第2話
シモン・サークライジュ。それがここ魔法が作りし異世界における俺の新しい名前だ。こっちの世界の両親によれば由来は偉大な女魔法使いの幼名らしいが生まれてからほんの5年程しか経っていない俺の知識じゃそれが果たして正しい情報なのかどうかは分からない。
この世界の神……いや精霊様だって俺を元いた世界と同じ肉体でキャラクリしてくれりゃ良かったのにどういう訳か俺は女としてこの世に誕生しちまった。俺が自分を女だと認識したのはごく最近の事でそれまでは男としてこの世界でどう生きどう子孫を残して死んで行くかなんて真面目に考えちまってたんだからお笑いだよな。
この世界──ジンジャーテイルは精霊があらゆるものを統べ精霊の力たる魔法が理を成す世界。生命に雌雄の別あれど魔法の下では全ての命が平等──の筈なんだが元いた世界と同じく男女の筋力差は依然として存在し暴漢が淑女をレイプして殺しただなんて嫌な話は日常茶飯事だ。そのため女と結婚できるような男はガチムチのバーバリアンに限られるし女は夫の不在時に身を守れるように魔法を習うのが常とされている。特に女の子供は心無いレイパーの標的に最優先でなりやすいため男装させて男の子として育てるのが女がこの世界で生き残る上では必須とされている。だから俺のこっちの世界の両親──ガチムチヤンチャ系のパパとチーママ系ウィッチのママは俺のために魔法の家庭教師フォルテ先生を雇ってくれたんだよな。でもそれとは関係なく元々俺には魔法の才能がずば抜けて備わってたらしいけどどうせ親馬鹿の類だろう。
一方男の子の方はと言えば筋肉の才能に恵まれた繁殖用のオスガキ以外は将来的な潜在レイパーと見做されて選別されたのち去勢されて生涯独身で孤独に死ぬかあるいは去勢を免れて仏門ならぬ魔法の門を叩き厳しい禁欲と研鑽を経て魔法使いになるのが通例だ。そして涙ぐましい努力を重ねて高位の魔法使いに名を連ねたとしても世間の白い目は冷たく厳しく時に残酷でいたたまれなくなった男の魔法使いは自ら女の扮装をして男である事を必死に隠して陰ながら慎ましく生きて行く。俺の家庭教師──魔法の師匠のフォルテ・ドミル先生もどうやらこの口らしい。
つまりは少女みたいな体型に丈の短いローブを着て風のイタズラからパンチラを死守しているこのフォルテ先生もやっぱり童貞な訳だから5才児とはいえ女の俺への扱いがラインを超えてしまうのも致し方なし……な訳あるか! 立派にセクハラだボケカスぅ!
「せんせぇ。……しんでね」
俺が小さな右掌をセクハラ犯のフォルテ先生に向ける。師匠には先程の木(※前回参照)のように粉々になって貰おう。
「わぁ! やめて……赦して! ボク、シモンくんが女の子だって、知らなかったんだよォ〜!」
師匠が俺の幼い全裸と綺麗に通った立派なたてすじを赤面した顔を自ら覆った指の隙間から垣間見る。許せん。例え相手が同性だろうと裸に剥くのは時代的にコンプラ違反だからな常識的に考えて。俺は師匠という名のセクハラ野郎に向かって呪いの言葉と共に無詠唱の破壊魔法を放った。
「えいっ」
……おかしいな? 何度声を出しても掌から魔法が出ない。それどころか急に体から力が抜けて来てなんだか眠たくなってきた……。ねむい……。
「シモンくん、あぶない!」
俺が脱力して意識を失い立ったまま草っぱらに倒れ込もうとした寸前をそれまで怯えて頭を抱えて震えていたフォルテ師匠が飛び出して抱き止めてくれた。
「……魔力が切れたんだね。シモンくん。きみは強大な魔法を無詠唱で使えるけれど、体はまだまだ子供。魔力を短時間で膨大に食らう無詠唱は、きみには早すぎたんだよ。精霊の力を借りて魔法を行使するには、やはり祝詞……呪文が欠かせない。もっと自分以外の精霊に頼ってもいいんだよ。呪文……精霊への感謝と願いの言葉は、そのために編まれ人々の口から伝えられて来たんだからね」
俺の耳元でフォルテ師匠の遠い声が聞こえた。何を言っているかは幼い俺の頭じゃ理解できなかったが温かくて優しい声だなというのだけは分かった。師匠は俺を軽くひょいと抱き上げてお姫様だっこすると原っぱから俺の家までの帰路をゆっくり慎重に歩いて行った。
それから俺は家に帰るなり裸んぼのままベッドに寝かされて寝たまま寝巻きを着せられ明くる日の昼になるまでグースカ寝ていたらしいがなんか人の声が騒がしいなと思いベッドから起きて子供部屋を出て階段を下り居間に行くと師匠が俺のガチムチヤンチャ系パパの前で正座させられていた。えっなにこれ? 修羅場か?
「オイ。俺のガキに手ぇ出したら殺すつったよな? あ?」
パパが右手で食卓を殴って拳の大きさの穴を開ける。ママはパパの隣で腕を組み正座させられている師匠を睨んでる。こわっ。
「パパ! ママ! やめて! せんせぇは悪くないよ!」
その場にいた俺は咄嗟に師匠を庇った。グルーミング済みのガキみてえな言葉が口から飛び出したが割と本心だった。
「シモンちゃん! でもあなた……このオスガキに酷い事されたんでしょ!?」
ママがよく調べもせず本能的に同性を擁護するあのモードに入る。攻撃的になった女の目が俺を見据える。俺はママのマニキュアでカラフルな手を握って
「せんせぇはね、僕が魔法を間違えちゃった時に、僕を守ってくれたの。僕の服が脱げちゃったのも、そのせいなんだ」
柄にもなく嘘をついて師匠を擁護した。若干嘘臭い言い訳だが俺ってこう見えて可愛いからこの両親ならコロッと騙される事だろう。おとなってチョロいな。
その後めでたく師匠の俺レイプ疑惑が晴れて自由の身となり俺の家庭教師の首が繋がった。家族3人と師匠で囲った晩餐の席では庭に出て肉を焼いて食らいながら魔法使いの収入は存外少なく生活するのがやっとで研究できる魔法使いなんてごく一握りのエリートだけですよナハハ! なんて話を声を上ずらせてガチガチに緊張した師匠がエンドレスで喋っていた。それから肉を食らい精を付けた両親が厠の奥に消えてヤっている最中に俺はまだ緊張が解けずに蛇に睨まれた蛙みたいに震えてるフォルテ先生のミニスカートの裾を摘んで
「せんせぇ。今日のこと……貸しですからね」
と囁いた。師匠は俺を見下ろして溜め息を吐き
「ボク……もう一生、きみには逆らえないかもね」
と言ってエヘヘと苦笑いした。
精刻の魔法使い 〜隣の事故物件に巨乳の人妻が越してきたんだがダンジョンでチートを得たSSR級冒険者の俺が魔王ライフを満喫してた聖女のモフモフのハーレムに婚約破棄された悪役令嬢で無双します〜 羽後野たけのこ @eternal_dream
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