第49話 関東旅行②
二回目の席移動では、俺の隣に唯が来た。このグループは、誰とペアになっても気まずくならないのがポイント高い。こんなに心地よいグループはないぜ。
修学旅行とかの班で一人ハブられる奴もいれば、リーダー格の友達が先に帰って二人きりになった瞬間にめちゃくちゃ気まずくなる……みたいな事もあるし。あれ、本当に残酷ですよね。はっ、学校では既に社会の闇について教えてくれていた!?
「らっくん大丈夫?」
「大丈夫だよ。元気モリモリのコンディション絶好調」
「あ、めちゃくちゃ緊張してる。らっくんも無理はしちゃダメだからね?」
幼馴染の関係だからこそ分かる、お互いの様子。明るく誤魔化してはみたが、唯には通用しなかったみたいだ。やっぱこのグループじゃ隠し事はできないな。
いつも通りの唯の優しさが、俺の心に染みわたりますぜ……。
「新もいるし多少はマシだけど、理子の両親と会うのはマジで緊張してるな」
「だと思った。らっくんは誤魔化して強がっちゃう性格だから」
「確かにそうかもしれん。ネガティブな気持ちもあってか、いい自分を見せたがるのかもしれないな」
「学校で何か発表があるだけでも、らっくんはめちゃくちゃ緊張してたもんね」
小学校の頃から、俺は何かと緊張しいな性格だった。いじめられていた事もあったし、いつの日か周りの目がめちゃくちゃ怖くなっていた。その過去の出来事は今でも俺の心に纏わりついている。
笑われたくないというような気持ちがあって、人前で常に何か言う時はめちゃくちゃ緊張しちゃうんだよなぁ。今も大学の講義でプレゼンテーションみたいな発表がある時は、めちゃくちゃ緊張してしまう。
そんな不安に押しつぶされそうな俺を……昔も今も唯は助けてくれる。
唯は俺の手を握りながら、不安でいっぱいの俺に優しい言葉をかけてくれる。
「らっくんは大丈夫。昔かららっくんは本当は優しくて良い人だから。それに大学で再会してのらっくんも見てきたけど……らっくんは色々な人のために頑張っていて、本当にカッコイイもん」
「唯には昔から頭が上がらないな」
そもそもの話……小学校の時に唯に会っていなければ、俺の人生はもっとつまらないものだったかもしれない。早々に人生に見切りをつけ、ずっと逃げていたかもしれない。唯に出会ったからこそ、こうして今も楽しい時を過ごせている。
「らっくんはいつも私に感謝してくれるけどさ。私だってめちゃくちゃ感謝してるんだからね?」
「分かってるよ。まぁそれ以上に俺は唯に感謝してるけどな?」
「私の方が上だもん!」
久しぶりに再会したからといって、俺と唯の関係は何も変わっていない。
お互いの事を大切に思って、互いに支え合って、こんな風に何でもない会話で楽しんだりして。今も昔も唯は大事な幼馴染であり、親友なのだ。
「私は……らっくんの事を本当に大切に思ってるから。だから……その……いつかさ、私の話を聞いてくれる?」
「そんな別に改めなくても大丈夫だぞ?」
「こっちにはこっちの都合もあるの! はぁ……久しぶりに再会した幼馴染が女たらしになっている件だよほんと」
「ラノベのタイトル風にするな」
「あっ、ラノベと言えば」
それからしばらく、俺と唯はオタクトークで盛り上がった。唯と話す時は、色々なアニメネタを使うことができて嬉しいんだよな。オタク特有の悪い癖でもありますけどね。
あと一つ。何回も言うけど、俺は素直で純粋な人間だから!
◇◇◇
三回目の席移動。今回は那奈が俺の隣にやってきた。
那奈も旅行をかなり楽しんでいる様子……ではなく、どこか俺を見ながら少し怖い表情をしている。
「あーえーと、改めて旅行楽しみだな!」
「そうだね」
「那奈は何か楽しみにしてることあるか?」
「そうだね。そうだねそうだね」
「やばい。那奈が壊れちまった」
那奈がそうだねしか言わなくなっちまったよ。これじゃまるで壊れたロボットじゃねぇか。
ふざけている、というより怒ってる? まぁ心当たりは……めちゃくちゃありますね。
那奈とは昔付き合っていた事もあって、幼馴染の唯や恋愛同盟を結んだアキなんかとはまた違う、かなり特殊な関係だ。
お互いに後悔もあるし、未練が全くないとも言えない。ただ当時は好きとかの感情とかではなく、友達の延長線上のような感じで付き合っていた。
――その何となくだった感情が、今を苦しめている原因なのだろう。
俺にとって、改めて那奈はどういう存在なのだろうか?
「おっといけない。楽に腹が立ちすぎて壊れちゃってた」
「これ皆に言ってるけど俺は」
「少し聞こえてきたから分かってるって。素直で純粋な人間なんでしょ? まぁ完全には否定しないけど、それにしては上手くやってるなぁって」
「返す言葉もございません」
元カノにも見透かされているの。この世の心理すぎてもはや面白い。世の男性は俺の味方になってくれると信じてるぜ! さぁ一緒に戦おう!
俺の場合はちょっと美人な女友達が多いだけだ。まだ恋人もいないしセーフセーフ。別に恋人作ったら遊べないみたいな理由で作ってないわけじゃないからな!? 脳内で渋谷先輩が悪魔として囁いてくるが、そこは無視無視。貴様は視界の奥底で眠っておけぇっ!
「まっ、私は楽がちゃんと選んでくれたら満足だから。あとはもう少し自信を持つことだねぇ」
本当に俺の周りの奴らは優しいというかお人好しというか。ほんとダサい男だよ俺は。
隠して虚勢を張っているのに、皆に見透かされて優しい言葉までかけてもらえて。ちょっとは自分で積極的に考えて動けって話だよな。
「少しずつだけど俺は真剣に色々と考えているよ。ありがたいことに皆に助けられながらな。那奈との関係もそうだけど……いつかハッキリと答えを出すから。まぁ……めちゃくちゃ長くなりそうなんだけど。俺は悩んじゃう体質だし」
「それも楽らしくていいんじゃない? 私はいつまでも待つし……私だって色々と思う事もあるから。お互いに頑張ろう……ってこれはちょっと違うか」
「ここは明るい言葉でいいんじゃないか? でも俺は本当に支えてもらってばっかだよ。だったらその有難いサポートも利用しないとな」
「うわっ、悪い楽が出てきた」
俺が何回もスタートに失敗するから、皆がスタートしやすいように場を整えてくれる。有難く感謝しながらその厚意に甘えよう。
皆は俺よりも何倍も強い。俺なんかとは違って、はっきりと気持ちを伝える事ができるから。
俺だって俺だって俺だって――
そんな輝いている奴に憧れて目を背けて生きてきたけど……俺だって変わりたい。
それに俺には義務がある。皆の気持ちに応えるという義務が、俺にはあるんだ。
「私は心配してないよ。楽だって悩んで失敗する事もあったんだろうけどさ、どうにかなってきたじゃん。楽は何だかんだでやる男だからね」
「これが運命ってやつなのかもな」
「そうだね。私と楽が会ったのも一つの運命。神様には感謝だね」
幼馴染と元カノに移動中に色々と勇気をもらい、優しくされるとは。
ってあれ? 文面だけ見ると凄いクズ男みたいなんだが?
それでは最後にまたこの言葉を。しつこいようですが、勘違いされても困りますからね。
俺って素直で純粋な人間だから!!
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