第4話 ご当主様には、秘密ですよ?
「やだやだやだ!学校行きたくないっ!」
「……ニコちゃん、我儘言っちゃダメよ?」
俺が屋敷に来てから、一ヶ月ほど経った頃。
お嬢様はストライキをし始めた。
「シモンと一緒にいたいのっ!中等学校なんて無駄じゃんっ!高等学校からが本番だからいいじゃんっ!」
お嬢様が今通っている学校は、比較的お屋敷の近くに存在する。
馬車で揺られながら、20分と言ったところだろうか?何度か行ったことはあるが、立派な門構えの学校だった。
お嬢様が望むため、俺は毎朝お嬢様の送り迎えをしている。
けれど、部外者の俺が学校の中まで入れる訳はなく。
学校に送った後は俺は一人で帰り。
お嬢様は、一人で勉学に励む。
時間としては、大体6~7時間くらいだろうか?
彼女いわく、その時間が耐えられない、らしい。
「いい加減にしなさい、そろそろ怒るわよ」
「だってだって!昼間学校に行ってたら、いつシモンに相手してもらえるのっ!?学校に行かせるなら、夜のシモンの時間を頂戴よっ!」
「い、いやいや、夜は、駄目よ。シモンくんには大事な仕事があるんだから……」
「じゃあそれは昼間の内にやらせてよっ!それでいいでしょっ!」
「…………」
腕を振り、飛び跳ねながら駄々をこねるお嬢様。
呆れたように娘を見つめ、ため息を吐くドロシー様。
二人は睨み合い、しばし硬直する。
普段仲の良い親子たちの衝突。
流石に俺も気まずくなって、口を挟むことにした。
「……まあ、よろしいのではないですか?」
「えぇー……?シモンくんがそういうなら……、いいけどぉ」
渋々、といった様子で口を尖らせながら、ドロシー様は了承する。
それを見たお嬢様は、天井に届きそうなほどバンザイポーズで跳ねていた。
……いけません、お嬢様。
ワンピースを着たまま高くジャンプしたものだから、捲れて色々見えてしまっている。
胸の辺りにピンク色の何かが見えた気がして、俺はそっと横を向いた。
「ぃよっしゃあ!言ってみてよかったぁ!」
「……ニコちゃん、決まったんだから早く行きなさいよっ。行っておくけど、遅刻したり真面目に勉強しないならシモンくんは専属じゃなくするからね」
「ええっ!?」
珍しく不機嫌なドロシー様の、脅すような言葉。
それに慌てたお嬢様は駆け出し、学校への馬車に飛び乗っていった。
◇
「ご主人様ぁ♡どうですかぁー……♡」
「……綺麗だよ、ドロシー」
「きゃぁーーーっ♡」
真っ昼間のお屋敷。
カンカン照りの太陽が昇る中、俺は今ドロシー様と。
いわゆる、立場逆転プレイをしていた。
執事である俺は、彼女の主となり。
主たる彼女はメイド服(スカート丈短め)を着て、俺に奉仕する。
そんな背徳的なプレイを、今日の彼女はご所望だった。
「お、お紅茶、淹れますねっ」
少し額に汗を流し、金色の髪を顔に貼り付かせた彼女。
上気した顔を浮かべるドロシー様はとても色っぽい。しかし、それだけではない。
普段スーツを着ている彼女が、メイド服を着ていると一段と可愛く見える。
受け取る印象が、まるで変わり。
下手したら、20歳くらい。俺の年下かと思うほど、今日の彼女は若々しく見えた。
「えーとっ、どこにあるのかな~?」
彼女は慣れない手つきで紅茶を探そうとする。
棚に向かい手を伸ばすたび、そのふくよかな巨乳はポヨポヨと揺れ。
短いスカートは、誘うように揺らめいた。
……まあ、こんなの勃起するよね。
「あ、あれ~?」
「……ドロシー。ここだよ」
ドロシー様の細い身体を、後ろから包むようにして。
彼女の両手を乱暴に掴み、紅茶の場所まで誘導する。
隆起したものを、腰にグリグリと押し当てながら。
「あっ♡……もう、ご主人様ったら……」
「紅茶をだすくらい、早くしておくれよ、……全くキミは使えないな」
「ひぃんっ♡ごめんなさぃっ♡」
……ここまで全部。
彼女が書いた台本に従って、プレイをしている。
ノーヴィ家の当主として、傅かれる生活を送る彼女。
だからなのか分からないが、プレイの時はいつも男性側が上位になることを望んだ。
優しくするよりも。激しかったり、乱暴にされるほうが彼女としては楽しいらしい。
…………誰かの上に立つのって、それはそれでストレス溜まるのかなぁ。
「もう紅茶はいいよ。早く、俺に奉仕しなさい」
「はいっ♡ドロシーっ、いきまぁす♡」
◇
「んも~ぅ、なんで迎えに来てくれなかったの?」
「すみません、ニコお嬢様。ドロシー様からの仕事が長引きまして」
「まったくも~、その分夜は構ってよねぇーっ」
夕方ごろ、フグのように顔を膨らませたお嬢様が学校から帰ってきた。
俺を見つけるやいなや、ドカドカと近づいてきて。
俺の肩の辺りに頭をグリグリと押し当てる。
マッサージみたいで、ちょっと気持ちいい。
小柄な彼女の手を取って、屋敷の中へ。
お嬢様は小腹が空いているらしいので、まず厨房付近へと向かう。
「なんかお菓子あるー?」
「ここにありますよ、紅茶も淹れますね」
「おおー……。シモンったら来たばかりなのに、もう場所も覚えてるんだ。凄いねぇ」
「まあ、仕事で使いますから」
◇
「えーっと!じゃあね、今夜は本の朗読して!ボクの隣で!ボクが眠るまで!」
どうやらお嬢様はネグリジェ派らしい。
寝巻きでベッドに入ったお嬢様は横になると、自分の横をパンパンと叩いた。
『早く来い』と言わんばかりに。
「あの、お嬢様が眠った後は、どうするんです?俺が動いたらお嬢様が起きるんじゃ……」
「うーん、そうなる危険性がある以上、一緒に寝てもらうしかないかなっ!? いやー、これは仕方ないねぇ。仕方ない仕方ない」
「はあ……」
ニコお嬢様は押しが強い。
結局、ベッドから飛び出したお嬢様にグイグイと引っ張られベッドの奥側に押し込まれてしまった。
……今日はもうここで寝るしかないか。
「何の本にするかは選ばせてあげるっ!」
そう言うと、彼女はドタドタと駆け回り。
3冊の本を差し出してくる。
いや、どれも日本語じゃないから読めないんだけどね。
「鉄板で言えば【昼下がりの執事の誘惑】でしょ?
【最悪の目にあってきた人間の男の子捕まえてエルフ流の虐待してみた】とかも結構好き。
【〜妻のために身体を売る俺のチンポが勃たなくなったので、ダンジョン攻略でED治療する〜】はちょっと長いかな?どれがいい?」
「……それだと一生眠れなさそうなので、俺の故郷の話でもいいですか?」
「へ〜、面白そう、いいよっ!」
多分さっきの本は官能小説の類だろ。
そんなの読むわけにもいかない。
エルフ虐待だけは興味あったけど、どっちにしろ読めないしな。
「では、ウサギとカメという題名の話をさせてもらいます……」
◇
「…………うーん。なんか、作者の意図が、透けてて……、あんまり、……すきじゃない……」
ニコお嬢様には、刺さらなかったようだ。
残念。
けれども、睡眠導入効果はあったようだ。
お嬢様のまぶたは重くなったように開いては閉じていく。
「でも、シモンの、演技は、ふひ、良かった……。なんか、やってた…………?」
「ありがとうございます、お嬢様」
夢現の状態ながら、まだ起きようとする彼女の頭を撫でる。
ふわり、ふわりと。
やがて、安心したのか彼女は眠りに落ちていった。
「ドロシー様と最近ずっと演技してるから、そのお陰かもしれませんね」
なんて俺の声は、もう聞こえていないようだった。
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