第15話 東京でマブイをマジムンに獲られた人々


沖縄の夜空だなぁっとセレナは思った。


吸い込まれそうな深淵の暗闇のなかに、白い煙りような星屑が広がっていた。

手を伸ばせば届きそうな星々を眺めていると心がしだいに落ち着いてくるようだった。


流れるような星々と、遠くから聞こえてくる潮騒、いつしかセレナの頬の涙は乾いていた。

さらには、大きな三日月型の穴のもっと奥のほうから地球へ送られてくる何かを感じさせるようだった。


宇宙からエネルギーが注がれているのか、それとも、宇宙人から地球人へメッセージが送られているのか? そのメッセージは電気信号ではなく心に直接入ってくるようだった。


ワタナベさんは、星空を眺めながら口を開いた。


「話は、聞きました。あなたはジュリーさんに暴力をふるったそうですね。立派な犯罪です。傷害罪です。

でも、幸いなことにジュリーさんは、あなたが謝れば警察沙汰にはしないと言っています。このまま、黙って東京へ帰ろうとしているのかもしれませんが、それは許されることではありません。正義感の強いあなたには耐えられないことではありませんか?」


夜風がサアーっと吹いた。

セレナは何も答えることができなかった。しばらく黙って夜風に身をまかせていた。


「あなたには、特別な才能があるみたいです」ワタナベさんが静かに続ける。


「でも、その才能を何に使えばいいのかわからない状態です。人は誰しも役割を天から与えられて降りてきます。役割のない人はいません。


しかし、この宿に来る人たちは、みな、マブイ(魂)をどこかに落としてしまったんです。東京はストレスの多い社会です。満員電車に乗りたくなくても乗らなければなりません。


華やかな憧れの仕事に就けたとしても、そこには地獄の獄卒のような人たちばかり、イライラワジワジするようなことだらけです。


魂が悶々とする日々を過ごすことになります。東京は魂をすり減らします。人間が消耗される場所です。


そんな魂をマジムン(魔物)がヒョイっと、盗んじゃうんです。あなたのマブイもマジムンに取られてしまったのではありませんか? マブイを取り返してください」


「え? どうやって?」

セレナは思わずそう尋ねて、ワタナベさんの横顔を覗いた。


「明日、マブイ拾いのセッションをしていただきます。やんばるの森に入ってビジョンクエストをしていただきます。魂友をつくる宿ですから、同じ部屋の仲間と一緒に、マブイ拾いをしていただきます。


詳しくは明日、説明しますが、実は、同室の人は、同じマジムンに魂を獲られているんです。ですから、力を合わせて、そのマジムンと戦ってください。


幸いに、あなたには戦う気持ちが残っているようです。人生は戦いですからね」


「え? どうやって戦えばいいんでしょう?」


「お腹、空いてるでしょ? 宿へ戻りましょう。ビュッフェ式の料理ですが、あなたのぶんは大皿にまとめて残してありますから、一緒に食べましょう。お酒もありますよ。泡盛の上等な古酒です。これが、いけるんです」

そう言ってワタナベさんはニコリと笑って片目をつむった。


宿に戻り食堂に入ると、セレナはビックリして目を見張った。


流し台に両手をついてゲロゲロとしていう女性がいたからだ。その女性は「ごめんなさい。ごめんなさい」と何かをしきりに謝っているのだ。


何に謝っているのか、なぜ謝っているのかわからない。


酔っ払って、過去の記憶が湧いてきて、苦しんでいるようだった。PTSD(心的外傷後障害)のフラッシュバックかもしれないとセレナは思った。


その女性の背中をさすって「大丈夫ですか?」と言っているのはミキティさんだった。そして「ごめんなさい」を繰り返しながらゲーゲーしているのはジュリーさんだった。






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