第12話 魂友と出会える宿は不思議な場所


朝顔のような紫色の花と緑の葉がアーチ状のトンネルを作っていた。

ツルの伸びた緑の葉が一陣の風にサアッと揺れた。


ワタナベさんは、どんどんとトンネルの先へ歩いていった。

その後ろを、元気になった猫を抱いた女性が歩き、そのあとを宿泊客たちがぞろぞろと歩き、緑のトンネルを見上げて、ときおり、足を止めたりしていた。


セレナは「この花はなんという名前だろう?」と思いながら緑のトンネルをくぐっていった。


緑のトンネルを抜けると、ハスの葉におおわれた池が広がった。

ところどころに、大輪のハスの花が咲いていて、どこからともなく、高貴な香りがただよってきた。

ハスの葉の下には大きな錦鯉が泳いでいた。


ハス池の向こう側の一段高いところに山小屋風の宿が青空を背にして立っていた。

大きな丸太小屋がいくつもくっつけられたような不思議な形をしていて、白い出窓が赤ん坊の目のようで可愛く見えた。


宿のなかへ入ると薄暗い蔵のようでひんやりとした。


ワタナベさんがバタフライピー・ティをグラスに注いでみんなに渡していた。

青紫の冷たいハーブティが、汗をかいた体に染み込んでくるようだった。


「これは、恩納村で栽培しているバタフライピーですよ。そして、これはシークワーサーです」

とワタナベさんは、4つ切りにした小さな果実を右手で持ち上げた。


「この果汁をバタフライピーティに入れてみてください」

そういって、そばにいる人のグラスに2、3滴、シークワーサーを絞って入れた。

すると、青紫だったのが、鮮やかな赤紫に変わったのである。


「へぇ!」

と歓声があがった。


「リトマス試験紙みたい」

誰かがそんな感想を漏らした。


ワタナベさんが手を叩いて、みんなを注目させた。そして、話しはじめた。

「ウェルカムドリンクを飲んだら、それぞれ自分の部屋へ入ってくつろいでください。浴場は別棟にあります。食事は夜6時から、一階の食堂でとっていただきます。


このあとも、続々と宿泊客が入ってきます。

食事のあとは、全員で自己紹介タイムを取りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。


『魂友と出会える』というのが、この宿のコンセプトですから、魂の友を、ぜひ、見つけてくださいね。


あと、客室は4人組の相部屋になっています。

誰と相部屋になっても恨みっこなし。チェンジはできません。

なぜ、その人と相部屋になったのか、その意味を自分なりに考えてみてください。


そこに、神さまからのメッセージやレッスンがあるはずです」



そう言って、ワタナベさんはニッコリと満面の笑顔を浮かべた。

ワタナベさんは壁に部屋割り表を貼り出した。


そこに、自分の名前を探す人たちが群がった。


さっそく自分の部屋へ移動する者や、まだ飲み足りないとバタフライピーティをおかわりする者たちの間をぬって、ワタナベさんはセレナのところへやってきた。


そして、こんなことを言った。


「あなたは、特別な力をお持ちのようですね」


「え? 何がですか?」

セレナは、急なことなので、ちょっとびっくりした。


「さきほど、ガジュマルの木の下で子猫が命を吹き返しました。

あのとき、ガジュマルの木から赤い髪の毛、赤い体をした少年が降りてきたでしょ。あれは、キジムナーという妖精です」


「妖精・・・?」


「あなたには、見えないものを見る力があるようですね」


ワタナベさんがそう言ったとき、実は自分には沖縄オバァが指導霊としてついているんですと言いかけたがやめた。

どうせ、おかしな奴だと思われるに違いないのである。


「さらに、あなたには、沖縄オバァの指導霊がついてますよね」


ワタナベさんは、まるでセレナの心を読んでいるかのように、そんなことを言って、ニコッと笑った。


「きっと、この旅が、あなたの人生を大きく変えることでしょう」


そう言って、ワタナベさんは、自分の部屋がわからないという人のところへ向かって行った。


やはり、ワタナベさんはタダ者ではないなとセレナは思った。


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