第31話 那奈とのGW②
俺のターンが終わり、次は那奈のターンに移る。
アニメショップを後にした俺らは、少し歩いて近くの商業施設に移動していた。
「那奈は何するんだ?」
「私はね……ウィンドウショッピング! 楽は苦手だと思うけど、少し付き合って!」
「俺の趣味にも付き合ってもらったしな。それぐらい全然だよ」
俺はある程度の買うものを決めてから買い物するタイプなので、正直に言うとウィンドウショッピングは苦手だ。
付き合ってた頃にも、こんな感じですれ違いも起きていたような気がする。ただ今日は俺の買い物にも付き合ってもらったし、俺も少しは成長した。真っ向から否定するのではなく、分かり合おうとすることが大事という事に気付いたんだ。
それにこうやって考え方を変えれば、だんだんと楽しくなってくる。単純な話だが、那奈と話す事とかは楽しいしな。
那奈は軽い足取りで、色々な店を次々と見て回る。アクセサリーや服、靴などの色々な専門店がこの商業施設にはあるため、那奈もとても楽しそうだ。
「このカジュアルな服もいいけど……シンプルな無地の服もいいなぁ……」
「那奈は何か買わないのか?」
「買いたいけど……服とかアクセサリーとかって、そう気軽に買えるものじゃないじゃん? 楽の好きなライトノベルとかだったら、どっちも買う! とか言えるんだけどね」
那奈の言う通り、服やアクセサリーはこだわるほど高価になる。ラノベとかで換算すると、それはそれは恐ろしい。これがオタク特有のオタク算である。アクリルスタンドとか他のグッズで考えても、全キャラ揃えられるじゃん……とか思っちゃうよね。
「俺がここで買ってやる! とか言えたらかっこいいんだけどな」
「そんなに気を遣わなくてもいいよ。楽とこうしているだけで、私は楽しいもん」
「すまねぇ。アニメ化して印税がたくさん入ったら、めちゃくちゃ買ってやるよ」
「……それはそれで嫌な奴かも」
書籍化! アニメ化! コミカライズ化! 映画化! そして様々なグッズ!
ほら見ろ! ライトノベル作家は、めちゃくちゃ夢のある職業だぜ! 今はスマホ一台で書くことができるから、君もどうかな? スマホ一台で丸儲けだぜ!
「何かお探しですか?」
俺と那奈がこうして話していたところに、店員さんが優しく話しかけてくる。出たな、コミュ障トラップ!
「ちょっと色々見ているだけです~! お金に余裕が出来たら、また色々と買いに来ますね」
「ありがとうございます! お二人は恋人同士とかですか?」
「「いっ、いやぁ……」」
俺と那奈が何とも言えない顔で返答すると、ニコニコしていた店員さんも何か察したのか、そそくさと違う方に去っていった。おいこら、職務を全うしろ!
まぁ店員さんを擁護すると、確かにイチャイチャしているカップルに見えなくもない。何なら付き合ってた頃よりも、今の方が那奈とは上手く接することができているし。
「いっそのこと、元恋人関係とか言うべきだったかな?」
「それはまた違う誤解をされそうだ」
俺が、彼女がいるくせにまた元カノに手を出しているような、渋谷先輩みたいなクズ男みたいになっちゃうだろ。
◇◇◇
服をある程度見た後、那奈はアクセサリーを色々と見て回っていた。物欲しそうな様子だったが、アクセサリーともなるとグンと値段がまた上がる。
「ブレスレット、ネックレス、ピアス……」
那奈が見ているショーケースをチラッと俺も見たが、桁が間違えてるんじゃないですか? と言いたくなるような高価なものもあった。いったい何作品のラノベが買えるんだ……
「アクセサリーって、やっぱり良いなぁ」
「アクセサリー好きなのか?」
「好きだよ。アクセサリーつけてるとさ、より可愛くなった気がするんだよね」
「別に今も可愛いんだから、そんなに見た目を気にしなくてもいいんじゃないか?」
「は、はぁ!?」
俺が思った事をそのまま那奈に言うと、那奈は少し怒ったような様子を見せた後、不機嫌そうに髪をクルクルと弄り出す。
流石に、今の発言はデリカシーがなかったかもしれない。女性って常に見た目を気にしているし、見た目に無頓着な俺が言うセリフでもないよな。ここは素直に謝ろう。
「那奈、あのさ」
「……付き合ってた頃はそんな事、言わなかったくせに」
俺の言葉を遮る形で那奈が口を開いた。
ここで俺は、とてつもない勘違いをしていたことに気が付く。俺のデリカシーがないから怒っていたのではなく、付き合ってた頃と全然違う事に怒っていたのだ。
当時の想いも今と同じだが、付き合ってた頃はどこか恥ずかしくて、色々と言えなかった。
今は那奈との関係も変化したことや、唯や高輪先輩に理子といった女性と話すことも増えた。そんな環境が変わったことが相まって、口からポロっと本音が漏れてしまったのだ。
「楽さ、明らかに女性の扱いに慣れてきてるよねぇっ?」
「ま、まぁ付き合ってた頃に比べれば……」
「これは問題だねぇ。渋谷先輩の事も、いよいよネタに出来なくなってくるよ?」
渋谷先輩の掌握する力は凄かったが、俺の力なんてミジンコみたいなものだ。
別に少しぐらい女性に慣れたって、大丈夫なはずに決まっている。
那奈さん、その疑うような目線辞めてください。やましい事はおもぅていません! ほんと、ほんとに本当ですから!
「またこれは裁判にかけるとして……付き合ってた頃に思ってたんだけど、アクセサリーに憧れてたんだよね」
「えっ、そうなのか?」
何かまたサラッと那奈に怖い事を言われた気もするが、そこはスルーする。俺は無実だから! 無実だからきっと大丈夫なはずだから!
「彼氏と彼女でお揃いのアクセサリーつけるの、めちゃくちゃ羨ましかったんだよね。アクセサリーも高くて諦めちゃったけど、本当に憧れだったなぁ」
那奈がそんな事を思っているなんて、当時の俺に言っても絶対信用しないだろうな。那奈は那奈なりに、俺たちの関係を大事に思ってくれていたんだ。
「じゃあつけるか?」
「え?」
「那奈がそこまで思ってくれているなんて、全然知らなくてさ。今は付き合ってもないけど……まぁ親友の証みたいな感じで」
那奈の少し悲しそうな表情が気になった俺は、那奈に今更ながらお揃いのアクセサリーをつけることを提案した。
那奈の表情は明るくなったが、またすぐに暗くなってしまう。
「でもどうするの? アクセサリーは高いし」
「ああ。だから考えた」
俺はお店の近くにあった、ガチャガチャコーナーを指差す。アクセサリーにはどうしても見劣りしてしまうが、キーホルダーなんかも立派なアクセサリ―の一つだ。
「あっ、ガチャガチャ……」
「そうだ。ガチャガチャなら安く済むし、思い出にもなるだろ?」
「もう。これだから楽はズルいんだよ」
そして、那奈が可愛いと言った謎のぷにぷにしているキャラクターのガチャガチャを回し、お互い自分のバックにそのキャラクターのキーホルダーをつける。女性の可愛い、っていう概念は時々分からないが、那奈が喜んでいるなら……まぁいいか。
「私、絶対に大切にする。本当にありがと!」
「おう」
今は恋人関係でもなく、ただの友達の関係に戻った俺と那奈。
昔の後悔を乗り越え、こうして仲直りした今だからこそ、新たに良い関係を築けているのかもしれない――
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