第2話 続・プロローグ 長いがもう少し付き合ってくれると幸いだ

「まあいい、それではこちらの要望を伝えるぞ」

 ・呼び出せる回数は、一定の成果を出す毎に増える

 ・召喚に応じる可能性のある者を優先する

 ・召喚された側に拒否権が存在する

 ・召喚数の上限はなし

 こんなものかな? 最低限これだけの機能は欲しいというのを提示する。

「ふむふむ……成程ね。それで、この『一定の成果』はどうやって判断するの?」

「それは……召喚システムに人格を宿すことはできるか? AIと言えば分かるか」

「うん、問題ないよ。成程ね、その辺りは流石現代人というべきだね。ちなみに、もし出来ないって答えたらどうするつもりだったの?」

「その時はお前に逐一ちくいち確認してもらい、判断を下してもらうつもりだった」

 当然だろう。こちらに丸投げして後は知らんといった態度なぞ許すわけながかろうが。

「うわぁ……それは面倒臭いなあ。まあいいや、それじゃあ次。この『召喚に応じる可能性のある者を優先する』というのは?」

「それは読んで字のごとくだ。いくら条件に合う者がいても、そもそも召喚に応じ、異世界に来る気が無い者ならば意味がなかろう」

「強制的に召喚しちゃえばいいんじゃない?」

 全く……この『神』は人の心の機微きびという物が理解出来ないのか? 無理か。『神』だしな。

「そんな事をして恨みでも買ってみろ、仕事の邪魔をする程度ならマシな方。最悪裏切って敵対する可能性だってある。冗談ではないぞ」

 そもそもの話、俺の嫁(予定)を選ぶために召喚するのだぞ? 常にそんな恐怖を抱えながら一緒に暮らさねばならないなどありえん。

「次に、この『拒否権』だけど……必要? これ」

「むしろこれは最重要といってもいい。自分の意思で物事を決める事の出来る者が良い。唯々諾々とこちらの言うことを聞くだけのイエスマンなど会社の部下としてもお断りだ。しっかりと自分の考えを持ち、時には反論し自分の意見を押し通す位の気概きがいを持った者が望ましい」

「何というか……それってさ、夫婦というよりビジネスパートナーだよね……」

「うむ。俺の好みというか……最早、職業病なのだろう。共に協力し、お互いを支え高めあう、そのような関係を築ける女性を求めてしまうのだ」

 こればかりはもうどうにもならないな。まあ、これも俺の個性だと思っておこう。

「だが、こう、なんというか……仕事が終わり、疲れて家に帰ってきたら癒しが欲しいではないか。しかしこの世界で俺の理想像の嫁を探すと、家でも仕事の話しかしなさそうで……それでは寂しいじゃないか」

 自分で言っていて悲しくなるな。俺も頭の中では理解している。そんな都合の良い『嫁』など居ない、という事くらいはな。だが理想を追い求めて何が悪い。

「本当にキミは面倒臭いね……それで最後のやつは、読んだそのままだね。なに? ハーレム願望でもあるの?」

「これこそが、先の懸念を払拭できる最高のプランだ」

「どうゆうこと?」

「つまり、様々なタイプの嫁がいれば、仕事が上手くいかず、何かアドバイスが欲しい時。ゆっくり過ごし、癒しが欲しい時。体を動かしストレス発散したい時……などその時その時で最適な嫁と過ごす……最高ではないか」

「……傲慢というか、男のエゴというか。でもそれって愛人でも囲えばいいんじゃない? 今のキミなら可能でしょ?」

「愛人を囲いますと言って、何も思わない嫁がいると思うか? 修羅場になり刺されるなんて御免だ」

 それに自分で言うのもアレだが、それなりの知名度があったからな、スキャンダルの種を蒔くわけにはいかなかった。特に女性関係はパパラッチの格好の的だ。慎重にならざるを得なかった……のだが、慎重になりすぎてそのままズルズルと今日まできてしまった。

「これから行くことになる世界は、その辺はどうなのだ? 一夫多妻が当たり前の世界か?」

「一夫多妻は当たり前だね。珍しいけど多夫一妻もあるよ。というか君の世界が少数派だよ? 一夫一妻なんてさ。全世界からみればね。まあ、命の危険が少なくなれば自然とそうなるのかな?」

「その世界はそれ程に危険なのか? どんな世界か詳しく聞きたい」

 こいつからどれ程の情報が得られるかわからんが、さすがに事前知識無しでは話にならん。

「ん~……といっても何について話せばいいのかな?」

「基本的な情報でいい。文化、技術レベル。生活水準。魔物や魔法の有無。国の統治の仕方。それと、その世界特有の事情だ」

 早い話、今いる世界との違いを把握すること。それさえ知っていれば色々とやりやすい。

「おっけー。キミに分かりやすく説明すると、所謂、剣と魔法のファンタジー世界だね。文化・技術レベルは中世……キミの世界で言うと、大体五百年位前だね。魔法の技術レベルは高いけどその反面、科学などの学問全般は低水準といえるね。まあ、魔法が便利で万能だから、全てを魔法で解決してしまえ……みたいな感じかな。それと、統治は王を頂点とした貴族制が一般的だね。後は、エルフやドワーフ、獣人など様々な種族がいるよ。ああそれと、魔族もいるね。ちなみに魔族と魔物は別種族だからね……こんなところかな? 後の細かい事柄は実際に行ってみればわかるよ」

 ふむ……確かに。基本的な情報は分かった、後は現地で調べるのが良さそうだな。ならば次は、

「じゃあ、いよいよ異世界に出発だね」「では、早速召喚魔法を試してみるか」

「え?」「なに?」

 こいつは何を言っているんだ? まさか事前の調整も無しに、ぶっつけ本番で異世界に送るつもりか?

「先ずは実際に召喚して、何か不備がないか検証するのが先決だろう。今なら不備があった場合、お前が修正することが可能だろう?」

「それは勿論出来るけど……慎重だねぇ」

「それは性分というものだ。この性格は一生治らんだろう。さて、それでは頼む」

「はいはい、それじゃあいくよ?」

 そう言うと、神がまばゆい光を放った。

「はい、付与は終わったよ。後は君の望むように発現するよ」

「何と言うか……あっさりとした感じだな」

 面倒な手続きが無いのは有難い。さて、望むようにね……これから生涯付き合っていく能力だ。ならば使い慣れた物がいいだろう……つまり、これだな。

 頭の中に思い描くと、俺の手の中に見慣れた仕事道具――ノートパソコンが出現した。

「ノートパソコンとはね。まあいいけど、異世界には無い物だからね。見つかれば、多分騒ぎになると思うよ?」

「人前で堂々と使用するつもりはない。仮に見つかったとしても、特殊な魔法・スキルということで誤魔化しは利くだろう」

 さて、それでは早速試してみるか。

 電源ボタンを押し電源を入れる。するといきなりデスクトップ画面に移行した。当然だがこれは本物のノートパソコンではない。OSは搭載していないからな。画面には一つのアプリのアイコンがあった。アイコンをクリックして、アプリを立ち上げる。すると色々な項目を入力する登録フォームが映し出された。

「……それってさ、「履歴書」だよね?」

「原型はそうだな。実際はこちらで入力してそれに合う人材を検索する……求人募集と言うのが正しいかな」

 :年齢――若い、但し成人に限る

 :職業――メイド

 :容姿――端麗

 :スタイル――抜群

 :その他、備考――戦闘技能、戦闘経験有り

「とりあえずは、こんなところか」

 初めての召喚だし、細かい所も設定してみた。

「……なんでメイドさんなの?」

「右も左も分からない異世界で生活するサポートを頼む為だ。俺一人でも何とかなるとは思うが、できれば快適に生活したい。頼れる存在として最初の一人はメイドにすると決めていた」

「容姿、スタイル……まあ、キミの趣味にとやかく言うつもりはないけど。戦闘技能、戦闘経験有りね……これは確かにあると便利だね」

「モンスターや、盗賊・夜盗などがいるだろうからな。高度な戦闘力は必要ないが、最低限自分の身は自分で守れる程度の力は欲しい」

 当面の間は、冒険者(もしくはそれに近しい職業)をして異世界の生活に慣れる所から始めるつもりだからな。

「ところで、呼び出したのは良いが、言葉が通じない、異世界の文字が読めないなんて事にはならないだろうな?」

「その辺は抜かりなく、大丈夫だよ。これ以降に呼ばれる子にも付与するからね」

 基本的な事だが、重要なので念の為、確認を取る。

「では、始めるぞ……どの様な女性が現れるのか……」

 ふむ。今回は無かったが、召喚に際し何か掛け声とかあった方がいいか? こういうのは勢いも大事だ、次回からは何か考えておくとしよう。

 アプリに表示されている『召喚』ボタンをクリックする。すると眩い光が辺り一面を照らす。眩しさに思わず目を閉じる。そして光が収まり目を開けるとそこには一人の女性が立っていた。

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