第40話 新たな世界へ

 新とアキと三人で話し合ったときから少し経ち、今日はいよいよ孝さんと話をすることになった。

 新としても早く決着をつけたいみたいで、迷惑をいつまでもかけられないと言っていた。気にする必要はないとは言ったのだが、新も決意を固めたようだ。



「なぁ新。俺は思うけど、孝さんは意外といい人だと思うぞ?」


「はぁ? あのクソ親父がぁ?」


「あくまでは俺の勘だけどな。理子の時にも色々考えたけど……新の父さんはまだ話す余地がありそうだし」



 俺はこの数日を過ごして考えたが、孝さんが完全な悪者だとは思えなかった。

 もちろん、親のエゴで新の将来を色々と決めてしまった事は悪いと思う。ただ、裏を返せば将来は安泰とも考えられたからだ。


 新が自分の気持ちを話せば、きっとその思いは届くはず。

 ただ新にも孝さんにも色々な思いがあるはずで、どうなるかは分からない。



――それでも俺は親友だから。



 俺はいつまでも新の味方をするだろう。

 親友には、俺以上に幸せになってもらいたいものなのである。頑張れ、新。



 ◇◇◇



 俺と新、そして許嫁であるアキの三人で新の家に来ていた。

 孝さんは少し驚きながらも笑顔で俺たちを迎え、リビングにある大きい机の場所に座るように促す。ご丁寧にお菓子と飲み物まで出してくれるし、しっかりしている人だと改めて思う。



「それで……今日は楽しいお話ができるのかな」


「あぁクソ親父。俺の気持ちを全部ぶつけてやるよ」



 新は今にも殴りかかりそうなぐらい怒っていて、既に臨戦態勢といった感じだ。

 なら俺のすることは……冷静に皆が話せる場を作る事か。



「新も一旦落ち着け。それと……孝さん、今日は本当にありがとうございます」


「楽くん、それは何に対しての感謝かな?」


「全てですよ。話を聞いてくれる事、俺を認めてくれた事、そしてこんな部外者の俺を許してくれた事。孝さんもかなりやり手のようで」



 俺がそう言うと、孝さんもフフッと少し笑う。

 そんな特異な状況に新とアキは少し困惑していたが、俺はスルーして孝さんの方を向いてまた喋り出す。

 が話せる場所を作ってあげないと、このこじれた関係は修復しない。俺がこの数日で考えた推論は、あながち間違っていないと確信できた。



「ここからは俺の想像ですけど、孝さんって自分自身の事があまり好きじゃないと思うんですよね。この数日に色々と考えて、孝さんを完全な悪だとは思えませんでした」


「……というと?」


「最初に会って話した時、孝さんは少し笑っていました。それは俺という存在がいる事を認識したからだと思うんですよね。それで新が飛び出してから、孝さんは自分でどうにかしようとするのではなく、俺に託した。それは自分が好きではなく、俺を認めたから」


「自分が好きではない、っていう要素はどこに?」


「……今、奥さんとは別居中と聞きました。そして息子とは喧嘩中。それに孝さんは優秀な人だから、色々な社会の闇を見てきたのではないかと思っています。そんな自分を嫌になったからこそ、新を自分と同じような道に進めさせたかった」



 孝さんの態度を見て、俺が辿り着いた一つの結論。

 俺が間違って考えていたのは、孝さんが渋谷先輩と同じようなプライドが高い人と思っていたことだった。孝さんは自分に自信なんか持っていない……渋谷先輩と逆だ。



「別居した理由は詳しく知りませんが……おそらく孝さんが原因じゃないんですか?」


「そうだね。妻は何も悪くない。僕が色々とストレスが溜まっていた時に妻と喧嘩して……そこからかな。新が産まれてからは僕も仕事が忙しくて、徐々に仲は険悪になっていった」


「なるほど。だから許嫁の関係を結んだんですね」


「……楽くんの言う通りだよ」



 俺は孝さんが経営者である事から、何かそこに問題があったのではないかと考えていた。

 経営者は大変な職業というのは知っているし、新は母親の事を大切に思っていた。やけに父親である孝さんを新が嫌っていることから、孝さんが別居の原因ではないかと俺は推測していた。

 孝さんの方が資産があるだろうし、孝さんが新の面倒を見るという話になってもおかしくない。それに、家族を崩壊してしまった責任も感じていただろうし。

 

 そういう背景を踏まえると、孝さんの行動は色々と納得がいった。


 許嫁の関係を結んだのも、自分のような失敗をさせないため。アキから聞いた話だと、昔からの家族の付き合いがあったみたいだし、アキと新はかなり仲良くなっていたと思う。

 そんな二人を見て孝さんは動いた。自分が失敗したからこそ、新は失敗しないようにと保険をかけたんだろう。

 実際にこの保険は成功で、アキは変わっていく新を見ても新の事を大切に思っていたし、新も何だかんだでアキの事を大事に思っていた。


 それから、孝さんは中学や高校と変わっていく新を見ていた。

 そこで自分のようになっていく新を見て、自分と同じ道を進ませようとしていた。実際に仕事の面だけなら孝さんは超優秀だし、新も経営者には向いていると思う。



 ただ新は孝さんを嫌っていただろうし、聞く耳を持たなかった。

 だから孝さんは強硬手段を取って、新を何とか納得させた。実際に孝さんの力は強力だと思うし、新が出会った時から色々と諦めていたような雰囲気だったのも納得がいく。

 新も反抗したところで、どうせ父である孝さんの言いなりになるしかないと思っていたから……。



 そんな中、俺という存在を孝さんは認識した。

 許嫁であるアキ以外にも、新の事を大事に思っている友達がいるんだ、とここで孝さんは感じたと思う。


 俺が新に手を差し伸べた時、孝さんは少し嬉しそうだった。新が反抗した時、あえてやってみろと背中を押した。俺がいたから、孝さんも安心して手を出さなかった。

 ここは渋谷先輩の時と同じで、自分で勝手に悪役を演じていた。



「孝さんは、いつか自分を他人に強く否定されたかった。悪役を演じていたのも、俺という存在と変わった新を見て期待したから。孝さんは歪んでしまっていたけど……やっぱり新の父親なんですね」


「新に楽くんという友達がいることを知って……そして二人の様子を見て僕は嬉しかった。新は僕と違って、そこら辺は母親似だったのかな」


「すいません。俺が色々と生意気に言ってしまって」


「いいよ。本当の事だろうし、君がいたから新も変わったんだろう?」


「でも変わろうとしたのは、自分自身です。だから新の話も、ちゃんと聞いてやってくれますか」



 ここで俺は新を見る。新の表情はどこか迷っている表情で、少し悲し気な表情にも見えた。

 新にこの事を言わなかったのは少し申し訳ないと思うが、ここで俺の考えたことを全てを打ち明ける方が、効果があると思っていた。

 まぁ俺の考えがあっている保証もなかったし、孝さん本人の表情と話す言葉で何か感じてくれたはずだ。



「全く、こんな状況でまともに話せるかってんだ。親父……凄いだろ? 俺の親友はよ」



 これで俺の仕事は終わり。

 これで新と孝さんが対等に話せる状況になったし、二人はまた違った関係になるはずだ。



――あとは親友の出番。



 さぁ名前の通りに……新しい道を切り開けよ新。

 


 ◇◇◇



 いつも読んで頂き、本当にありがとうございます!

 何とか40話まで書く事ができました。これからも頑張って書いていくつもりなので、改めてよろしくお願いします!


 レビューや感想もお待ちしております!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る