第21話 そんなこと、許されない……
「スベリア、ニコくんを入れよう」
「は?」
それは、ワタクシの部屋で集まっているときのこと。
突然、親友であり仲間のジニーは真面目な顔でそんなことを言いだした。
今日集まった理由。それは、今後ワタクシ達に必要となる、パーティの4人目を決めるため。
ダンジョン攻略の課題は、この学園において最重要。
いや、それに限らず。学校の行事などでも、何かと4人単位で動くことを推奨されている。
ワタクシ、シャイア、ジニー。
この3人は一緒にやっていくとすでに決めているが、後一人を中学校の内に見つけることはできなかった。
だから高校に入学し、クラス全員と挨拶も終わったこの日。
4人目を決めようとしていたのだけれど……。
「いや、ニコはないですわ。ニコは……」
冗談言っているのかな?と悩むところ。
普段ならば『何言ってんですわw』なんて笑い飛ばせるのだけれど。ジニーが真剣な表情をしているため、微妙な反応になってしまう。
「そーよ、なんでニコなのよ。アイツは、一番ないでしょ。グズだしさぁ」
ワタクシの意見に、シャイアもたまらず賛成する。
彼女は頭脳労働が苦手なので、こういう決め事のときは空を眺めていることが多いのだが。流石に、我慢できなかったようだ。
ワタクシとシャイア。
その二人から、困惑と不満の混じった視線を浴びるジニー。しかし、彼女が気にした様子はなかった。
「やっぱり、反対か……」
「そりゃ、そうなりますわよ……。入れる意味わかりませんもの……」
そもそも、仮に、万が一。いや、億が一。
ニコが欲しくなるほど魅力的な人物だったとしても。
それでも、心情的には入れたくない。
……シモン様といちゃつくところを見せられたら、パーティリーダー権限で別れさせたくなるだろうから。
「これは、スベリアのためを想っての提案だったんだけどなぁ……」
「はぁ?」
ワタクシの、ため。だと?
ニコを仮に入れた場合、ワタクシの胃と心が破壊されることなんて目に見えている。
それがどうして、ワタクシのためになるというのか?
「どういうことですの……?」
「それはこれから説明するよ。まず、ニコくんをパーティに入れることには3つ利点がある」
立ち上がり、大仰に手を広げながら。
学校一の秀才と呼ばれた彼女は語りだした。
「一つ目、スベリアの家。フォネカー家について、もしニコを仲間にしたら、ノーヴィ家との繋がりが強くなる。それは、『魔王』を目指す君にとって大きな利点じゃないかな?」
「…………まあ、確かに」
ジニーの言っていることは正しい。
ワタクシの目的、そして一族『フォネカー家』の悲願である。家から魔王の輩出すること。
もっと言えば。ワタクシが、魔王になること。
確かにその観点で言えば、ニコと仲良くしておいて損はない。厳密に言えばドロシー様と、だが。
四天王位奪取戦という、力比べで奪うことのできる『四天王の座』とは違い。
魔王の選出は、腕っぷしだけでは決まらない。
四天王の全員に、魔王であると認めてもらう必要がある。
だが、全員に認めてもらうなど至難の業だ。
魔王に忠誠心が篤い奴なんて、到底『新魔王』を認めたりしない。
だからこそ、魔王になると欲するならば。まず、四天王を下すしかない。力ある4人の配下を集め、4つの四天王位を配下強奪させてから、魔王となる。それが、魔王の正道。
ーーーしかし。
「今ワタクシ達がドロシー様に勝つのは不可能ですから……。確かに、その点で言えば、ニコと仲良くしておいたほうがいいですけど……」
「まあ、もう、戦いたくないね……。思い出すだけで、吐きそう」
友達の母であり四天王という、強すぎる敵の存在がある。アイツが現役のままなら、ワタクシ達魔王になれなくね?と何度も話し合ったほどに、強すぎる奴が。
確かに、ニコと仲良くするだけで魔王就任を認めてくれるなら、安いものなのかも……。
少しだけ納得してしまったワタクシ達に対して、ジニーは指を2本立てて続けてみせる。
「じゃあ、次だね。二つ目はクラスがまとまるってこと。今はスベリアの派閥が一強だけど。
ニコくんを入れなかったら、ウチのクラスにニコ派閥ができる可能性があるよ」
「ニコの派閥?あの子はそんな柄じゃないでしょう」
疑問を投げかけるワタクシの声にシャイアも同調する。
「うんうん!アタシもそう思う。アイツにそんな器ないし。それに、アイツに従うヤツいるの?」
現在のクラス。
新しく入った高校のクラスには、貴族が何人かいた。
いや、何人も。いた。
しかし、血筋の良さで言えばワタクシとニコの2強になる。ある程度有力そうな人はいたけど派閥を作れるほどの人はいなかったはずだ。
まず、ワタクシの『フォネカー家』は先々代魔王を輩出している。古くからの魔国に根付く貴族であり、魔国で一番金を持っていると自負している。
ニコについては、今さら言う必要もない。
四天王最強の女の娘。確か父親も、そこそこ良い血筋だったはず。現魔王とドロシー様の関係作りのため魔王の遠い遠い親戚を宛てがったとか聞いたような。
ワタクシほどではないが、良い血筋ではある。
……血筋だけは、ですけどね。
「まあ、もうスベリアがクラスの代表になることは決まったようなもの。そんな中、スベリアの対抗となるニコに行くような奴は居ないよ、今はね」
「含みのある言い方ですわね……」
「将来的には、別だって言いたいのさ。
数ヶ月もすればスベリアと仲良くなれなかった奴らが、ワンチャンを求めてニコくんに群がるよ?そんな底辺どもが連帯してスベリアに反対するかもしれない。そうなると、厄介だよ?」
「……」
ワタクシは学校の行事、イベントなんかは事前に調べ尽くしている。
その中で多いのは、パーティ単位。次いでクラス単位だ。所属しているクラス間での競争は、間違いなくさせられる。そうなった場合、確かに派閥が二つあるのは望ましくない。
それも、底辺達に派閥を作らせるのは確かに怖い。
……ワタクシが魔王になるならば、例えクラス間の競争ですら負けるのは駄目だ。
それが後々の評価に繋がるのだから。
ならば、クラスの派閥を纏めるため、ニコをパーティに入れてしまうというのは、一理あるのかもしれない。
「…………………」
…………嫌だなぁ、本当に。
本当に、本当に、嫌だなぁ。
「じゃあ、最後だね。ニコくんをパーティに入れなかったら、君は人として後悔するよ、きっとね」
「それが、一番分かりませんわ……」
シャイアはもう話について行けないのかお空を眺めだしている。
仕方なくワタクシから再度疑問を投げかけた。
「個人的にはともかく、魔王になる上で利点があることは分かりました。……でもワタクシ、シモン様とニコが仲良くしてるところは見たくありません。
それがどうして、ニコをパーティに入れないことが、後悔につながるんですか?」
入れて後悔する。ならば分かる。
きっと魔王になるがため、パーティにニコを入れたら。奴の無神経と、シモン様の鈍感っぷりに吐き気を催す日々を送るのだろう。
いや、二人が悪いわけではありませんけど……。
でも、きっと憂鬱な日々を送る。
俯くワタクシに対して、ジニーはまた真剣な表情を作ると、どこまでも暗い瞳で訴えかけた。
「スベリア、これから言うことを想像してみろ」
一体、なんだ?
彼女の雰囲気が変わった気がした。
しかし、何か言うこともできず、黙って彼女の言う通りにした。
「良いか?想像するんだ。まず、ニコくんがパーティに入れてもらえず、派閥の神輿に担がれる。そんな派閥を作るやつなんて、当然ロクなもんじゃない」
目を瞑るワタクシの脳裏に。いかがわしい連中が浮かぶ。
「そんな奴らが、シモン先輩に目をつける」
頭の中でソイツらは、ニヤニヤとシモン様を見つめだした。背筋がゾワゾワと、寒くなる。
「奴らは、人間も腐っているからニコくんの想い人だってことを知ってても気にせず、彼の身体を狙うんだろうな。お風呂だって覗くのかもしれない。私達のように、あっつい治療なんかも受けちゃうかもね」
奴らは、間違ったと言いながら全裸でシモン様の風呂に押し入り。火傷したなんて名目で、彼に治療魔法をねだる。涎を流しながら、とても下品な顔で。
想像するだけで、ワタクシの腕には鳥肌が走る。
なぜか、ダラダラと汗をかいてしまう。
「そして、ある日。シモン先輩の許容値が広いことを知った奴らはこんなことを言うんだ。『派閥を抜けて欲しくなかったらヤラせてよw』なんてね。
シモン先輩は、それを断らないんだろうな……。
……これ、妄想だって、笑うかい?」
シモン様を犯す、ならず者たちの顔。
それが脳裏に鮮明に浮かび、ワタクシは荒くなった呼吸を抑えるのに必死だった。
妄想だなんて、笑える筈がない。
だって、ワタクシ達だって、そうなりかけたのだから。
シモン様に近づく者の、性根が腐っていたならば。彼はきっと、そのまま汚されるのだろう。
ワタクシが好きだった、あの純粋さは汚濁で消されてしまうのだろう。
「ハーっ……!ハーっ……!」
「なあスベリア、ニコくんには先輩を任せちゃおけないよ。だから、近くで管理するべきさ。
……どうかな?」
変な想像をするだけで。
とてもとても、頭が痛かった。
吐き気を催して、暴れだしたくなる。
私の初恋の人が、シモン様が、良心につけこまれ犯されるというのならば。
もし、それを実現させないためならば。
少しでも、その確率が下がるのであれば。
「…………分かりましたわ、シモン様には、ワタクシが絶対にそんなことはさせません。
ニコを、仲間に入れましょう」
「ははっ、ありがとう。分かってくれて嬉しいよ」
大仰に、楽しそうに。
それでいて爽やかに、ジニーは笑った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます