第39話 新グループ?

アキから色々と話と聞いた後、俺たちは今の現状をどうするか話し合っていた。

 許嫁の関係であるアキが協力してくれるのはありがたいが、これからどうするべきか。

 そのために俺がやる事は一つで、新に寄り添う事。この問題は俺の問題じゃなくて新の問題だ。だから俺が積極的にどうにかしようとするのではなく、新に任せる。



「アラくんは何か目標とかあるんですか?」



 アキが新に問いかける、俺としても一番気になっていた事だ。

 孝さんを納得させるのには、それなりの理由がいる。そしてその理由には、完成度よりも熱量が必要になる。新が何を思い、どうなりたいのか。その事が解決へのキーポイントとなる。



「まず大前提として俺は親父が大嫌いだ。そんな親父みたいにはなりたくないし、普通の人生を送りたいと思っていた。でも変わっていく皆を見て、俺もどうにか変えたいと思って……夢も出来た」


「新の夢って何なんだ?」


 

 理子や渋谷先輩の件と同じように、新も親の事を嫌っている。それで新が反発している……という状況なのだが、新が夢を持っている事には驚いた。

 去年の今頃の新とは全く違う、今の新がいる。本当に出会った時と比べると別人のようで、俺もそんな今の新が好きだ。


 それにしても新の夢って何だろう? 俺はそう疑問に思い、新に直接問いかけた。



「俺さ、出版社で働きたいんだよ。楽のように夢を抱えて、覚悟を決めて挑戦して、生きづらさを感じていて……そんな人を応援したい」


「えっ!?」



 思わず俺は大きい声を出してしまい、新やアキも少しビクッと驚いた様子だった。喫茶店にあまり人がいないのが本当にラッキーだったな……危ない危ない。


 それにしても新が出版社に働きたいと思っていて、作家をサポートする編集者になりたいとは夢に思っていなかった。俺はてっきり、新が俺と同じクリエイターの道か企業して孝さんに対抗するものと思っていたが、俺の予想は大外れのようだ。



「何だよ楽。めちゃくちゃ意外とか、どうせそんな事思ってんだろう?」


「そりゃぁ驚くよ。その線は考えてなかったもん」


「色々考えてさ、俺って本質的にリーダーとかそういうの向いていないんだよ。そんな時にふと今の状況を思い出してさ。楽のサポートしている今の状況、めちゃくちゃいいって思ったんだよ」


「サポートってより、俺からしたら新が引っ張っている感じするけどな」


「楽はネガティブで鈍感だからな。思い返してみろ。俺も手助けはしたが、今の大学生活があるのは間違いなく自分自身でつかみ取った楽の手柄だよ」



 そんな事はないだろ……と俺は思いつつ、改めて過去の事を振り返る。

 渋谷先輩に理子、そして今回の新の件……あれ? 俺って意外と後先考えないタイプなの? とりあえずどうにかしようと思ってるじゃん。俺の悪い癖じゃん。


 まぁ俺一人じゃ絶対に無理だったし、新たちがいたからこそ上手くいったと思うが、親友にここまで言われると照れるな。

 ここ最近の新は本音を言ってくれるというか、いつもの意地悪な新じゃないので調子が狂う。何で親友にまで惑わされてるんだよ俺は。



 新が編集者で俺が作家かぁ。大学を卒業した後も今と変わらないような関係が続いたら、それはとても幸せな事だろうと思う。



「アラくんらしくていいと思います。そ・れ・で……私はどうなるんで・す・か?」



 俺と新が楽しく話していると、一人取り残されていて不服そうなアキが話に入ってくる。

 もし孝さんを納得させることができたとして、この二人の関係はどうなるのか?


 許嫁の関係になった経緯として、家族ぐるみでの関係があったみたいな話をしていたが……孝さんはおそらく何かビジネス的な事を考えていたはずだ。



「なぁ二人とも。許嫁の関係になった理由に、家族の格式みたいなのが理由にあるか?」



 俺が二人に許嫁の関係になった理由を尋ねると、アキが俺の問いに答えてくれる。



「そうですね。実は私の家もかなり格式が高いと言いますか、色々とパイプは持っていると聞いたことはあります。世間的に言えばお金持ちと言える家庭でしょうし、新くんのお父様である孝さんが私たちの家庭を選んだとしても、全然おかしくないと思います」


「そうか。それなら安心した」


「?」



 アキは俺の真意が分かっていないようで、疑問の表情を浮かべていた。


 この事はとして使えるはずと俺は思った。簡単で単純なものだけど、孝さんが思ってる以上にこの二人の関係は強固だし、納得させる材料にはなる。

 そしてあとは、新がアキに対してどのような感情を持っているかだな。



「ぶっちゃけさ、新はアキの事をどう思っている? 許嫁の関係ではあるけど、実際はどう思っているか聞かせて欲しい」


「……」


「知り合い? それとも友達? それとも彼女? 新の本音を聞かせて欲しい」



 新は俺の問いに少し答えたくなさそうだったが、何か決意した様子で話し始める。

 


「俺とアキの関係は少し歪んでいるかもしれないけど、アキは大切な人だとは思ってる。実際、アキは俺の事をずっと大切に考えてくれていたわけだしよ。でも正直、許嫁の関係を嫌に思っている気持ちもあった。好きな人ができたとかじゃなく、単純に親が勝手に決めたことが原因だけどな」


「アラくんありがとう。その言葉が聞けただけでも、私は嬉しいよ」


「アキはこんな俺を好意的に思ってくれている。その好意的な感情がどこまでかは分からないけど、少なくとも今は許嫁の関係について良いと思ってくれている。


「……うん」


「でも俺はまだアキにちゃんと言える権利は持ってないと思う。だからもう少し待って欲しい。親父と話してどんな未来になるかは分からないけど、いつか答えを出すから。俺がそうしたとき、アキの気持ちを聞かせてくれ」



 新は昔の自分を気にしていて、その過去を清算することができたら……気持ちをしっかりと伝えようとしているのかもしれない。

 でもこんなの、もう気持ちを伝えているようなものだ。もはや一種のプロポーズと言える。ラブコメ好きのわい、歓喜しちゃうじゃん。


 まぁ……新らしいか。新も本音とかは恥ずかしがって隠すタイプだし、この一件の出来事で新の事をツンデレヒロインと認識してしまった俺である。

 過去に俺と衝突した告白の件についても、こんな感情があったからこそ……新は突き放していたん「だな。



「でもアキも美人だし、新がダラダラしている間に取られちゃうかもな。それとも俺がさらっていって逃げちゃおうかなぁ~?」

「ふふふ。確かに私がアラくんを待つ理由もないですもんね」



 こんな新は珍しいから、と俺とアキはこの状況を逃すまいと新の事を弄りまくる。

 こういう友達を弄るのが楽しいんだよな。新にはいつも弄られていたし、ここでお釣りが返ってくるぐらい弄ってやらないと。



「この野郎っ! 包み隠さずに本音で言うのが大事なんだろうが! 二人して弄るなっての!」



 いつもの少しおちゃけて冷静な姿と打って変わって、恥ずかしさからか顔も赤くなって動揺している新がまた面白い。あっ、スマホで撮ってて後で皆で楽しも。



「そういえば、楽さんもたくさんの女性と仲良くしながらもお相手はいないと少し聞きました。私でよければ恋愛相談になりますが……私にも手を出すようなクズ男にはならないでくださいね?」


「たーっはっはっは! おい楽! 言われてるぞ!」


「思わぬカウンター!?」




 俺と新とアキ。親友と親友の許嫁という少し特別な関係だけど、この関係も悪くないかもしれないな。

 新の色々な一面を見れて、また一つ親密になったと思えた一日になった。



――親友をどうか助けられますように。

 

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