第14話 寂しい思いをさせて、ごめんなさいね


 誕生日を祝わなくなったのは、いつからだろうか?


 母親が亡くなった年も、高校を卒業した年も。

 二十歳になった時も。

 なんとなく、大人になることを喜んでいたはずだ。


 でも、21歳の誕生日は夜勤明けで。

 自分の誕生日も忘れて、ただ眠っていた。


 放置していたカレンダーを雑に破ったときに、年をとったことに気づいて。

 その時、もう自分の誕生日を特別な日だと感じていないんだなと分かった。


 俺には親しい友人も家族もいない。この先、恋人ができる可能性も低い。

 だから、もう誕生日を祝うこと自体ないのかもしれないな。


 なんて、思っていたけれど。




「ハッピーバースデイ!ニコちゃん!」


「お嬢様、お誕生日おめでとうございます!」




 この異世界に来ても、親しい友人も、家族もいないことに変わりはない。

 でも、親しいご主人様はいる。

 ありがたいことに、俺はまた誕生日を祝えるようになった。





 ◇




「おおお……。これが、これがシモンの、裸……」


「……ほら、サッサと入りますよ」



 誕生日プレゼントは、ニコお嬢様から指定された。

『お風呂!お風呂一緒に入って!』

 なんて、この世界の男に言ったらドン引きされそうなものを、彼女は求めた。

 俺はいい。俺は構わないどころか、嬉しいのだけれど。

 あんまり、俺を基準にしないほうがいいですからね?

 学園の男に嫌われても、責任取りませんから。



「ちょっと待って。焼きつけるからっ……」


「んもー……」



 裸の彼女が、同じく裸の俺の身体を食い入るように見つめている。

 鼻息はフンフンと荒く、顔を近づけて眺めるものだから彼女の吐息が乳首に当たってこそばゆい。



「はーっ……はーっ……」


「……行きますよ」



 彼女の長い耳を摘み、風呂場のほうに引っ張る。

 エルフにはこれが一番効くのだ。



「ああっ♡耳はダメっ♡」



 ほらね。

 エルフの耳が弱いことはドロシー様で実証済みだ。




 ◇



 真っ白な彼女の身体に、湯船のお湯を流しかける。

 ……後ろから微かに見える横乳がとてもかわ……いかんいかん。

 仕事に集中しなければ。



「むふー、……じゃあ背中を洗ってもらおうかぁ!」



 何故か挑発的なお嬢様の言葉には答えず。

 薬液を手にとって、彼女の背中で泡立てていく。


 ……しかし、スッべスベだなぁ。



「んふふ♡もうっ、くすぐったいよぉ♡」


「すみません」



 毛のない彼女の身体では殆ど泡立たなかったが、薬液を追加しながら他の場所にも塗り込んでいく。


 まずは、肩。

 お餅くらい柔らかかった。

 この子、苦労してないなぁ……。


 次に、首。

 気分はリンパマッサージ師だ。

 流すようにゴリゴリと首すじを押していく。

 全体的にプニプニしていた。


 最後に、腕。

 両手で腕を握り、流れるように薬液を塗る。

 仕上げに手のひらを洗っていると、恋人繋ぎさせられた。お嬢様、邪魔せんでください。



「後は、自分で洗ってくださいね」


「……えっ、えー!?も、もっと洗ってよ!胸とか、ホラ、色々!」


「自分で洗えるでしょ……。来年から高校生なんだから、それくらいしてください」


「高校にもシモン連れてくから、いーの!」


「ダメでーす。ドロシー様にも甘やかさないよう言われてますから」


「……う、うう。生殺しだ、こんなのぉ……」



 ぶつくさ文句を言いながら身体を洗うお嬢様。

「ん!」とこっちを向いてきたので、泡だらけの身体にお湯をかけてやる。

 ……何が、とは言わないが。

 陶器みたいにピカピカだった。



「じゃあ、今度は髪を洗いますね。ホラ、後ろ向いてください」


「んー……」




 ◇




「なんで、せっかくの誕生日なのに、シモンと寝ちゃ駄目なのぉ…………」


「仕方ないでしょう?たまにはシモンくんも休ませないと、24時間仕事になっちゃうじゃない」


「シモンなら大丈夫だよー……」



 久しぶりに、ママが一緒に寝たいと言ってきた。


 別にママは嫌いじゃないけどさ……。なんでこの日なのかねぇ?

 ボクのプランでは、お風呂場でシモンに甘え倒し。

 悩殺した勢いで、裸のままベッドインする予定だったのにぃ……。空気読んでよね、ママ。

 若い者同士を邪魔するの、良くない。



「あーあ。シモンくんが来るまでは、私にベタベタだったのになぁ。ニコちゃんもすっかり懐いたわねぇ」



 頭の上で腕を組み、天井を見つめながらママが呟く。

 ……まあ、確かにシモンのことは好きだけどさ。

 懐くって言い方は動物みたいだから、止めてよね。

 ボクは懐いてるんじゃない、愛してるんだ。



「……ねえ、ニコちゃんは覚えてる?アナタが10歳くらいの頃に言ってたこと」


「ほえ?何の話?」


「……なんで、ウチの家にはお父さんがいないの?ってアナタ言ってたのよ」


「……あー」



 そんなこと、あったっけ?


 あったような、なかったような。

 言われてみれば、確かに。

 ボクの家にはパパがいないから、昔それを気にしていたこともあった気がする。

 ……でも、なんで今その話をするんだろ?



「アナタが寝る時に泣いてたのよ、パパ、パパって。それが私は申し訳なくってね……。でも、最近はね。シモンくんが来てからは、寝る時良く笑うの。シモンパパ、シモンパパって言いながらね」


「ええ……」



 ボク、寝言でそんなこと言ってたのか……。

 めっちゃ、恥ずかしい。シモンパパて。

 確かにシモンをお父さんに見立てて乳首を吸う夢は見た記憶あるけどぉ……。

 わざわざ、言わなくていいじゃん。やめてよ……。



「ふふ、恥ずかしがらなくても良いじゃない?シモンくんにパパになってほしいの?」


「…………まあ、そりゃあね。全人類の、女子の夢でしょうよ…………」



 シモンをエッチなパパにできるなら、この国の魔王だって、その重い頭を地につけ頼み込むことだろう。

 それぐらい、彼は魅力的なんだもの。

 ボクが素直にそう伝えると、ママはとっても嬉しそうに「そっかぁー♪」と笑う。



「ふふふ、それなら良いことあるかもしれないわよ?」


「えっ……?ママが、応援してくれるの?」


「うん、ママ頑張ってみるわ。だから、シモンくんとは仲良くね?」


「やったぁーーーっ!最高の誕生日プレゼントだよっ!ママありがとうっ!」


「ふふ、この子ったら。お礼なんていいのよ♡」



 たまにママは厳しいけど、ママのお陰でとっても幸せ!

 ママがシモンを連れてきてくれてから、ボクの人生は最高!ほんとボクは魔国一の幸せものだよ!



「ママ、大好きっ!」



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