第36話 クソ野郎!

電車を乗り継いで新の家に到着した俺らは、門の前にあるインターフォンを押した。



「すごっ……新くんの家って、もしかしてお金持ち?」


「俺も詳しくは知らないが、結構な経営者ってのは聞いている」



 俺と唯が新の家について話していると、玄関から新が歩いてきたのが見えた。



「……ってなんで楽と上野さんがいるんだよ!?」


「いや気づくの遅すぎるだろ。ごめん新。俺たち来ちゃったっ! てへっ!」


「可愛くしても無駄だからな」


「その様子を見ると体調は大丈夫そうだな。やっぱ俺の推測通りだ」



 新は気怠そうにしていたが、門の前まできてようやく俺と唯と認識する。どこか迷惑そうな表情を見せながらも、やれやれといった笑顔の表情に変わる。



「それで? 俺の事を心配して二人とも来てくれたのか?」


「当たりまえだのクッキーよ」


「いやクラッカーな。でも楽たちが来ても無駄だ。これは俺たち家族の問題だからな」


「そこを踏み込ませてくれって言ってるんだ。新、無理を承知しないで頼む」


「承知しろ」



 新は自分の家族について、一回も詳しい話をしたことがない。

 俺はその家族関係に何か問題があるのではと思っていたので、俺の考察は当たりみたいだ。



「……楽もある程度は分かってるんだろ。俺の環境はかなり難しいって」


「だろうな。ただ新だけ見捨てるわけにもいかねぇし……俺はお前を一番の親友だと思ってる。昔に色々と喧嘩をしたとき、色々とはぐらかされたのは覚えてるけどな?」


「ちっ。俺が弱気になっているからってペラペラと」



 そうやって三人で話していた時だろうか。

 玄関から出て、こっちに向かっている人物が一人確認できた



「いつまで時間がかかってるんだ……って君たちはまさか新の友達か?」


「こんにちは。新くんのお父さんですね?」



 まだ若さも感じる容姿、そしてチャラ男と言わんばかりのラフな服装。それに……新と容姿が物凄く似ている。俺も会うのは初めてだ。


「ああそうだ。名前は、宿毛すくも たかし。ここで話すのもなんだから、家に入って入って」



 この感じ、昔の新に少し似ている。俺の嫌いな人種だなこりゃ。

 まぁ心配するなよ新。俺が新を助けて、今度こそ真の親友になってやるからな。



 ◇◇◇



 新の家に入った俺と唯は、とてつもなく大きいリビングの方に案内され、ジュースとお菓子まで提供してもらった。

 俺はひねくれものなので勘ぐってしまうが、様子を見る限りではまだ息子のというのに単に喜んでいるだけに見えた。



「どうもすいません。今日はお邪魔じゃなかったですか? 少し予定がありそうな雰囲気でしたもので」


「大丈夫だよ。その予定は些細なもので、僕が簡単に解決させてもらったよ」



 そう孝さんが言ったとき、新の表情が少しゆがんだのが確認できた、

 やっぱそういった類の問題か。ただ今回も簡単にはいかなそうだ。渋谷先輩よりも強敵だろうし、いくら親友といっても俺は部外者。新たちの家族の中には、どうしても深くまでに入りこめない。



「本当は皆で遊ぶ予定を立ててたんですけど……何の予定があったんですか?」


「些細な家族の問題みたいなものだよ。何なら今からでも遊んで来たらどうだい?」


「そんなに気を遣っていただかなくて大丈夫です。今、俺は孝さんの事が気になっているので」


「へぇ?」



 俺と孝さんが探り合いを入れながら話しているのを、唯と新は黙って見守っていた様子だった。唯も新もどうしてもいいのか分からないといった感じで、見守る事しかできないといった感じか。新に至っては、俺に『やめておけ』という視線を常に送っているし。


 ただここで引くわけにはいかない。まずは俺の考えがあっているか、ちゃんと確かめることからだ。



「孝さんって、新を将来どうしたいと思っています?」


「それはどういう事を言いたいのかな?」


「あくまで俺の考えなんですけど、新って自分の夢とか将来の事とか願望とか……自分の事について何も話さないんですよね。それって孝さんの影響なんじゃないですか?」


「ほう。君は……」


「有明 楽です。好きなように呼んでください」



 理子と同じで毒親なのは間違いない。毒親って言っても、親の言い分も少しは理解はしているけどな。ただ押し付けて満足しているのが、俺は違うんじゃないかって思うだけ。

 孝さんはおそらく人生を成功した人だろう。だからこそたちが悪いというか何というか。



「楽くん。僕たちの家庭にも方針というものがあってね。新には僕の会社を継いでもらうといった、決まっている未来があるんだよ」


「それを新は納得していないんじゃないですか?」


「納得はしてなかったけど、僕の必死の説得で快諾してもらったよ。やっぱり新には、僕と同じような道を歩んでほしい」



 必死の説得ねぇ。どうせ親の力で強引に押さえつけただけなくせに、よくもまぁ言ったもんだ。

 ただこれで謎は解けた。新が将来の夢とかを全く語らない理由は、思っても無駄だったから。新は俺と出会った時からこの問題を抱えていて、ずっと自分を押し殺していたんだ。



 お前ってやつは本当に。出会った時から厄介なやつだ。

 俺が強く言ったら、お前は俺を心の底から信頼してくれるか?



「新っっっ! 俺を信じてついてこいっっ! 俺は確かに非力で、どうしようもなく弱い人間かもしれない。だけどよ、お前がいたら俺は少しはマシになれるんだ。だからっ、だからっ!! 昔と同じように俺にぶつかってこい!」


「楽……」


「楽くん、君はただの友達だろう? 僕たちの家庭の問題に首を突っ込まないで貰えるからな?」


「孝さん、首を突っ込むのが僕の得意分野なので。それに友達って言いましたけど、嫌われている今のあなたなら。僕の方が新と親密な関係だと思いますけどね?」



 俺は恵まれている。間違いなく幸運だったし、今のところはただ時の流れに任せて生きてきた。唯のように転校が多かったわけじゃない。理子のように親に色々と縛られたわけじゃない。

 ただ幸せ者の俺だからこそ、皆を助けたいと思うのかもしれない。偉そうに見えるかもしれないけど、これはただの俺のエゴだ。



「あぁもう知らねぇ! 絶対責任とれよこのクソ野郎!」



 新は俺の伸ばした手を取った。新は強く俺の手を握ってくれた。



「しばらくは新くんを奪っていきますね。そして少ししたら……また孝さんと話をさせていただきます」



 そしてすっかり話についていけなくなって固まっていた唯も俺が促して、俺らは新の家を後にする。

 


――俺と新は親友だから。



 絶対に……俺は新を絶対に救ってやる。この強い気持ちだけは、絶対に変わらない。

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