「第三話」落ちぶれ巫女と廃神社
神の強さというのは、それが持つ人々からの信仰に強く依存する。
信仰する人間が多ければ多いほど神としての力は増していき、使用できる権能の幅も増えていく。
故に神にとって重要なのは、「どれだけ多くの人間に自分の存在を認知させるか」という点である。
しかし、人には寿命があれば忘却だってある。
どれだけ強い神、即ち多くの信仰を得ていた神であっても、忘れ去られるという恐怖からは逃れられない。
事実、信仰する人間がいなくなったことにより姿を顕すことすら叶わなくなった神は、きっと数え切れないほどこの国にはいる。
そしてその多くは人間を恨み、憎む。
その結果彼らは人に仇なす祟神に成ってしまうのだ。
「……」
無論、必ずしも祟神に成っているとは限らない。
神にだって個性がある。
自らを忘れた人間に対して復讐の業を燃やす荒々しいものもいれば、永久不変などこの世には無いのだと忘却を受け入れ、安らかに眠るものもいる。
最も、前者のほうが圧倒的に多いのだが。
そしてその忘れられた神、それが座していたであろう朽ち果てた神社の前に、私は立っている。
不必要の烙印を押され、誰からも忘れ去られた……そんなの、今の私と何が違うのだろう?
(……おんなじだ)
ふらふらと、歩く。
鳥居は深く、なるべく深く頭を下げてからくぐる。
ぞわり。
はっきりと肌を刺す空気が変わったのが分かる。
よかった、これなら妖魔は簡単には入ってこれない。
完全に神の領域に足を踏み入れた私を、祟神が襲ってくることもない……私はほっと胸を撫で降ろした。
まぁ、生き長らえたとして何になるのかと聞かれれば笑うしか無いのだが。
「……それにしても」
なんというか、立派な神社だったんだなと思った。
崩れている社もあるが、それにしたって広くて大きい……忘れ去られる前は、それはそれは力のある神だったのだろう。
こうして忘れ去られた今であっても、残された結界は私を守ってくれている。
こんな私を、役立たずの私を
と、そんな事をぼんやりと考えていると、社の目の前に賽銭箱のようなものが見えた。
(お礼ぐらいは、しないとね)
賽銭箱の前に立ち、私は改めて社を見上げる。
ところどころ朽ち果てて入るものの、威厳の在る社。
姿は見えないけれど、声も聞こえないけれど……こうして今も、私を守ってくれている。
ゆっくりと手を合わせ、心の中で感謝の念を送る。
(私を受け入れてくださり、ありがとうございます。明日になったらここを去りますので、どうか今晩だけ……ここで眠ることをお許しください)
じっくりと手を合わせた後、私は目を開ける。
ゆっくりと頭を下げると、途端に緊張の糸がほぐれて……無節操に大きなあくびをしてしまった。
(大変な一日だったなぁ。早く寝ようっと)
「……失礼しまーす」
賽銭箱の裏、社へと続く短い階段を登り、私は恐る恐る社の中に入り、寝そべった。
布団も毛布もないけれど、自然と寒くはない……むしろ、暖かいとさえ感じた。
もしかしたら、ここの神様が何かしてくれたのだろうか?
(……契約するなら、あなたみたいな神様がいいなぁ)
閉じていく瞼、泥沼に沈んでいくような眠みに抗うこと無く、私はゆっくりと……それでいて穏やかに、微睡みの中へと沈んでいった。
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