第7話 猫カフェで出会ったものとは?
猫カフェはオープン前だった。
ガラス戸の向こうに10匹ほどの猫が見えた。
尻尾を立てて床をゆっくりと歩いていたり、棚のうえに寝そべっていたり、小さな舌をチロチロと出して水を飲んでいたりした。可愛いなぁと思いセレナはうっとりと目を細めた。
女性スタッフがキャットフードを載せたトレーを両手に抱えてやってきた。
丸い食器をカーペットの上や棚の上などに置いていった。
猫たちがそこへ集まる。猫たちの食事の時間のようだ。
それらをガラス戸越しに眺めながら、癒されるなぁと思った。
生まれてはじめて無断欠勤したことなど忘れてしまったかのようだったが、女性スタッフはこれが仕事なんだなと思うと、ふと、自分の職場のことが浮かんだ。
嫌な上司の眉根に縦しわを深く刻んだ顔が頭をよぎった。
あああ、とため息をついたとき、女性スタッフと目が合った。
女性スタッフがニコっと笑った。セレナもつられて笑顔になるのだが、少し顔が引きつっていた。
ダメだ。
心から笑顔になれない。重症だな・・・。
女性スタッフが出てきた。
「何度か、来店されたお客様ですよね? 会員カードはお持ちですか?」
女性スタッフは歌ような声で言った。
「はい、持ってます」
セレナは財布のなかから会員カードを取り出して女性スタッフに渡した。
「営業時間前ですが、よかった、どうぞ。抱っこされますか? カフェ類は、まだ出せませんが、猫ちゃんたちと触れ合うのはオッケーですよ」
「ありがとうございます」
「この子たち、食事中ですけど、背中を撫でてやると喜びますよ」
「はい」
セレナはゆっくりと猫たちのいる部屋へ入っていった。
無心に食事をしている白い子猫の背中にそっと指を伸ばしてみた。
やわらかい毛と背骨の感触にセレナはうっとりとして目を閉じる。
少し大胆に手のひらで触ってみた。
子猫の反応を氣にしながら、ゆっくりと触った。
目を開けて子猫の横顔をのぞいた。
小さな下をチラチラと出して餌を食べていた。
ふと子猫は食べるのとやめて、セレナをチラリと見た。ドキッとした。
「なに、見てんのよ」と言わんばかりに、まるで、意思があるみたいな目つきだと思った。
そのとき、ポスター広告がセレナの目に入ってきた。
駅貼りポスターのB 1サイズの大きさのポスターで、青い海と白い砂浜、手前には2対の笑っているシーサー、キャッチコピーには『魂友と出逢える宿』とあった。
宿の外観とベッドルームやレストランの写真がこじんまりと配置されていた。
宿のコンセプトとして、次の6つが列挙されていた。
(1)聖なる海で魂を癒す!
(2)地産地消料理でお腹を癒す!
(3)ヒプノセラピーで心を癒す!
(4)マッサージとヨガで体を癒す!
(5)夜のパーティで魂友をつくる!!
(6)リトリートツアーで魂のミッションを見つける!
セレナは思わず立ち上がり、そのポスターに近づいていた。まるで催眠にでもかかったかのように、フラフラと歩いていった。
セレナは近づいて住所を確認した。住所は沖縄県恩納村とあった。
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