「第五十五話」落ちぶれ巫女と妥協した最後
「……終わった」
勝ったというよりも、その表現のほうがしっくりときた。理由はちょっと分からないし、とりあえず今はどうでもいい……本当に、本当にそんなことはどうでもいいのだ。
「──っぁ」
膝から崩れ落ちると、握っていた宝剣の柄もまた転がり落ちる。
もう既に身体が悲鳴を上げ始めていた。痛いとか辛いとか、そういう『まだどうにかなる』程度のものではなく、本能的に命の危機や乖離を感じるような……そんな、諦めも半分付いてくるような『予感』だけが、不自然で狂った呼吸とともに鳴り響いている。
苦しい。
息ができない。しても、全く呼吸が楽にならない。
いいや違う、これは……命が足りないんだ。
(霊力の、使いすぎ……!?)
考えてみれば当然の話だ。
私は元々、妹たちや他の巫女とは比べ物にならないぐらい霊力が少ない。だから契約している神であるカゲルに与えられる力もそんなにないし、私自身が最低限の霊力を纏わせた刀を振り回すぐらいしか戦う方法が無いのだ。──そんな私は、この結果を得るために何をしてきた?
通常の倍近い霊力を常に刀身に纏わせた。
カゲルに与えられるありったけを注ぎ込み続けた。
そして、天叢雲剣……その覚醒した翡翠色の光の刀身は、最早人間に扱えるような代物ではなかった筈だ。顕現させるだけでも無理に等しいのに、それを維持しながら戦うなんて論外にも程がある。
既に序盤の時点で、私の身体の中に霊力は微塵も残っていなかった。
であればその代わりに成り得るものが代償として支払われていて当然。そしてその代償がなんなのかとは、もう誰に聞くまでもなく私が一番分かっているはずだ。
(……あーあ)
クソッタレ、と。血でいっぱいになった口を動かし、涎と一緒に垂らしながら吐き捨てる。
なんで最後までこうなるのかな。私、結構頑張ったと思うんだけどな。もうそろそろ報われてもいいんじゃないかなって、流石に自分でも思うんだけど。
(神様って、ほんっと……見る目無いよなぁ)
遠のいていく意識の中、私は少しだけ妥協する。
まぁいいじゃないか、色々と決着をつけることは出来たんだし。カゲルや久遠の心と体を滅茶苦茶にしたあいつを、ボッコボコにしてこの手で地獄に送り返すことが出来たんだから。
「う、ううっ……」
そうだ、そうに違いない、と。
そう思えば思うほど、涙が止まらなかった。
「死にたくないよぉ……!」
ああ、でも。
そりゃあ、大体の神様は見る目無いし、節穴だし、みんな馬鹿だけど──。
「……ねぇ、カゲル」
地べたを這いずりながら、こっちに叫びながら、必死に私の名前を呼び続けてくれているあの神様だけは、少なくとも私のことをしっかりと理解してくれていたと思う。
「私、あなたのお陰でようやく自分に誇りが持てたよ」
ならいっか、と。
そんなちっぽけで味気ない、ご馳走の前の口直しに過ぎないような幸せを。
それでも愛おしく、どうしようもなく抱きしめたくなる温かさを胸に抱きながら、私はゆっくりと楽になっていった。
沈む、沈んでいく。
今までのどんな深さよりも深く、暗さよりも暗く……違うという感覚が、より鮮明に明確に私自身に染み渡っていく。
(ああ)
これが、私の迎える最後なのか。
とうとう私は、地面に向かって倒れていった。
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