第2話 殺した・・・

「ギャギャッ!!」

 こん棒を持った頭髪豊かな『ゴブリン』は、

 躊躇なく俺に向かってきた。


 恐怖と同時に俺は、



(すごい・・・)


 そう思った。


(こんなに『やる気』を出して・・・、

 それも自分よりずっと大きい相手とりあおうなんて・・・)



 だが、

 それ以上の思考は許してもらえなかった。


 肉迫してきた『ゴブリン』は、

 俺に対してこん棒を振った。


「うわっ!」

 慌ててバックステップでかわす。


 まともにくらったらどうなっていたか・・・。


 そうだ、ここは前の世界とは違う・・・。


 人が当たり前のように武装して、

 当たり前のように魔物と対峙する、

 そんな世界なのだ・・・。



「このっ・・・!」


「ギャッ!」


 迫ってくる敵に、

 俺は正面から蹴りを入れた。


 胸にめり込んだ足先に、

 相手の骨が砕ける感触が伝わる。


 幼児なみの体型でしかない『ゴブリン』は、

 そのまま思い切り吹っ飛んだ。


 ゴロゴロと転倒するのを追いかけた俺は、

 うつ伏せになった相手の背中を思い切り踏みつける。


「ゲプァ!」


 内臓でも潰れたか、

 『ゴブリン』は血反吐をまき散らした。


 俺はそのまま膝を折り、

 ショートソードの切っ先をを『ゴブリン』の延髄に・・・。


「ギッ・・・」

 と、わずかに声をもらしたのを最後に、

 『ゴブリン』はそのまま動かなくなった。



(――やった・・・!)

 俺は生き延びた。


 そこでようやく、

 呼吸が興奮で荒くなっているのに気づく。


 まるで、

 前世で小学生の頃、

 いじめっ子に泣きながら殴り掛かった時みたいに・・・。


 同時に、

 潮が引くように危機感と緊張が解け、

 目の前の光景が俺の中で現実味を帯びてくる。



 足元に横たわる人型の死体・・・、


 その苦悶の表情・・・、


 広がる血だまり・・・、


 刃を突き立てた時の感触・・・。



(殺した・・・)


 その事実を自覚すると同時に、

 激しい吐き気がこみあげてきた俺は、

 そのまま地面に崩れ落ちた。


「う・・・げぁ・・・」


 だが、

 口の中に広がるのは唾液だけで、

 喉からは何も出ない。


 それはそうだ。


『生まれて』から、

 まだ何も食べていないのだから・・・。



 その時、


「おい、見つけたか?」


「いや、こっちのほうに逃げたはずだが・・・」


 ふいに、森のほうから声が聴こえてきた。


(この世界の人間か・・・?)


 その声に耳を傾けた事で、

 殺しのショックからいくぶん立ち直れた。


 それと同時に、

 すぐに身を隠そうと思った。


(正直、今はまだ誰にも会いたくない・・・。

 生まれ変わったばかりなのに急すぎる・・・)


 せめて、

 人と会うなんていうイベントは、

 気持ちが落ち着き、

 ある程度この新しい人生に慣れてからにしたい。


 ここは、

 女神様からもらったあの力で・・・。



「『ホーム』」

 俺がそう口にすると、

 いきなり目の前に外枠付きの扉が現れた。


 そう・・・まさに、

 ドラえもんの『どこでもドア』のような見た目の代物が・・・。


 俺は、

 ノブを回し扉を開け、

 外枠の向こう側へ進むと・・・。



「ただいま・・・」


 目の前には、

 前世で暮らしていたアパートとそっくりな部屋、


 その玄関に俺は立っていた。


 部屋の床材は、

 前世のフローリングそのものだ。



 ――『ホーム』・・・。

 女神様からもらった『恩恵ギフト』の一つ。


 どこでも好きな時、

 あの扉を出してこの部屋に事ができる。


 とりあえず、

 玄関で靴を脱ぐと、

 俺は裸足で中に上がり、

 奥の部屋のドアを開けた。



「ありがたい・・・」


 部屋にはベッドがあった。


 それも見るからに新品のものが。


 他には机に本棚、タンス、

 そして食事用のテーブル・・・か。


 どれもほぼ、

 前世で部屋にあったものにそっくりだ。


(パソコンやラジオはなし・・・か)


 まあ、当然だな。


 そして、

 今はもうこれ以上の確認をする気にはなれない。



「疲れた・・・」


 前世で何度となくつぶやいたセリフとともに、

 俺はベッドの上に倒れこみ、


 そして、

 死んだように気を失った。



【残り3599日・・・】





 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 ??は語る・・・。


「あの人にとって、

 なかなかの洗礼だったようですね。


 どうか温かく見守ってあげてください。


 そして、この世界を維持するために、


 『フォロー』はもちろん、

 どうか下にある

 『☆』や『ハート』も押してくださいね」






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る