第20話 ごめんな、痛かったよな


 花咲き乱れる、1年の最初の季節。

 この春、中等学校を卒業し。新たに高等学校に入学したエルフのお嬢様、ニコは。



「あの、その、……ね、ねぇ~?…………す、すません」



 盛大に、高校デビューに失敗していた。



 (都会って、こんなに人に冷たいの!?)



 入学し、スベリア達3人と同じ教室になれたまでは良かった。最低限、彼女達と話すことはできたから。

 しかし、それ以外の友達ができる気配がない。

 せっかくの出会いの時期。新たな学友達と交流を深めようと、手当たり次第に声をかけようとしても、やんわりと逃げられる。結局、前からの知り合いである3人以外の交流は増えていなかった。



「ね、ねぇ~……スベリアぁ~……」



 困ったニコは、助けを求めスベリアのほうを見る。

 しかしーーー。



「スベリア様!私は、ガベル男爵家のーーー」

「スベリア様!ご挨拶に参りました、私はーーー」


「皆さん、よろしくお願いしますわ」


「…………」



 これが、金の力というやつか。

 魔国でもトップクラスに富を持つフォネカー家。

 そのおこぼれに預かりたい連中が群がっており、声も背丈も小さなニコでは気づかれそうにない。

 結局、彼女は友達を作ることは諦め、退屈そうに唇を尖らせていた。



(早く放課後になれ!シモンと目一杯遊ぶんだ!)




 ◇




「あれ?ニコくん、暇そうだね」


「ジニー!……うん、暇してる。なんか高校の人って冷たいねぇ~」



 机に突っ伏して寝たフリをする、ボクの長い耳に見知った声が投げかけられる。

 声の主はジニー。ボクの数少ない友達だった。

 彼女はボクの机に肩肘をつくと、目線を合わして話しかけてくれる。見知らぬ人に囲まれる中で、ジニーのように見知った人と話していると、なぜかとても落ち着いた。



「あはは、まあ義務だった中学とは違って、高校では利益を考える人が多いんだろうね。だから、皆スベリアに群がってる」


「うまくやってけるか、心配だよぉ……」



 クラスの人間は話しかけても反応が薄い。

 コミュ力が特別高いわけでもないボクが勇気を振り絞ってるのに……。これじゃ、心が折れちゃう。

 これから3年、このクラス?

 帰りたいなぁ。シモンがいるから帰らないけどさ。



「うーん、話し相手なら私達がなれるけど、『ダンジョン攻略』の時が心配だね」


「ダンジョン攻略?」



 単語は知ってる。

 ダンジョンというのは、稀にある異空間のこと。

 中には、財宝や貴重な素材、そしてそれを守る敵がいるとかって話。

 国の認定を受けた人しか潜っちゃいけないことになっているけど、結構無認可の盗掘者がいるらしい。

 ママがキレてたから知ってる。

 ダンジョンで馬鹿やるとドラゴン湧いたりするって話だからねぇ……。特に、シモンが来たあたりから、かな?盗掘者にブチギレるようになった。

 たまにヒステリックになるんだよなぁ……。

 更年期、かな?



「うん、ダンジョン攻略。私達も実際にやるそうだよ」


「ええっ!危険じゃんっ!」



 あんなの、底辺がやる仕事でしょ?

 なんで貴族のボク達がやらなきゃいけないんだ。

 一人で入ったら、ボクは死ぬ自信があるぞ。



「無理だよぉ~、ママに言って止めさせられないかなぁ~」


「あはは……。まあ、ダンジョン攻略はパーティ単位で出来るからさ。腕のあるクラスメイトを引き込めれば大丈夫さ。ニコくん、当てはあるの?」


「ないない、ないに決まってるじゃん。ジニー達以外に知り合い居ないよぉ」


「そっか、それは困ったねぇ……」



 ほんと、困ったなぁ。

 この調子じゃ、パーティの結成自体厳しいかも……。

 そうなったら、どうなるんだろ?

 余り物で、パーティ組むのかな?

 ……いや、流石にソレはないよね。だってボクだもん。ドラフト1位とは言わなくても、5位くらいにはなれるハズ。大丈夫だ。大丈夫、大丈夫……。



 そんな風にブツブツと、考えているときのこと。

 ふと、目の前のジニーが。


 ニヤリ。


 と、意地の悪い笑みを浮かべた気がした。



(?)



 けれど、それはほんの一瞬で。

 今の彼女はとても心配そうな顔を浮かべている。

 気のせい、かな?




「ニコくん、もし困っているならさ。スベリアとシャイアと、私とニコくん。この4人で組めないかスベリアに聞いてみようか?彼女が良いと言えばだけど……」


「えっ!?いいの!?」



「ああ、もちろん。友達だろ?私達」



 ジニーは、爽やかに笑っていた。

 うーん、良い奴!


 ありがとね、ジニー!




 ◇




 ちゅぷ……。ちゅっ……。れろ。



 ニコ様から与えられた、俺の自室にくぐもった水音が響く。その音は、俺達の口元。

 俺とジニーとの間で起きていた。



「きひ、先輩。ごめんなさぁい♡」


「まったく、お前は。ここは成長しなかったんだな」



 こうなった発端は、ジニーからの提案。

『お嬢様が高校デビューに失敗し、孤立している』

『それを、私が助けてあげようか?』


 なんて、友達想いの彼女の発言がきっかけ。


『でも、タダより高いものはないって言いますし、良かったら先輩のご飯を、また食べさせてくれませんか?』


 そんな、ご飯だけでお嬢様を助けてくれるという、優しい彼女の提案を、断る理由などなかった。


 普段からお嬢様にご飯を作ってあげている。

 だから、お嬢様のために用意しておいた食材を少し流用して、彼女の心意気に応えられるくらい。現状で、できる限り豪勢な料理を作った。


『あっ、私の故郷の風習で、人と久しぶりに会ったときはアツアツの料理を食べることになってるので、アチアチでお願いしますね♡』



 要望通り、アッツアツにもした。

 でも、少しアツアツにしすぎたかもしれない。



 彼女はまた火傷を負ってしまった。

 だから、責任をとって、こうして治療をしているという訳だ。なんかこういうの、懐かしいなぁ。



 ちゅぷ……、ちゅっ……、じゅぞぞっ!



 彼女の熱のこもる口の中に、唾を纏わせた舌を這わせる。今日の彼女は、凄く積極的だ。

 舌でも怪我したのか、俺の舌と絡ませるように動かしては。俺の水分がなくなりそうなほど、唾を吸い上げる。

 結局、そのまま10分くらいお互いの口を舐め合っていた。




 …………




「ぷはっ!もう、大丈夫か?」


「はいっ♡ありがとうございました……!」



 ジニーは大きく頭を下げる。

 上から見下ろす、彼女の耳は真っ赤で、じっとりと汗ばんでいた。まあ、大人になって火傷した、なんて恥ずかしいのかもしれない。


 顔を上げた彼女は、羞恥をごまかしているのか、ニヤニヤと笑みを零していた。



「本当に、ごめんなさい。いつも、迷惑をかけてしまって……」


「気にすんな、別に嫌じゃないからさ」



 そう、本当に嫌じゃない。

 もちろん、アレは治療行為。火傷してしまった彼女を治すために行ったことだ。


 しかし、考え方を変えれば。

 こんなに可愛い子とキスをできた訳で。

 俺に嫌な気持ちなど、あろうはずがない。



「あの、先輩にもう一つだけお願いがあるんです」


「うん?」


「私、大人になっても火傷なんてして、それで先輩に治療までしてもらう、ダメな奴なんですっ♡だからっ、だからっ、また、今後起きないように、私を罰してください!」



 ハーッ……。ハーッ……。

 まるで獣のような呼吸音。

 ジニーは荒く息を吐きながら、乱雑に服を脱いでいき。気がつけば、俺の自室には全裸のジニーが立っていた。なんか、こんなことあったなぁ。



「罰がなかったら、またやってしまいますから♡だからっ♡だからぁっ♡」


「……前にもあったけどさ、罰なんて言われても困るんだよ。俺はお尻ペンペンくらいしか、できないよ?」





「なら、それでお願いしますっ!!!!!」




 まったく、仕方ないなぁ……。

 プリンとしたお尻を丸だしにした彼女。


 その可愛いお尻を鷲掴み。

 大きく、手を振りかぶった。


「じゃあ、行くぞ?」



 パチンっ!



「ひいぃぃぃぃっっっ♡」



 俺は白い肌に紅葉が残るほど、彼女を戒めた。



 …………




 可哀想だから、もちろん後でお尻は舐めて上げた。赤くなったお尻が体液でベトベトになるまで、丹念に。

 女の子の身体に跡が残ったら可哀想だからね。



「ひひ♡きひ、うひひひぃ……♡」



 でも、身体を治したのに、ジニーはしばらく人語を話せなくなってしまった。ちょっと、やりすぎたかもしれない。

 ごめんな、ジニー。


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