第50話 関東旅行③

席移動も残りわずか。那奈の次に俺の隣に来たのは、恋愛同盟をこの前に結んだことでお馴染みのアキさんです。



「……随分とお楽しみのようで」



 アキは俺の隣に来るなり、少し笑いながら俺に話しかけてくる。めちゃくちゃ嫌味っぽく言うの、なんか面白い。

 別にいいじゃねぇか旅行ぐらい楽しんでも! そもそも、旅行がチャンスとか色々言ってたのはアキの方じゃねぇか!



「どこぞの誰かさんのおかげで楽しんでるかもな」


「なら私としては嬉しい限りですが。あっ、先ほど少しにやけている楽さんの撮影に成功しました。これをどう使っていきましょうか」


「そんなもん使うなっ! というか……いつ撮ったんだよ」


「さぁさぁ誰といる時でしょうね?」



 ふとした時に思い出すけど、アキって新も頭が上がらないぐらいの強者なんだよな。という事は……新以上に面倒くさい。自分が良い立場にいるからって、俺を見て楽しみやがって。



「この写真、恋愛同盟のグループにでも投下しておきましょうか」


「すみませんもう調子に乗らないので許してください」


「冗談ですよ。咲良さんに見られたくないからって焦りすぎなのでは?」


「アキの冗談は信用ならねぇんだよなぁ。冗談だと思ったら本当の時もあるし」


「てへっ」



 おいそこの許嫁。可愛い仕草したって俺はそう甘くねぇぞ。うーむ残念美人。

 見た目はめちゃくちゃな清楚美人なのに……話したら度肝を抜かれるやつじゃねぇか。ナンパ撃退とかにはめちゃくちゃ有効なのかもしれないけど。



「楽さん、何か変な事思ってないですか?」


「オモッテナイヨ? 何で刺身って美味しいんだろって考えてた」


「誤魔化し方下手すぎません?」



 アキとは親友の許嫁というこれまた特殊な関係であることと、アキのキャラも相まってこういったふざけながらの会話が多い。何か上手く言葉では言い表せないような特殊で特別で強固な関係で……アキは大事な女友達だ。



「恋愛の件は一旦置いておくとして……理子さんの方は大丈夫ですか? アラくんの方から少し話は聞きましたが」


「新の時のように行くとは思っていないけど、やるしかないからな。理子の助けになりたいし、俺の周りの大切な人は全員幸せになって欲しいから」


「本当に……楽さんは優しい方ですね」



 優しくなんてない。俺にとってはの事だから。


 アキは新の事をずっと見てきたわけだし、自分ではどうしようもないと悔やんでいた時もあったから、アキにとっても何か思う事があるのだろう。俺と唯も幼馴染の関係だけど、それ以上にアキと新は深い関係だ。ずっとそばで見ていたわけだからなぁ。



「まぁ楽さんを色々と弄り倒している私も、今は一応フリーなんですけどね。アラくんからはちゃんと告白されてませんし」


「そういやそうだった。心配しなくても新はできる男だから、アキは気長に待っておけばいいんじゃないか?」


「そうですかね? 許嫁ってだいたい負けヒロインですし、アラくんが他の女の子に乗り換える可能性もあると私はずっと思ってました。そうなったら楽さんも手伝ってくださいね?」


「それは流石に勘弁してくれ。心配しなくても、新はアキの事が何だかんだでちゃんと好きだよ」


「……自分の事は全然なくせに、他の人の事はよく見えてるの腹が立ちますね。アラくんも時々そう言ってましたけど」



 おいこら痛い所を突くな。せっかく励ましてやったのにそんな事言わなくてもいいだろ。一人でしくしく泣いちゃうよ俺。


 まぁ実際人間というか生き物って器用であり不器用であって……自分の事は全然見えてないくせに他人の事になると、悪い癖とか性格や嫌なところとか色々見えちゃうんだよね。自分の事は棚に上げて、他人には色々と思っちゃう人間がこの世界では大多数ではなかろうか。


 そもそも自分の内面も完全に理解できないし、自分の顔も鏡のような道具とかを使わなければ見えない。自分の声にしても完全には理解できない。人生は上手く成り立っている部分もあれば、嫌な事だって良く起きるし、理不尽な事にぶち当たる奴だっている。今回の話にも繋がるが、理子だって苦しめられている一人の人間だ。


 これがまた人生の難しい所であり面白い所であって。ずっと昔から築いてきた文明であり文化であり歴史のもと、誰も真似できない絶妙なバランスで人生というものとこの世界は成り立っている。



「はぁ~人生って難しいよなほんと。そりゃあ本人の努力と環境である程度は変化するんだろうけど……誰でも一回は何かの壁にぶち当たるもんな。病みそうだよ俺は」


「でもその今こそが……幸せなんでしょうね。こうして楽しい事も苦しい事もあって、大切な人と日々を過ごしていく。楽さんはこれからも悩むのでしょうが……悩みに悩んで出した答えは、誰が見ても素晴らしいものになってると思いますよ」


「てか何真面目な話してんだ俺は。これだからアキのキャラってズルいんだよなぁ。抑えるところはしっかりと抑えてきやがって。クローザーかよ」


「ふふ。なら私と付き合ってみますか?」


「そりゃ勘弁」



 親友の許嫁、同盟を結んだ仲、そして親友。

 アキとの関係もどこか心地よくていつの間にか特別なものになっている――



 ◇◇◇



「最後に新かよ。野郎はいらねぇな」


「はい炎上~! 今の多様性の時代に炎上~!」



 最後の席移動では隣に新がやってきた。新横浜駅を後にし、東京駅までもうすぐだ。緊張か興奮か楽しみな気持ちか……色々な原因が混ざって心拍数も上昇する。



「新とはこの前でかなり話したからなぁ。さっきアキとも新について少し話したし」


「おいこら。変な事話してないだろうな」


「べ~つ~にぃ? 新も恋愛とかで悩むんだなって思っただけです~」


「はっ、流石はプレイボーイ。複数の女性と楽しんでいる男は違うぜ」



 俺と新の関係も変わらない。こんな感じでいつも弄り合ってるの、今乗ってる新幹線ぐらい平常運転だよ。

 新は新でアキについては色々と考えてるみたいだし、俺が手伝わなくても大丈夫だろう。新は自慢できる親友だし、やる時はやる強い人間ですからね。



「楽は理子の両親と何話すか決めてんのか?」


「ある程度は。あとはハッタリでも何でもいいから、カバーしてくれると助かる」


「了解。楽には前に助けてもらったから、今度は俺が役に立たないとな」



 実家のような安心感。やっぱ新はこうでないとな。前の少し弱ってる新は珍しかったけど、新はこうして堂々としている方が似合っている。

 一番頼りにしている奴であり、一番の親友だから。




 そして長いようで短く感じた新幹線の移動も終わり、いよいよ東京駅に着く。

 さぁいよいよ本番だ――

 



 ◇◇◇


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