第7話
「……ここは?」
目が覚めると、実験室のような部屋にいた。その上身体は椅子に括り付けられている。
上裸で身につけている衣服は下着のみ。衣服は目の前の机に綺麗に畳んで置いてあった。
「おい!? なんだこれは!?」
「あっははァっ!」
その声と笑いかたには聞き覚えがあった。
「やっほー!」
雲晴の狂気じみた顔が視界にデカデカと映り込む。
「あァ! 驚かないで、怒らないで!」
興奮した様子で、呂律が回っていなかった。
「何のつもりだ……」
すると雲晴は跨るようにして身体を密着させてくる。
これがきっと、こんなシチュエーションでさえなければ……今はただ、恐怖で身体が支配されていた。
「やァだな、私の専属防衛士ィ……これから先、長い付き合いになるんだから慣れてよね。ただのスキンシップだよ」
「お前……自分が今何しているのか分かってんのか?」
「拉致監禁、場合によっては暴行……傷害も入るかもねェ。あとは不同意わいせつ罪かな?」
胸部をベタベタと触ってくる。
「意外とガッチリしてるね……流石防衛士志望……魔力が流れているのが伝わってくるよ……」
「このことがバレたらお前……流石に不味いぞ? 地位も何もかも」
「大丈夫。地位なんてやりたいことを叶えるための手段でしかない。それに……第一君はバラさない。いや、バラせないんだ」
煌矢から離れるとカバンからいくつかの紙を取り出した。
「まさか……俺を消すつもりか?」
「いやいやいや! そんな野蛮なことはしないさ。君は今から私に協力するほかないよ、って話なんだから」
その自信に満ちた口振りは、須黒先生を前にして動揺していた彼女と同一人物であるとは思えないものだった。
前方のホワイトボードにカバンから取り出した写真を幾つか貼る。
「本題。私が君を誘拐したのは……ある事件がきっかけだ。私の命よりも大切で尊い被検体ちゃんズ、中には君の妹もいる。そんな罪の一片もない子供たちの輸送車が反異界対策組織に襲撃され、誘拐されたんだ」
途端に彼女が纏う雰囲気が重苦しいものに変わる。
貼られた写真の中には、捕縛された麗夏やその他同じ魔法被検体の子供達と、異界対策庁の職員。また武装集団の姿があった。
「麗夏!!」
「どう? 協力する気になった?」
煌矢の頭の中には様々な憶測が飛び交っていた。
この女が嘘をついている可能性は充分にある。何を考えているのかさっぱり分からない狂人なのだから、人の尺度で測っていいものでも無いだろう。
しかし、このように今、麗夏を人質に取られた今、煌矢が取れる選択肢はひとつしか無かった。
「……俺は……何をすればいい」
「あっははァ!!! 待ってたよその言葉! まずは完全オリジナルの秘蔵アーケインギア。これの試運転を頼むよ! 君が寝ている間に色々な調整は済ませたけど、やっぱり動かしてみるまでは分からないからね」
拘束が解かれる。
雲晴の手にはそのアーケインギアと思わしき何かが握られていた。
アーケインギアとは、魔法科学技術により生み出された新しい兵器の総称である。
魔法を科学的に解析し、使用者に流れる魔力を利用することで擬似的に魔法を扱えるようにするものや、単純な身体強化を行うものまで様々だ。
「あぁ、そうだな」
「ひひっ……やけに従順だね?」
「防衛士は装備を怠った者から死んでいく。この辺りの調整は時間をかけてでもやる価値はある。違うか?」
「異論は無いよ。そういうわけで、じっとしててね!」
手に持っていたものを煌矢の顔に押し当ててくる。それはひとりでに動き出し、顔全体を覆っていった。
内部はディスプレイ状になっており、起動演出が流れた後、視界がクリアになっていった。
現在の魔力量を表すゲージと、属性値を表すであろう六角グラフがある。全てが均等な六角形になっている。
ふと、腕を見ると既にサイバーチックな武装が施されていた。
「すげぇな……」
今まではスーツ型アーケインギアを着るのでさえ時間がかかっていた。それをこの技術を使えば3秒にも満たない時間で済ませられるということになる。技術の進歩を身をもって体感した瞬間だった。
「これは人工異界裂の技術を応用して作り出した、何処にも公開してない独自のシステム。気分はどうだい?」
身体を捻らせたり、ジャンプをして動きに不自然さが無いか確かめる。
「悪くない。むしろ良い感じだ」
身体が軽くなり、身体能力の向上を感じた。
少しすると、空中に複数枚の画像と、ビルのデータが映し出された。
「今、データを送った通り、反対策組織は、居住区エリアから2km離れたこの廃ビルに立て篭もっている。異界対策庁の職員が対応に当たっているが、どうにも手を焼いているようでね。これ以上負傷者が出る前に君にはこの秘蔵アーケインギア一式を使って、裏から敵を殲滅。麗夏ちゃんたちを救ってもらう」
「了解した」
「……よし、こっちも調整は終了した。あとは実戦あるのみだ。ちょうど今ここと現場を繋ぐ人工異界裂が開いた」
背後に写真で見た現場に繋がる人工の異界裂が現れた。
「ワープまで出来るのか……はぁ、ついてけねぇ」
人工異界裂の汎用性の高さと雲晴の技術力にひどく感心していた。
「なに、簡単だよ! 極薄の人工世界を挟むようにして、人工異界裂を作るだけさ。出口の座標を設定してね」
「これ、流石にオーバーテクノロジーだろ」
「欠点は大量の魔力を使っちゃうことかな。距離に応じて消費する魔力も大きくなっちゃう。まあ、今回は君の魔力を使わせてもらったから良いんだけど」
「……あ、ほんとだ」
魔力を表すゲージが1/10個分減っていた。
「だから帰りの分は取っといてね。じゃあ、頼んだよ」
煌矢は現れた異界裂を潜り抜け、廃ビルの裏口へと出る。
断続的に銃声音が聞こえてきた。
「裏口に誰もいないのは不自然だな……」
「んー、確かに? とんでもなく強いのがいたりしてね」
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