精刻の魔法使い 〜隣の事故物件に巨乳の人妻が越してきたんだがダンジョンでチートを得たSSR級冒険者の俺が魔王ライフを満喫してた聖女のモフモフのハーレムに婚約破棄された悪役令嬢で無双します〜
羽後野たけのこ
第1話
俺が子供の頃お袋はこう言った。
「いい? 目上のひとの言う事をよく聞き従う、立派な△△になるのよ」
「イエス、マム!」
△△の部分は大人だったか奴隷だったかよく覚えていないが俺はお袋の言いつけを守ってすくすくと育ち立派な奴隷へと成長を遂げた。そしてこの国の社会の需要に従い見事に死亡した俺は無事に転生し今こうして魔法が司る異世界の大地にいる。
転生した俺の魔法の才を見抜いて家庭教師を雇ってくれた有能な両親に感謝しつつ今日は生まれて初めて高度な魔法を教わる運命の日を迎えた。
「ボク頑張って教えるからね。準備はいいかな、シモンくん」
「はい! フォルテ先生!」
俺に魔法を教えてくれる師匠は生涯童貞のまま死んで魔法使いに生まれ変わったショタジジイでなぜかミニスカートのローブを着て少女の格好をしていた。
「よろしい! ボクも教え甲斐があります! ……なんてね、エヘヘ」
柔らかな風が吹く原っぱの上で師匠はミニスカートとブーツの間から白い生足を覗かせながら魔法の理論を説き始めた。
「この世界で魔法を使うには精霊に対して感謝の言葉を捧げて力を借りる必要があります」
「ふむふむ」
「その感謝の言葉を、ボクたち魔法使いは『呪文』と呼んでいます」
「ほえ〜」
「今日はシモンくんに、呪文を幾つか覚えてもらうから。今から先生の言う言葉を真似して言ってみてね」
「イエス、サー!」
師匠はミニスカートのローブが風が舞うたび捲れてしまうのが恥ずかしいのか右手でミニスカートの裾を引っ張ってお尻を隠しながら俺に講義した。そんなに恥じらうならズボン穿きゃいいのにと思ったがこれがこの異世界における魔法使いの正装なのかもしれない。……ん? 俺もあんなの穿かされんの?
師匠は左手に杖を掲げ目を閉じて呪文を詠唱し始めた。
「まずは簡単なものからね。えーと…………『隣の事故物件に巨乳の人妻が越してきたんだがダンジョンでチートを得たSSR級冒険者の俺が魔王ライフを満喫してた聖女のモフモフのハーレムに婚約破棄された悪役令嬢で無双します』…………っと」
「となりのじこぶっけんにきょにゅーのひとっ……」
呪文が難解すぎてつかえてしまった。
「フォルテせんせぇ! 難しくて覚えらんないよー!」
「あっ、ご、ゴメンね! 初めは誰でもそうだよね。ボクもこの呪文には50年かかっちゃったもん」
言われた事が上手くできなくて感情が込み上げてくる。俺が嗚咽して訴えると師匠は膝を折り俺と目線の高さを合わせて赤ちゃんをあやすように両掌を広げて振って俺を慰めた。子供扱いされて(実際子供なんだが)いい気はしないが師匠の困り顔が可愛いので良しとする
俺は師匠に疑問をぶつけた。
「フォルテせんせぇ……。この呪文にはどんな意味があるんですか? 俺、じゃなくて僕にはサッパリで……」
ハの字眉を浮かべて困り果てていた師匠は専門分野の魔法の話になるとパッと精悍な顔付きに変わった。
「シモンくん、いい? これはね、精霊たちに言葉を届けるアルゴリズムという手法なんだ」
「あるごり……?」
「一つの単語──例えば『巨乳』には、巨乳を司る精霊への感謝と祈りが込められている。その『巨乳』を『人妻』と並べて唱えれば、巨乳と人妻、両方の精霊の力をより強く借りる事ができるんだ。……っと、ここまでは大丈夫?」
俺が首を縦に振ると師匠は真面目な顔で続けた。
「その組み合わせの結果が、さっきボクが唱えた『隣の事故物件〜』から始まる呪文だね。全体として意味が不明な言葉の羅列だけど、実は各精霊の力を効率よく借りて最大限の威力を出せるように綿密に組まれたプログラムになっているんだ。これがアルゴリズム……第5の力だよ」
「せんせぇ! 他の呪文もこんな感じなんですか?」
「そうじゃないのもあるけど……今魔法使いの間で流行ってるのは皆このアルゴリズムかな」
早口で長文を言い終えた師匠が苦い顔をする。師匠自身も先程習得に50年費やしたと言った通り魔法詠唱にアルゴリズムは難解で複雑だ。それから師匠は似た呪文が多すぎて違う効果を得たくても詠唱を間違えると中々目的の魔法まで辿り着けないと愚痴をこぼした。
「そっかぁ。魔法って大変なんですね、フォルテ先生!」
「そうだね。だからボクみたいな魔法の先生が必要で、そのおかげでボクも生活できて…………って、あわわ! ちょっとボクに何言わせるのシモンくん!」
師匠は赤面して両掌を広げ自分の顔の前でぱたぱた振った。本当に子供の俺より何百歳も年上なのかと問いたい程幼くて可愛らしい師匠だ。こんなに可愛い師匠が女の子のわけがない。
しかしあんなに難解な呪文をいちいち唱えないといけないんじゃ俺には魔法の習得は無理そうだ。期待してくれた人達には悪いが俺には魔法を扱う才能がなかったんだろう。
「でも、シモンくんは賢い子だし、努力を続ければきっとボクなんかすぐに追い抜いて偉大な魔法使いになれるよ。エヘヘ」
草っぱらにへたり込む俺の隣に両手でミニスカートの裾をお尻に押し付けながら座った師匠はニコニコと笑ってそう言ってくれた。師匠の真意は汲めないがそれが本音にしろリップサービスにしろ悲しい励ましだ。俺は世の中が自分の思い通りに上手く行かずに何だか腹が立ってきて──いつもしているように視線の先に生えてる木に八つ当たりする事にした。
「えいっ」
バキッ。メギャメギャ。バリバリバリ。俺が小さな掌を木に向けて声を発すると大きな破裂音と共に視線の先の木がなぎ倒されて木っ端微塵になった。
「はぁ〜スッキリした」
「えっ……何、いまの」
俺の隣では師匠が口をあんぐり開けて放心している。えっ? 俺、何かやっちゃいました?
「や、や、やっちゃったなんてもんじゃないよ! シモンくん! 今のは無詠唱魔法と言ってね!? 精霊の力を借りずして術者の体自らに内在する魔術回路が爆発的に表象……あわわわ」
師匠があたふたして俺を見る。あれだけ教師然としていた師匠が俺が木を倒しただけで小娘みたいに狼狽するのがおかしくってニヤニヤ眺めていると師匠が「ごめんねシモンくん! ちょっと体見せて!」と言っていきなり俺の服を脱がし始めた。えっ……? きゃあああ!
「…………やっぱり。シモンくん。きみは痣と思って気にしなかったかもしれないけど、きみのお尻には精刻と呼ばれる精霊が人の体に乗り移った痕跡があるよ。それもくっきりと。これは相当に強大な力を持った精霊が体に宿ってる証拠だよ。ボクも大学の図書館の文献でしか見た事なかったんだけどね。シモンくん、これは…………。きみは……一体!?」
「せんせぇ……見ないでぇぇ……」
いくら少女みたいな姿のミニスカローブの師匠だったとしても。男は男。こどもの俺じゃ腕力では敵わない。師匠に無理やり剥かれてしまった俺はお尻のあざよりも股間に走る縦すじを師匠にばっちり見られてしまった事の方が何よりも恥ずかしかった。
「って……えぇえーーーーっ!? シモンくん、君は……女の子だったのーーーー!?」
その後色々あって俺は巨乳の人妻になった訳なんだがそれはまた別の機会に話す事にする。
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