第51話 関東旅行④
俺と新と理子は電車を乗り継ぎ、理子への実家に向かっていた。
東京駅に着いた後は、サイトで高評価のラーメン屋で昼食を済ませた後、無事ホテルに荷物を預けることができた。
唯と香川に帰った時はうどんについて力説したが……ラーメンもめちゃくちゃ語る事が多いんだよなぁ。今回はそういう雰囲気じゃないので語るのはやめたけど。いつか本でも出そうかしら。
まぁそんな話は置いといて。いよいよ理子の両親と会う事になる。
いやめちゃくちゃ緊張してますけどね? 結婚式の挨拶でもこんなに緊張しないんじゃない?
理子はもちろんの事、珍しく新も少し緊張しているように見えた。所詮は俺たちも一人の人間。無敵でもなければ、いつもハッピーエンドにするヒーローでもない。
唯や新の件は、改めて自分でも上手くいったと思う。過大評価かもしれないけど目的は達成したわけだし、納得する形で事を解決することができたとは思っている。
――じゃあ理子の場合は何をハッピーエンドというのだろうか?
両親と和解すること? 理子が今までの事を清算して納得すること?
渋谷先輩や孝さんの件とはまたどこか違う、家族関係の溝以上に深い闇があって……理子はそうやって親に縛られてきたからこそ、苦しみ悩んできた。
未来なんて誰にも分からない。だからこそ人間は不安な気持ちになって努力をするのかもしれない。
どうか神様。理子にもハッピーエンドを――
◇◇◇
「……ここが私の実家です」
電車を乗り継ぎ、少し歩いていた理子の実家はとても立派な建物だった。新の家には流石に劣るが、首都圏に建っているというだけで凄いわけだし……理子の話を聞いて裕福な家庭だろうなとは思っていたが、俺の予想以上だった。
「……じゃあ、インターフォンを押しますね」
理子は緊張して少し震えながらも、何とかインターフォンを押した。俺と新もまた一段とスイッチが入る。
「どちら様ですか?」
インターフォンの方から女性のような声が聞こえてくる。おそらく理子の母親だろう。まだ誰が来たかは分からないようで、声も優しい雰囲気で落ち着いている。
「私だよ」
「その声はもしかして理子? 何でここにいるの!?」
理子が来たことを打ち明けると、理子のお母さんの声色や様子が大きく変わった。ここでインターフォンの通話が切れる。血相を変えて玄関から出てくるのでなかろうか。
こういう時に普通の親なら、何があったのかとまずは子供を心配すると思う。ただ理子の母親の様子の変わりようを見ると……
俺の予想は大当たりのようで、理子の母親はかなり怒っているような様子で玄関から出てきた。ただ理子だけじゃなく俺と新がいる事を認識したようで、そこで少し冷静さを取り戻したようだった。
「もしかして……あなたたちが理子をたぶらかせたの?」
俺たちを見ての理子の母親の第一声だった。
俺の率直な感想を言うなら……おかしくてたまらなかった。
どうもこうして腹が立つ人は、自分の責任と微塵も思わないのだろうか。
俺が対峙した渋谷先輩や孝さんはまだいい人だったんだな、とこの時に俺は思った。渋谷先輩にしろ孝さんにしろ、最後は自分の非を認めたから。
ただ理子の母親を見ると、自分は完璧な人間と思っているような感じがして、俺はかなり不快な気持ちになった。
別にプライドが高い人がダメみたいな話ではない。何というか……理子にここまでの事をしてきて、理子はかなり悩んでいたのに、良い親面している理子の母親に腹が立ったのだ。
話が通じるわけない。孝さんの時とはレベルが違う。呆れの気持ちなんかとっくに超えて、今は怖い気持ちでいっぱいだ。
「お母さん違うの。この二人は大事な友達であって尊敬できて心強い人で……話を聞いてもらうために今日は一緒に来たの」
「理子も目を覚ましなさい? あなたはもっと立派な人間になるべきよ?」
理子の話をちゃんと聞く気もなければ、何も分かってないくせによく言うよ。
俺は知っている。理子が苦しんできた事も、過去を乗り越えて頑張っている事も、俺たちを信頼してくれた事も、本当は明るくて笑顔が可愛い事も……知っている。
大人はいつでも立派とかそんな曖昧な言葉を並べて誤魔化して……俺たちの事なんか何も分かってないくせに。明確な答えや良い未来に導いてあげるのが、大人の役割なんじゃないのか。
こうしてイライラしている俺を優しく手で制しながら、新が少し前に行って理子の母親の正面に立つ。
全くお前って奴は。周りを見ていないようで、本当にちゃんと周りを見ているんだから。俺の親友は本当に頼れる奴である。少し冷静になれってか。
「さっきから随分と好き勝手言ってくれますね? 理子が両親をどれだけ憎んでいるのかご存じないんですか? その様子だとご存じないでしょうね。脳がすっからかんなのでしょうか? 激安セール品の脳をお持ちのようで、頭が軽そうで羨ましい」
あ、新の奴容赦ねぇ……。理子も少しひいちゃってるし……。
ただ新の行動は非常に考えられている。理子の母親が持っていった空気を、一気にこちら側に引き戻したんだ。俺が新の時にお互いに話せる場所を作ったことを、新は真似ているのかもしれない。
「理子が私たちを恨んでいる? 冗談もやめて欲しいわ」
「だからアホなんすよ。自分が間違いないと思っているし、これだけ言っても疑う気すらない。心当たりぐらいなもんですかね。バカなんですかね。ボケがもう来てるんですかね。それとも何ですか? お笑いですか?」
新の奴、かなり煽りスキルが高いな……。もしかしてこれも孝さん譲りなんだろうか。孝さんも仕事ではプロフェッショナルだし、ミスするとめちゃくちゃ詰められそうだもんね。
そんな新の言葉に理子の母親はかなり激昂し、話してられないと思ったのか新を無視して理子の手を掴む。
「これで目が覚めたわよね? 母親を馬鹿にされて腹が立たないわけないわよね?」
立たないわけはない。
理子は新の様子を見て勇気を貰ったのか、母親の手を振りほどく。流石の理子の母親でも少し戸惑っていた様子だった。
「ごめんお母さん。私は両親が大嫌い。あと勘違いされるようだから言うけど……これは私個人の意見だから」
そこには俺たちがよく知っている、強い理子の姿があった――
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