第8話 魂の声を無視して生きていた!
「どうだい? このポスターが氣になるかい? なぜ、氣になると思う?」
いつのまにか後ろに沖縄オババがいて、耳元でそう囁いた。
「え? いつからいたの?」
セレナは驚いたように尋ねた。
「いつからって、ずっとワンは、お前さんのそばにいるよ。なにせ、ワンは、お前さんの指導霊じゃからな」
沖縄オババは、セレナの肩に手をかけて、話を続けた。
「沖縄に興味のない人は、こんなポスターに目を止めたりはしない。だが、お前さんは、氣になってポスターのそばまで来て、詳細情報を確認した。この文章を読んで、いま、心が震えているんじゃないか?」
「震えていないと言えば嘘になるかも・・」
「それは、お前さんの魂からのメッセージだよ!」
「どういうメッセージですか?」
「お前さんは、バカなのか? 自分の魂のメッセージを他人に聞くのか? 」
「でも・・・」
セレナは納得できずに下を向いた。
「多くの人は魂の声を無視して生きている。なぜだと思う? 幼稚園児だったころ、ブランコに乗りたいと思ったら、周囲の声も聞かず、ブランコにまっしぐらに走ったはずだ。
手が汚れようと、虫に刺されようと、おかまいなくブランコを楽しんだはずだ。
なのに、大きくなるにつれて、周囲の声に従うようになり、自分のやりたいことをあきらめるようになる。
周囲の声に従っているほうが楽だということを学び、いつしか自分のやりたいことも忘れてしまい、いったい、自分が何のために生まれてきたのかさえわからなくなるんだ。
他人軸で生きるのではなく、魂の声に従って生きてごらん。
一見、わがままな生き方のように見えるかもしれない。障害もいっぱいある。ストップをかける声もいっぱい浴びせられる。それでも、魂の声に従うんだよ。
そういう生き方をしてごらん。幸せの道がそこに見つかるはずだ」
「私は、どうすればいいんだろう?」
生まれてはじめて無断欠勤した自分を思い返し、感情が吹き出してきたセレナは鼻水をたらした。ハンケチを取り出して鼻水をふいた。
「どうすればいいと思う?」
と沖縄オババが真顔になって言う。
「魂の声に従う?」
「そうだ! 魂の声に従って行動してごらん」
「わかった」
セレナは小さく言い、こくりとうなずいた。
さっそくスマホで『魂友と出逢える宿』のホームページを検索した。
予約カレンダーを見て空室状況を確認した。4泊5日の滞在コースしか受け付けていないみたいだった。
4泊5日か、と思った。
しかし、すぐに思い直した。たしかに、宿泊客が5日間、一緒に過ごしたら友人になるだろう。しかも、ヒプノセラピーやヨガなどで、内観すれば魂の底で繋がることができるかもしれない。
一緒に食事をし酒をくみかわして、おしゃべりするだけでも楽しそうだなと思った。
行こう! 行くべきだ! 行かなきゃ後悔する!
セレナは来週の月曜日からの予約を入れた。
飛行機のチケットもスマホで予約した。
猫カフェの片隅で、セレナは一心不乱にスマホを操作していた。
猫カフェの営業がはじまり、2人の女性客が入ってきた。それに続いて男性客も入ってきた。その男性客は、立川駅でみかけた男だった。セレナがつかまえた痴漢男だった。
え? なんでこいつが、こんなところへ?
何をしに来たの?
まさか、私をストーカーしていたの?
もしかして、私を殺害に来たのか?
セレナは思わず身を隠した。男が受付で女性スタッフと話しているうしろをそっと通り過ぎてエレベーターに乗った。ドキドキした。胸の鼓動が激しくなり、セレナはエレベーターのなかで壁に寄りかかり、胸を手でおさえた。
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