第5話
昼休み時間に、特訓用人工異界に集まる。
「改めて言うが、俺は風魔法の専門家じゃないからあんまり役に立つかは分からないが、それでいいなら力になるよ」
「うん、お願い。得意で負けるのは嫌だから」
「あはは……」
一体何基準で負けたと思っているんだろうか。
「まず風鳴さんの魔法の使い方を教えて。前の演習を踏まえてパッと見た感じだと、魔法を纏う感じだと記憶してるけど」
「うん。身体に纏うイメージ」
腕に風の渦が纏われる。
「あの標的に攻撃するならどうする?」
用意されている魔物を模したマネキンを指さす。
すると、太腿に帯刀している短刀を出した。
「こうします」
かなりの初速を出し、一瞬でマネキンまで接近。横に一刀両断した。
短刀の刃渡りでは不可能な厚みをしているはずだが、それをものともしない威力と範囲を持っていた。
「なるほど。風を脚に纏って、進行方向と反対に押し出す。これを高速で繰り返して接近するわけだ」
こくりと頷いた。
「短刀を選んでいるのも、軽い上に風を纏わせれば擬似的な刃になり、リーチの問題を解決できるからか。面白いね」
またこくりと頷く。
「自分の体を傷付けず風を纏えるだけの精密さがある……そうだな、これは明らかな強みだ。課題は防御面だよね」
「そう。一撃で倒せない相手は苦手……」
「遠距離の攻撃手段は?」
「ない……です」
「そっかぁ」
全て近接で対応するとなると、素早く倒せなかった場合に反撃をくらってしまうのが容易に想像できる。
「ちょっとそれ貸して」
短刀を受け取り、マネキンの方を向く。
「こう言う感じに!」
それを勢いよく振り、風の刃を押し出す。
マネキンに当たり、一部がえぐれる。
「指向性を持たせて射出! 出来そう?」
「……やってみる」
短刀を返す。早速刀身に風を纏わせる。そして、勢いよく振ると同時に、風の刃が射出された――
しかしそれはマネキンに当たる前に霧散した。
単純な威力不足では無いだろう。身体から離れすぎた魔法の制御が苦手なように見える。
背中からでは顔は見えないが、落胆の気を感じ取れた。これは攻撃可能距離という観点で負けたからだろう。
「……もうちょっと近くでやってみて」
5歩ほど近付き、再び振ると今度は霧散せずにマネキンに当たり、抉ることに成功した。
「……!」
振り向いた風鳴は唇を噛み締めてものすごく嬉しそうな表情を浮かべていた。
かなりハマったのか爆速で連射している。復活するマネキンを破壊し尽くしている。
要するに中距離なら行けることが分かった。正直この距離で爆速で攻撃されたら、相手からしたらたまったものじゃないだろう。だが、これは結局は攻撃を受けないことを前提とした戦い方。根本的な解決にはなっていない。
「中距離連射は実用的だな。次は攻撃を許した際の防御面の強化をしてみよう」
「うん、防御の方は今ちょうどアイデアが降ってきたんだ!」
「ほう?」
「風バリアとか出来ないかなって! 要するに、受ける攻撃に対して反対方向に風を発生させて威力を相殺……するんだけど……」
途中まで元気に話していたが、途中から失速していった。一連の流れが遠距離攻撃を試した時の風の刃の挙動を彷彿とさせる。
「確かに風鳴さんの精度や発生速度なら出来そう」
煌矢の魔法は風鳴ほどの発生速度や精度は無い。そのため咄嗟の防御や移動には滅法弱い。
サンドワームの砂ビームを避けきれなかったのもこれが原因だ。
「つまり俺が風鳴さんを攻撃。風の力で相殺を狙う訳だ」
「はい! パンチ、お願いします!」
「わかった。じゃあ、行くぞ」
気は引けるが、そこそこの速度でパンチを繰り出す。
「ひぃっ!!」
すんでの所で止める。元々当てる気は無いが、この調子だと先は長そうだ。
だがほのかに拳に風の抵抗を感じた。
「ちょっと待って……怖い……」
近中距離主体だが反撃は怖い。それにこれだと遠距離主体の敵と戦う時が特に大変そうだ。
「まずは魔法弾で練習しよう。俺も女の子に近接攻撃は気持ち的にしたくない……」
「はい……」
距離を取り、剣を取り出し風鳴に向ける。
無属性の魔法弾を一発放つ。
「あうっ!」
額に直撃する。
「まあそうだよなぁ」
言うは簡単だがすぐに出来るとは限らない。だが理論と実力的にはいつか出来る気がするというのが両者の見解だった。
「休み時間が終わるまで付き合うよ」
「ありがとう……!」
「折角頼ってくれたしな。精一杯応えたいんだ」
それから昼休み時間終了の5分前まで風バリアの練習を続けた。
「放課後も風バリアの習得、手伝ってくれる……?」
「あー、ごめん。今日は難しいな……家の用事があるんだ。明日なら多分いけるかな?」
「そっか……うぅん、それじゃ仕方がないね。ありがとう! じゃあ明日はお願い!」
このちょっとの時間でかなり親しくなれた。まだここへ進学して1ヶ月も経っていない為、話せる程度のクラスメイトはちらほらいるが、友人と言えるのは御津羽ぐらいだった。故にちょっとだけ煌矢は浮かれていた。
午後の授業は変わらず通常授業だ。
チャイムと同時に開放された煌矢は足早に学校を後にした。
帰宅すると、一つの荷物が届いていた。
「おにぃ、これ何?」
妹の麗夏が寝ぼけた眼で荷物の中身を聞いてくる。
「ゲームだよ。新作の……な」
早速梱包を取り、ゲームとご対面する。
「じゃあ無駄使い?」
「……まあまあまあまあ。娯楽として……ね?」
「別に良いけど。私が稼いでおにぃが浪費する。いつもそうだよね〜……このヒモ男が」
「いやちょっと言葉遣いがね!?」
「私が異界対策庁の魔法被検体にならなかったら、今頃飢え死にしてるもんね〜?」
「あの、えっと……すいません。麗夏様のおかげで今日も三食屋根付きの家で暮らしていけます……」
「ふふん。別にいいけど、誠意が足りないよね?」
麗夏が獲物を見るかのような眼で近付いてくる。これは、あれだ。ゲームはしばらくお預けだ。
あぐらで出来た足の隙間にすっぽりと麗夏が収まる。
この状態は通称お兄ちゃんに甘えたいモード。満足するまではこのまま身動きが取れない。唯一トイレのみ許される。
「……今日女の子とイチャイチャしてた?」
「イチャ!? ……してないけど?」
「おにぃに出来るわけないもんね。ぷぷっ」
「こんにゃろぅ……」
「早く彼女の一人や二人連れてこいよな〜」
頭をガンガンと胴にぶつけてくる。
「なんだこいつ」
霜凪 麗夏。彼女は煌矢の本当の妹では無い。というのも、魔物の侵攻により故郷が崩壊した時、煌矢と両親が逃げた先で見つけた孤児だった。
此処へ逃げてきた際、魔法への適正が異常に高いことで異界対策庁の魔法被検体として勧誘を受けることになる。
母や父は現在まで行方不明となり、金銭に困り飢えていたことから、麗夏が自ら志願する形でこの家と協力金、また俺の学園への入学権利を得ることになった。
それからは定期的に麗夏が魔法被検体として実験に協力することで、多すぎるほどの金銭を報酬として受け取っていた。
「明日だもんな……」
「おにぃは何も考えなくて良いの。私は出自もよく分からない謎だらけの美少女。急にいなくなってもお金はあるし平気でしょ?」
さっぱりとした声で問う。
全然平気なワケが無い。血は繋がっていなくても、共に過ごしてきた家族であることに変わりは無いのだから。
問いに答えるよう、強く抱き締めた。
「は〜、おにぃは私がいないとダメダメだなぁ〜」
くすくすと笑っている。こっちの気も知らないくせに。
「大丈夫だよ、研究所には友達もいるし、優しいお姉ちゃんもいるし! あーあ、あんな優しいお姉ちゃんがおにぃのお嫁さんだったらな〜」
「そりゃあ……感謝しなきゃいけないな……」
「おにぃ、晩ご飯食べた〜い」
「あぁ、そうだな。ハンバーグでも作るか」
「うぉー! やったー!」
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