第30話 那奈とのGW①

 ゴールデンウィークも後半に差し掛かろうとしていて、休みの日の時が経つ早さを実感する。はっ、これが休みの日の相対性理論というやつか! もう、こうなりゃ休日を増やすしかないね!


 唯や波瑠先輩と過ごし、今日は那奈との予定が入っている。この俺を順々に流していくシステム、本当に何?


 

 ともかく、今日は那奈と遊ぶ? というわけで、広島の本通りに来ていた。

 広島市内のめちゃくちゃ栄えているところで、様々な商業施設がある。広島で出かけるなら、外せないスポットの一つだろう、

 本通り商店街はいつも人が多く、路面電車でアクセスもしやすい。唯と香川の商店街を少し歩いたが、本通り商店街もめちゃくちゃ強い。

 ふ、ふーん、ま、まぁやるじゃん。俺は地元愛持ってるから、香川を応援するけどな。



「それで那奈。今日はどうするんだよ」



 本通りに着き、広島駅から一緒に行動していた那奈に問いかける。

 今のところ、那奈からは詳細の予定を聞かされていない。



「今日は……お互いの好きな所に行こうってのがテーマ! そうすることで、お互いの好きな事とかを深く知れるでしょ?」


「それは全然いいけど、何でそんなまた急に」


「いつまでもさ、昔の後悔が消えないと気持ち悪いじゃん? だからまた仲直りした今、これをしようって思ったの」


「……なるほど。俺たちが仲違いした理由って、そういった乖離が原因だもんな」



 お互いの価値観や趣味、性格……恋愛関係を結ぶと、よりそういった事が付きまとう。

 何となくで付き合った俺と那奈も、別に恋愛が嫌だったわけではない。恋人ができる事は嬉しかったし、どうしたら上手くいくか、なんてことを、一日中考えた事もある。


 ただ、人間に全く同じ人はいない。考え方や価値観が合わない、なんてのもよくある。

 そういう時に、分かり合おうとパートナーに寄り添う事や、どこかで折れる事も大切だと分かったのは、いつだっただろうか。今の俺も幼稚だが、昔の俺はもっと幼稚だった。



「最初は楽の番ね! 楽の好きなところ、どんとこい!」


「いいのか? 完全に俺の趣味全開になるけど」


「いいよ! その代わり、次は私のターンだけどね!」


◇◇◇



 はい、という事でまずは俺のターン。俺というオタクが来る場所なんて、ほぼ決まっている。



「まずは俺のターンという事で、アニメショップだ。色々と買いたい作品もあったし」



 ああオタク。ああ我が故郷。ああ澄み渡る空――


 いや、まぁそうね? またこいつアニメショップかよって思うよね?

 ち、違うんだ! 常に色々な新作の本やグッズが出るし、フラッと見ることで新たな作品と出会ったりするんだ!

 え、唯と香川に行ったときもアニメショップに寄っただろって? だから言ったろ! 店舗ごとに違いがあってだな……あぁ! また長くなるから、以下略だ!



「ここが楽や唯ちゃんの聖地かぁ……! 私もせっかくだし、何冊か買ってみようかなぁ」


「おっ、それはいいぞ。今度リスト化して、俺のおすすめ作品百選も送ってやるからな」


「楽って、そういうところは凄い計画的だよね。MBTIで言うなら、INTJかINFJっぽい」


「あっ出た。そのYMCAとかいうやつ。俺をそんなもので測れると思うなよぉっ?」


「ヤングマンと混ざってるよ」



 那奈は、アニメ以外の趣味というか、その他の知識は俺と似てるんだよな。流行に敏感だし、色々と幅広く触れるみたいだから、色々と俺がボケられるのが大きい。ツッコミ役って言われるけど、たまには俺もボケたいんです。



 那奈も興味を持ってくれているみたいで、俺は那奈におすすめの作品を紹介しながら、自分の買い物を進めていく。ミステリー系、頭脳戦系、ファンタジー系、ラブコメ系などと、色々なジャンルの作品をおすすめしていく。

 俺みたいにラブコメばっかり読む奴もいれば、異世界系ばかり読むっていう奴もいるから、この世は面白い。おい、笑える。



 自分の好きな事になると、饒舌じょうぜつになるのがオタクというものである。次々と那奈に作品を紹介していき、一つ一つ面白ポイントを語っていく。特に自分の好きな作品は、力が入ってしまうものだ。

 那奈はそんな熱くなっている俺が珍しかったのか、少し動揺しながらも興味津々に聞いていた。

 俺の熱いレビューが刺されば、那奈が購入するという流れになり、ショッピング番組で必死に商品を紹介する人の気持ちが分かった気がする。作者ぐらい熱くなるのが、ファンなのである。



 そんな感じで順調に布教活動を進めていたが、ラブコメゾーンの中盤ぐらいで、那奈が俺に何か言いたそうな視線を向けてくる。



「ど、どうした? この作品は主人公が成長していく過程が……」


「なんかさ、楽がラブコメを紹介するときだけ、やけに力が入っていない?」



 し、しまった! オタク特有の、自分の世界に入ると周りの世界が見えなくなるやーつ!

 ラブコメ好きなのが、よりによって元カノに知られるのは、何だか少し気まずい感じもする。



「……楽はラブコメ好きなの?」


「ま、まぁ。ヒロインとかのキャラもいいし、俺は現実世界の方が読みやすくて親しみやすいし、感動できるストーリーだし」


「じゃあさ、この楽が紹介している作品で、一案好きなヒロインは誰?」


「えっ?」


「だから、誰?」



 那奈は俺が紹介した作品を手に持ちながら、俺に問いかけてくる。その那奈の表情は、何か浮気をした男を問い詰めているような、少し怖い表情だ。俺、別に健全で悪い事してないよな?



「この作品だと、この二巻の表紙でもある、青髪ポニテの子が好きかな……」



 俺は那奈の圧に少し恐れながらも、推しについて話す。



「ふーん……楽は、ショートよりもロングの方が好きなんだ。それに、こういう子が好みなんだね」


「ポニテとか、ロングが好きなのもあるけど、似合ってればどんな髪型でもいいと思うぞ。結局、内面が一番魅力的な子に惹かれたりするし」


「じゃあ、私は? 私の容姿はどう思う?」



 うん、何で今度は那奈の話になるんだ? 那奈なんて、別に容姿は全然気にしなくてもいいだろうに。



「那奈なんか、別に容姿の事なんで気にしなくでいいだろ。めちゃくちゃ美人だし、ショートの髪も似合ってるよ」


「そ、そう? えへへへ……」



 那奈なんか、俺とはぜんぜん釣り合わないぐらいの、めちゃくちゃ美人だからな。でも褒められるのは、やっぱり嬉しいものだろうか。


 こうして俺のターンは終了し、次は那奈のターンだ――

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