第32話 理子とのGW①

 ゴールデンウィークも後半に差し掛かり、今日は理子と出かける日。

 俺と理子は、とある大型の商業施設に来ていた。



「おぉ~! ここが楽園……私、初めてこういった場所に来れました」


「今は理子も一人暮らししているんだし、どこか行かないのか?」


「一人で行ってもあんまり楽しくないですし、一人だと知らなくて色々不安で」



 理子は厳しい親に制限されていたという背景があって、気になっていった場所がいくつもあるとの事。

 なので今日は理子の要望通りに、カラオケやダーツ、ゲームセンターなど色々楽しめるものがある場所に来たっていう流れだ。



「こういう普通の人間に憧れたんですよね。楽先輩も分かります?」


「あーそういうのあったな。カラオケとか行くのが一種のステータスみたいなところもあったし」



 俺は見ての通りの奥手な人間なので、ああいった大人数で遊ぶというのは苦手だ。

 親友ならまだしも、あまり知らない奴らとカラオケとか地獄すぎるんだよなぁ。音痴な上に俺の歌える曲はアニソンばっかだし。あの何とも言えない空気も、一種の環境問題と捉えられますね。



「そもそも俺だけでよかったのか? 同好会のメンバーで来てもよかったんじゃ……」


「私もその方がいいかなぁって思ったんですけど、それだと私だけ不公平になりそうだったので」


「ふ、不公平?」


「こっちの話です。さぁさぁ行きましょう!」



 こうして理子に引っ張れながら、俺たちはまずゲームコーナーへと向かった――



◇◇◇



 ゲームコーナーに来た俺らは、色々なゲームを見て回る。クレーンゲームやアーケードゲーム、メダルゲームなどと多くの種類のゲームがある。



「私、あれやりたいです!」


「おっ、クレーンゲームか。なかなか難しいぞ」



 理子が最初に目を輝かせたのは、お菓子が景品となっているクレーンゲームだ。

 俺も昔はめちゃくちゃクレーンゲームが好きだったし、景品が取れなくて泣いたこともある。いつの日か、自分の技術では買った方が早いと気づくまでは……めちゃくちゃ楽しんでたな。



「こういったお菓子を乱獲する系なら、比較的簡単に遊べるかな。ラッキーな事もまぁまぁ起きるし」


「そ、そうなんですか? じゃあ、まずは楽先輩がお手本見せてくださいよ」


「俺も久しぶりだから、上手くいくとは限らないぞ」



 俺は理子にそう言いながら台にお金を入れる。二本爪の一番スタンダードなもので、景品のスナック駄菓子を何個取れるかというのが、この台の重要なポイントだろう。



「まず奥に行くのは悪手だ。アームに夢を見るのは辞める事。優良な店もたまにあるが、基本どこの店もアームは弱く設定されていると思っていい。こういった景品が安いタイプなら、強く設定されている場合もあるけどな」


「え、こういったゲームって一律じゃないんですか?」


「パチンコとかと一緒だよ。理子も一回やったことあるし、何となくは分かるだろ」


「あー理解です」



 店員さんがサポートしてくれる事や確率でアームが強くなる台、時間をかければ景品を取れるようになっている台など……クレーンゲームも奥深い。

 ちなみに、あまりに酷い店だとアームが全然掴もうとしないってのもある。あれ酷くない? クレーンじゃなくて、ただ景品をなぞってるだけじゃん。



「この台は時間制限がないから、ゆっくりプレイできるな。横からも見たりして……この台の場合だと駄菓子が山になっているところを狙う。この台だと、横移動の次に縦移動だな」



 クレーンゲーム初心者の理子に丁寧に教えながら、サクサクとプレイを進めていく。いつも最後のボタンを押す時は、某主人公のようによろしくお願いしまぁぁぁす! という気持ちになるよね。



「おっ、アームが思ったよりも強く設定されてるな」



 アームの力が思った以上だったこともあり、最初のプレイで駄菓子を三つ獲得することができた。山になっていたところが、上手く落ちてくれたという感じだ、



「おぉ~! 流石パイセン、ぱねぇっす」


「ははは。そう褒めるでない」



 理子は少しボケながら、俺のプレイにパチパチと拍手して褒めたたえてくれる。これがフィギュアとかだと難易度はグンと上がって、俺も偉そうにはできないんだけどな。



「次は理子の番だな。やってみ?」


「た、対戦よろしくお願いします」



 理子は先ほどの俺を真似る形で、緊張しながらも比較的スムーズにプレイを進めていく。



「い、いけぇっ!」



 理子が叫んだと同時に下降したアームは、上手く駄菓子が山になっているところに当たって、ポトリと駄菓子が落ちる。



「あっ、私も取れた!」


「おぉ~おめでとう。理子は二個で俺が三個だから、俺の勝ちだけどな」


「お、大人げない……」



◇◇◇



 ある程度クレーンゲーㇺを遊んだ後、理子はあるものを指した。



「ま、まさかあれは伝説のプリクラでは!?」


「どこら辺が伝説かは分からないが、うんまぁそうだな」


「よく皆が話してたのを聞いてたんですよ。私には縁がなかったですけど」


「あ~確かに女の子はプリクラが好きなイメージあるなぁ。男はこういうの嫌ったりする奴もいるけど」


「分かります。男の子って、基本的に無加工とかナチュラルメイクが好きですもんね」



 ここら辺は感性の違いというか考え方の違いという事だろうか。否定しようとは全く思っていないが、俺はイマイチ苦手なんだよな。イケメンなら強いメンタルでいけるけど、普通の俺ではあんな陽の機械に太刀打ちできない。



「せっかくですし、一枚撮りたいかなって。どうしても嫌ならいいですけど……」


「新とかに絶対見せない、って約束してくれたら……まぁいいけど」


「本当ですか!? 行きましょ行きましょ!」


「もう一度言うけど、絶対に新とかに言うんじゃねぇぞ!」



 結局、他人の気持ちを優先しちゃうのが俺という人間である。

 まぁ思い出としてもいいし、俺が恥ずかしいのを我慢すれば自分の問題は解決する。

 ただこのプリクラが新の手に渡ったら……あとは言わなくても分かるだろう。絶対、めちゃくちゃ弄ってくるに決まっている。



 まだまだ理子との楽しい一日は続いていく――

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