第23章 満たす、足りる
友との決闘
鉱山都市バーサクタウンに飛ばされたアラシたちは、紆余曲折の末にそこを牛耳る赤バンダナのギャング・ミタスに協力することを決める。
しかしその直後、彼らと敵対する青バンダナの男・タリルが姿を現した。
「タリル……もうこんなことはやめろ」
「こんなこと、とは?」
「抗争だ! 俺たちが争い合ったって何の意味もねえ。今なら間に合う、俺の所に戻れ」
「お前が『世界の王になる』と言えば、喜んで従うさ」
タリルはそう言って戸棚を開け、未開封の蒸留酒を取り出す。
蒸留酒の瓶をテーブルに置いて、彼は興奮した様子で語りかけた。
「この酒、まだ開けてなかったんだな。……いいか? 町の外には、これより美味い酒が山程ある。飯も、金もだ。それを俺たちで独占するんだよ」
「口に合わない酒を飲んだって悪酔いするだけだ。目を覚ませ」
「目を覚ますのはお前だろ!」
タリルはテーブルを叩いて叫ぶ。
呆気に取られるミタスの胸ぐらを掴み、彼は凄まじい剣幕で捲し立てた。
「お前はこんな町で満足していい男じゃないんだ! もっと楽しめよ! 戦いを……暴力を!」
ミタスを睨むタリルの表情が、不意に無邪気な笑みへと変わる。
彼はミタスから手を離すと、指を鳴らして仲間を呼んだ。
「来い!」
蹴り壊された扉の向こうから、一人の男が現れる。
それはアラシとミリアのよく知る人物だった。
「シナト……!?」
青いバンダナを身につけたシナトは、タリルを守るように前に出る。
駆け寄ったアラシの手を払い除けて、彼は冷淡に言い放った。
「触るな。今の俺は、タリル様の部下だ」
「そういうことだ」
タリルは満足げに頷く。
彼は立ち尽くすアラシの眼前で、シナトの肩に腕を回してみせた。
「取り返したかったら、俺と決闘しろ」
「……やってやるよ! 種目は何だ? 叩いて被ってジャンケンポンか!?」
「んなわけないだろ。殺し合いだ」
タリルは冷淡に告げる。
一も二もなく応じようとするアラシを、ミタスが制した。
「なら俺が出る。片方だけ代理ってのは、性に合わないからな」
ミタスとタリルは睨み合い、すぐにでも殺し合いが始まってしまいそうな緊迫感が彼らを包む。
極限まで張り詰めた空気を、ミリアが言葉の針で突き刺した。
「では、両方が代理を立てるのはどうだろう」
これならば公平で、余計な犠牲も出ない。
タリルは熟考の末、ミリアの提案を受け入れた。
「いいだろう。こちらの代表はシナトだ」
「シナトが出るならオレにやらせてくれ。いいよな、ミタス」
「……好きにしろ」
アラシがミタスの承諾を得たことで、両陣営の代表者が決定する。
タリルは決闘の日時と場所を指定すると、シナトを連れて邸宅を後にした。
「今日の夕方6時、中央街道で決闘か」
ミタスはテーブルに地図を広げて、タリルの指定した場所に印をつける。
そこは両陣営の境界線とも呼ぶべき場所であり、様々な勢力が入り乱れていることから『バーサクタウンの火薬庫』とも呼ばれていた。
「俺は少し休む。アラシ、負けるなよ」
アラシへの激励を残して、ミタスは奥の自室へと姿を消す。
後に残されたアラシとミリアの胸に、ようやく僅かな安らぎが訪れた。
「シナトの野郎、無茶苦茶言いやがって……。オレはただ、昔みたいに仲良くやれりゃあそれでいいのによ」
「ふふっ」
「あぁ? 何が可笑しいんだよ」
「いや。君たちとミタスたちの関係性は、随分似ていると思ってな」
心を読まれたような感覚になり、アラシは俯いて押し黙る。
そもそもアラシがミタスに協力したのも、彼らに自分たちの境遇を重ねたからであった。
「……オレにはシナトが分かんねえ」
「そうなのか?」
「ああ。ラッポンに戦争吹っかけようとしたらキレるし、新型クーロンの話をしたら失望された。あいつは一体、オレに何を求めてるんだ?」
悩むアラシを横目に、ミリアはテーブルに置かれた地図を見つめる。
付けられた印にそっと触れて、彼女は少し柔らかな語調で問いかけた。
「君はシナトと仲良くしていた頃、そんな考えを抱いていたのか?」
アラシは首を横に振る。
ミリアは地図から顔を上げて続けた。
「これは私の仮説だが……シナト君は、ありのままのアラシ君が好きだったのだと思うぞ。何にも縛られることなく、底抜けに自由な君がな」
「自由な、オレ……」
アラシは胸に手を当てて、野山にいた頃を思い出す。
生活は困窮を極めていたが、それでも笑顔が溢れていた。
ただ前だけを見て、大きな目標にみんなで邁進していた。
だが栄華を極めてから、アラシは変わってしまった。
強くあらねばという強迫観念に囚われ、道を踏み外した。
改心してからは世界を救う使命に心奪われ、本来の気質を押し殺すようになった。
どちらの自分も、自分らしくなかった。
「迷走してんなぁ、オレ」
意識を現在に戻して、アラシは大きなため息を吐く。
隣に立つミリアの口元に、慈悲深い微笑が浮かんだ。
「君は迷っているくらいが丁度いいさ」
「それ褒めてんのか?」
二人は不意に可笑しくなり、吹き出して笑い合う。
そして数時間後、アラシたちは決闘の時を迎えた。
「……シナト」
中央街道に吹く乾いた風が、道端の草を転がす。
沈みゆく夕陽に照らされながら、アラシとシナトは互いに背を向けた。
10、9、8。
真っ直ぐに歩く二人を、ミタスとタリルは固唾を飲んで見守る。
7、6、5。
集まってくるギャングたちに紛れて、ミリアも姿を現した。
4、3、2、1。
「……0!!」
アラシとシナトは振り返り、銃の引き金に指をかける。
甲高い銃声が、夕暮れの町に鳴り響いた。
「が、は」
右肩を赤い血に染めて、アラシが力なく倒れ込む。
タリルが拳を突き上げて叫んだ。
「やった……やったぞ! 決闘は俺たちの勝ちだ!」
「いや、この決闘に勝者はいねえ」
タリルの喜びを、ミタスの声が掻き消す。
彼が示したシナトの銃は、一発の弾丸も放ってはいなかった。
「怒ったか? 大事な決闘を邪魔されて」
建物の陰から現れた黒バンダナのギャングが、悪辣な態度で二人を挑発する。
彼の手に握られた銃からは、弾を撃った後の白い煙が立ち昇っていた。
「これでミタスファミリーの天下も終わりだ。お前ら、やっちまえ!」
その号令を合図に、観客に紛れていた黒バンダナの仲間たちが一斉に暴れ出す。
弾丸と怒号の雨を掻い潜りながら、シナトはアラシに駆け寄った。
「アラシ! おいアラシ!!」
「シナト……」
「喋るな、逃げるぞ!」
シナトは無傷の左腕を掴んで、アラシを町外れまで連れていく。
急いで応急処置を施しながら、シナトはひたすらにアラシの無事を祈った。
「これで大丈夫だ。後は何処かに隠れて」
「いや、オレも戦う」
「バカ野郎!!」
勢いよく振るわれたシナトの拳が、アラシの顔面を殴り飛ばす。
呆然とするアラシを抱き締めて、彼は声を震わせ訴えた。
「死なせたくない……!」
巻かれた包帯の奥で、右肩の傷がズキリと痛む。
シナトにかける言葉に探す中で、アラシはミリアとのやり取りを思い出した。
「だったらお前が着いてこい」
「えっ?」
ありのままの自分でいればいい。
晴れやかに笑うアラシの表情に、もはや一分の迷いもなかった。
「シナト! オレを死なせたくないなら死ぬ気でオレを守れ! オレも死ぬ気でお前を守ってやる! それがオレたちの、ドローマの絆だ!!」
「……やっと帰ってきたな。アラシ」
アラシの叫びで、シナトもまた吹っ切れる。
かつてドローマを再興させた最強コンビが、ここに復活を遂げた。
二人は転がっていた鉄パイプを拾い、乱闘の中に飛び込んでいく。
そしてギャングたちを一人残らず打ち倒し、戦いに終止符を打ったのだった––。
「色々、世話になったな」
「気にすんな。じゃあ、オレたちはそろそろ行くぜ」
ミタスとタリルに見送られ、アラシたちはバーサクタウンを後にする。
夜の深い闇に消えていく彼らの背中に、ミタスが小さく言葉を投げた。
「俺たちみたいにはなるなよ」
「あぁ?」
「何でもねえよ。さあ、今度は俺たちの決着だ」
「……ああ」
二人は互いに背を向けて、銃を構えて歩き出す。
荒れ果てた蛮族の町に、真っ赤な花が一輪咲いた。
—————
究極龍轟臨
「クァムァァア!!」
合身災獣ロアヴァングの攻撃を喰らい、カムイは近くの建物を巻き込んで倒れる。
弾みで跳ね上がった瓦礫が、運悪くミリアに直撃した。
「ミリア!」
「私に構わず行け! 早くクーロンG9に乗るんだ!」
助け起こそうとするアラシとシナトに、ミリアは力を振り絞って叫ぶ。
二人は確かに頷くと、ミリアに背を向けて走り出した。
「これでいい。後は、頼む……」
アラシたちの背中を見届けて、ミリアは遂に力尽きる。
彼女が意識を手放したのとほぼ同時に、カムイ––セイも変身解除へと追い込まれてしまった。
「セイっ!」
ミカは風でクッションを作り、高所から投げ出されたセイを受け止める。
すぐに再変身しようとするセイを、彼女は強い口調で諌めた。
「動いちゃダメ! 休んでて!」
「……代打がいてくれたら、遠慮なく休めるんだがね」
「代打ならいるぜ!」
力強い返事と共に、アラシとシナトはセイたちとの合流を果たす。
アラシは手負いのセイを一瞥すると、左親指で自分を指して言った。
「後はオレたちに任せときな」
「任せときなって、あんたも右腕をやられてるじゃないか」
「『右腕』なら平気だ」
シナトはそう返して、アラシと目線を交わす。
一皮剥けた二人を見て、セイとミカはアラシたちにこの場を任せることを決意した。
「……そうかい。じゃ、頼むぜ」
「頑張って!」
アラシとシナトはサムズアップをして、クーロンG9へと走り出す。
ロアヴァングの猛攻を掻い潜り、二人は操縦席に到着した。
動力が内部に行き渡り、城全体に走る青いエネルギーラインが夜空に輝く。
ロアヴァングも負けじと銀の爪を煌めかせ、クーロンG9に襲いかかった。
「目障りなデカブツめ、ぶち壊してやる!」
「させるか! クーロン砲!」
クーロンG9は両肩の龍から弾丸を放ち、ロアヴァングを撃ち落とす。
シナトはアラシに操縦を代わると、彼の背中を景気よく叩いた。
「ようやくこの椅子を返す日が来たな」
「お前があっためてくれた玉座だ。大事に座らせてもらうぜ!」
初代クーロンの時と同様に、アラシは怒涛のレバー操作でコマンドを入力する。
機体から伝わる振動に身を任せて、彼は高らかに口上を唱えた。
「超動!!」
城を構成していた各部から白い煙が噴き上がり、唸りを上げて変形を開始する。
そして紺碧の輝きと共に、一体の巨大戦士が誕生した。
「なっ……!」
頭部には龍を模した兜を被り、双肩に設置された砲門もまた龍。
両腕を護る籠手も龍なら脚部に纏った装甲も龍。
そして七つの龍を統べるのは、アラシとシナトの兄弟龍。
世界を守護するために生まれた究極の
「オレらの国で……好き勝手してんじゃねえッ!!」
超動勇士クーロンG9の拳が、ロアヴァングを打ち据える。
直撃の瞬間に砲撃することで更に威力を高めた一撃が、ロアヴァングの巨体を吹き飛ばした。
「くっ、小癪な!」
ロアヴァングは素体となった銀狼災獣の力を発揮し、無数の衝撃波を放つ。
しかしクーロンG9の装甲は、擦り傷すらつけずに弾幕を弾き返した。
足元で起こる爆発を歯牙にも掛けず、標的目掛けて突き進む。
そして堂々たる歩みを疾走に変え、彼は軽やかに跳躍した。
「ダブルドラゴンキック!!」
クーロンG9渾身の両脚蹴りが、ロアヴァングに大きなダメージを与える。
背面のバーニアで難なく着地を果たした龍戦士の姿に、シイナが元気な声援を送った。
「頑張れクーロンG9! フレフレいけいけゴーゴーゴー!!」
彼女の声を皮切りに、ハタハタら他の守護者からも歓声が上がる。
それはやがて避難した市民たちにも広がり、遂には国中がクーロンG9を––アラシを応援する声に満ち溢れた。
「凄えな、あいつ」
奮戦するクーロンG9の姿を見上げて、セイはしみじみと呟く。
いつの間にか意識を取り戻していたミリアが、セイとミカの隣で頷いた。
「そうだろう。さあ、我々も声を送ろうじゃないか」
「……ああ!」
人々の声援が高まる度にクーロンG9の勢いが増し、ロアヴァングは追い詰められていく。
不快な雑音に耳を塞ぎ、彼は歯を食いしばって叫んだ。
「何故だ、何故お前ばかり応援される!? ボクだって……『僕』だって頑張ってるのに!!」
「その答えはテメェで見つけな!」
「何ぃ?」
「オレは見つけたぜ。オレの目指す国を、オレの理想の守護者を!」
「ふざけるな! そんなもの、こいつで消し炭にしてやる!!」
ロアヴァングは破壊光線を撃ち出すべく、鬣に全エネルギーを集中する。
負けじと必殺技の体勢に入らんとした時、アラシの右腕が遂に限界を迎えた。
「何休んでるんだ? 右腕ならここにあるだろ」
「……ああ、そうだな!」
シナトに右レバーを任せ、アラシは左レバーの操作に集中する。
互いの連携で複雑なるコマンド入力を達成し、クーロンG9は必殺技を発動した。
「クーロン砲・最強爆裂波!!」
装備された全ての銃火器から弾丸を放ち、怒れる龍の如き破壊力でロアヴァングを焼き尽くす。
勝利に吼えるクーロンG9を祝福するかのように、白い太陽が彼を照らした。
「……へへっ」
アラシとシナトは拳を突き合わせて、セイたちに合流する。
変身解除したロアヴァング––フィニスが、彼らに負け惜しみの言葉を吐いた。
「貴様ら、これで終わったと思うなよ」
「終わったなんて思っちゃいねえよ」
セイは真っ直ぐに言い返す。
彼は仲間たちの中心に立ち、フィニスを見据えて宣言した。
「だがこれだけは覚えておけ。俺たち超動勇士がいる限り、この世界は終わらないってな!!」
軋轢を乗り越えて繋がったセイたちの胸に、強い意志の炎が灯る。
こうして新たなる脅威、終焉の使徒との戦いが幕を開けるのだった。
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