第8話
「私は指揮とかは本当からっきしだから、現場の判断に任せるよ。技術支援は任せて」
雲晴の声が何処から聞こえてくる。そういう無線機能もついているらしい。つくづく便利なアーケインギアだと感心する。
「本当は人間に危害を加えるような設計にはしてないんだけどね。致し方ない。さ、裏口から入るよ」
とはいうものの、やはりか裏口の鍵が空いていない。幸い、廃ビルということもあり、10年前の鍵穴形式だった。
手をドアノブにかけ、土魔法で鍵穴を満たす。
「動いてくれよっと」
捻ると、呆気なくガチャンと開く音がした。現代の鍵は基本カードキーであるため、このようなピッキングは出来ないが、昔のものであれば造作もない。
ふと気付くと属性を表す六角グラフが土属性に振り切っていた。
「おォ!? 面白い結果が出た!」
それを雲晴も見逃してはおらず、興奮冷めやらぬ状態だ。
人間には誰しも微量ながら魔力が流れている。魔力は属性を帯びていることが研究の結果判明している。
例として風鳴は風属性の魔力を有している為、風魔法を使えるが、火や水など他の属性を有していない為、使うことが出来ない。
稀に二属性の魔力を有している者がいるが、基本は一属性に留まる。
そのため、火水風土の四属性を扱える煌矢は非常にレアな存在だ。
とはいえ現在の魔法科学技術では、魔力属性に関わらず、魔力を通すことで擬似的な魔法を使うことが出来るアーケインギアが登場した。より技術が進歩すればきっと、応用力に磨きがかかるだろう。
それこそ、風鳴が現在開発している風バリアもいずれは擬似魔法で再現出来てしまうのかもしれない。
魔法を訓練する必要なんて、実は無いのだ。
「この変化は後で解析するとして……ピッキングに土魔法を使うとは面白い。てっきり壊すものかと思ってたよ!」
「しねぇよ。裏から殲滅するならなるべく静かにやらなきゃ意味ないだろ」
「あっはは、それもそっか」
そのまま内部へ侵入する。電気なんてものは無く、ひたすらに仄暗かった。窓から差し込む日光だけが頼りだ。
「裏から叩くつったって、居場所が分からないんじゃ……」
「そォだね……」
「虱潰し?」
「頼んだよ」
「……はぁ」
頼むから異界対策庁の人と協力してくれよ。情報だけでも欲しい。
……現場は任されてるんだった。
「職員の見た目は?」
「任せて! 防衛隊のスーツ型アーケインギアはこれ」
視界左下に、そのスーツがホログラム状に映し出される。
「……じゃあアレは違うな」
フェイスマスクを付けている男性がこちらに銃口を向けている。如何にもな格好だ。
「対策庁の新型ギアか!? くそ!!」
容赦なく鉛玉を乱射してきた。
「あっはっはァ! やッちまえェ!」
素早く低姿勢を取り、踏み込み一回で対象の間合いに入り込む。
そのまま、足払いで横転させた。
「殺すのはいやだな」
男は恐怖に満ちた目で煌矢を見ている。
「そうだよね。じゃあ、首を絞めて」
「ねえ、聞いてた?」
途端に体の制御が効かなくなる。
恐怖の眼差しを向ける男の首を両手で掴み出した――
「おい、待て待て待て!!」
バチンという音と共に、その男は白目を剥き、動かなくなった。
何が起きたのか理解できず、唖然とその場に立ち尽くした。既に身体の制御は戻っており、動けるにもかかわらずその死体をただ見ていた。
「必要なことだよ」
冷淡に言う。その言葉が信じられなかった。それと同時に怒りが込み上げてくる。
これは人の自由を奪い、殺しさせ強制させられる、最悪のアーケインギアだと確信した。
「何してんだ!? そこまでやる必要は無いだろ!」
「何って……気絶させただけだけど……どうしたの、心拍数上がってるよ?」
「……え?」
「あ、そういう? やァだな! 作ったアーケインギアが魔物以外を殺すなんて私が許さないよ!」
相変わらず元気に笑い飛ばした。
なんとなく雲晴の信条が分かってきた気がした。ただ魔物を殺す技術を極めたいだけなんだろう。そのやり方に難はあるが、
緊張感から開放された緩みで、そのまま床に座り込んでしまった。
「あっははァ……まだ私達には溝があるみたいだね。良いよ、いつか埋まるから」
「そう……かもな。せめて拉致とか、そういう強引な手段は取らないで欲しいが」
「善処するよ」
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