高さが同じになる。彼女は真っ直ぐに俺を見ていた。綺麗な瞳だ、吸い込まれそうとはこういう事か。

「先程も名乗りましたが、私の名は礼音。君の住んでいた世界とは違う別の世界の住人です」

「別の世界の住人……成程、発声と発音が違うので疑問に思っていましたが、納得ですね」

 俺の唇の動きからそれを察するか。そのような技術も持ち合わせているとはね。益々彼女の評価が上がるな。

「もし良ければ貴女の名前を教えては頂けませんか?」

「申し遅れました。私の名はマリーと申します」

「マリーか……いい名前ですね。さて、故あって私は今いる世界とは別の世界に赴く事になったのだが、その旅路に是非君にも同行をお願いしたい。それに加えて私の「嫁」になって欲しいのですよ」

「成程、別世界での旅のお手伝いと嫁に……嫁?」

「うむ、嫁だ。むしろこちらの方が本命といっても過言ではないな」

 その為に異世界を救うなどという面倒事を解決する決断をしたのだから。

「嫁ということは……私を娶りたいという事ですか? 初対面の女性に向かって言う言葉ではないと思いますよ?」

「まあそれは否定しない。何故君にこのようなお願いをする事になったのか、一から説明させて欲しい」

 そうして俺はマリーにこれまでの経緯を説明した。

「はあ……」

 それ程理解は出来ていないのだろう。困惑した表情を浮かべる女性――もといマリー。

 ここで物語冒頭の部分に戻る訳だ。

「要点は二つ。一つ目は、異世界を救う過程にて、俺のサポートをして欲しいという事。二つ目は、俺の嫁になって欲しいという事。この二つを理解できていれば問題ない」

 大まかな説明はこれで終わりだな。となれば次は、

「……質問してもよろしいですか?」

 当然、彼女の質問タイムになるわけだな。

「勿論。何でも聞いて下さい」

「私にサポートをして欲しいとの事ですが、具体的には何をすればいいのでしょうか?」

「そうだな……最初は身の回りの世話を頼む事が多くなるだろうな。勝手の分からない異世界で私一人だと心許ない、是非ともプロの力を借りたいと思ってね」

「最初は……という事は、徐々に仕事が増える可能性があると?」

「当面の間は、冒険者として生計を立てていくつもりだが、最終的にはそれなりの地位と権力を持つことになると予想している。そうなれば当然面倒な仕事も増えてくるだろう。そうなった場合に私一人では処理しきれない仕事を頼む事になると思う」

 地位や権力が大きくなれば、それに付随して仕事も増えるのはどの世界でも変わらんだろう。そこは割り切るしかないさ。

「成程……では、もう一つの嫁になってほしいというのは? 先程も言いましたが、初対面の女性に言う言葉ではないと思いますが?」

「確かに初対面だが、私は他の誰でもない貴女を嫁にする為にここに来てもらったのだ」

「どういう事でしょうか? 私の事を事前に知っていたと?」

「ふむ、それについては、俺の特殊能力――『スキル』と言えばいいかな。これについて説明すれば理解できると思う」

 下手に隠し立てするのは良くないな。ここは事細やかに説明するのが吉だ。こうして俺はマリーに『嫁召喚』に関することを説明した。

「……つまり、私が嫁にしたいと思う女性を検索した結果、君が現れたということだ。私としては、文句なしにキミが魅力的で素敵な女性だと思うよ。是非とも妻になって欲しい」

「突然その様な事を申されましても……困ってしまいます……」

 そう言って頬に右手を添えるマリー。この反応から察するに、否定的という訳では無く、ただ単に困惑しているだけと見た。ここは攻め手を緩めず一気呵成いっきかせいに突撃あるのみだ。

「嫁の件は今すぐに回答しなくてもいい。当面の間、一緒に生活をしてその後に答えを出してくれればいい。私も最大限、君の好みの男性になれるよう努力する。それでも嫌というなら潔く諦めよう。ただその場合でも、異世界を救う仕事は継続して手伝って貰えると嬉しいがね」

 決して答えを急がせてはいけない。それと返答を強制してはいけない。そして相手にはできるだけ選択肢を多く提示する。俺が交渉事をする際の三か条だ。と、まあこんな所か? いや、ダメ押しといこう。

「それ以外の選択肢として、今までの話を全て無かった事にして、元の世界へ送り返す事も出来るよ。そうすれば今迄と同じ生活に戻れる。どうする?」

 元の生活に戻ると言った瞬間、マリーは肩をビクッと震わせた。このリアクションは……何やら訳ありの様子。

 後は彼女の返答を待つか? マリーは目を閉じて思案しているようだ。迷っているのか? ならばこれでトドメといこうか。

「私の元に来てくれるのならば、君の意思を尊重し君のやりたい事を手助けする。絶対とは言えないが君を幸せにしたい。勿論その為の努力もする。もし現状に不満があるのなら、この手を取りたまえ。私が出来るのは機会を与える事だけだ。その機会を掴むのは君自身だ」

 私は立ち上がり、彼女に向って手を差し出した。ふむ、特殊な状況だが、俺からの「プロポーズ」という事になるか……流石に緊張してきたぞ。断られたらどうしよう……。

 不安に押しつぶされそうになりながら、俺はマリーの顔を見つめ続ける。マリーはまだ目を瞑っていた。さあどうなる?

 今、彼女の頭の中では俺と共に来る事と、元に戻る事とを天秤にかけているのだろう。どちらが自分にとってプラスになるか、それを見極めようとしている。

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