第28話 高輪先輩とのGW①

 ゴールデンウィーク真っ只中、今日は高輪先輩との予定が入っている。

 予定の詳細は聞いていないが、唯との香川巡りのような、気軽にどこか出かけるものだろう……と、ついさっきまで思っていた。

 改めて、俺はさっき来た高輪先輩のメッセージを確認する。



『今日の予定なんだけど、私の家に来てくれない? 場所の詳細も送るけど、分からなかったら言って!』



 そしてそのメッセージの後に、場所の詳細のメッセージが何件か送られてきている。

 高輪先輩は一人暮らし中だし、今日は俺だけ誘われてるし……これって、何かの罠じゃないよな?



 恐る恐る、俺は高輪先輩のお宅に向かうのであった――



◇◇◇



 高輪先輩が一人暮らししているマンションに着き、俺は部屋の前のインターフォンを押す。



「高輪先輩ですか? 今着きました」


「あっ。楽くん? 今開けるから、ちょっと待ってね」



 そして鍵が開いた音がして、俺は緊張しながらドアを開ける。

 ドアを開けてまずは靴を脱ごう……うん? 何か少し騒がしくない? それに、なぜか靴も多いような?



「あっ、楽くん! 実はね、私の両親もちょうど広島に来てて! 前に楽くんの事を話したらね、気になったみたいで、一度会ってみたいって事になったの」



 うん? 両親? 高輪先輩の両親? 今、絶対に両親って言ったよね?



「高輪先輩、一ついいですか?」


「うん? いいよ」


「なぁぁぁああぁにしてくれてるんですかぁぁぁあああああぁっ!」



 高輪先輩と二人でも緊張するってのに、何でご両親までいるんですかねえぇぇぇえぇぇえぇえぇえええ? 何で高輪家に俺が挟まっちゃうの?



 そんな俺の大きな叫びを聞いてか、高輪先輩のお母さんとお父さんであろう人物が顔を出してくる。


 高輪先輩のお母さんは美人で、めちゃくちゃ若く見える。遺伝子の力、めちゃくちゃ感じるなぁ。

 一方、高輪先輩のお父さんは凄く厳格そうで、少し怖い。ただその厳格な表情からも、顔が整っている事は分かった。

 高輪家、最強じゃん。そりゃあ、天使が誕生するわけですわ。



「あなたが噂の楽くん? 初めまして。波瑠の母の高輪たかなわ 和子かずこです」

「父の高輪たかなわじゅんだ。娘の波瑠が世話になったみたいで……楽くん、その件は感謝している」



 お母さんはめちゃくちゃ優しい感じだけど、やっぱりお父さんが怖い。何か俺を品定めするような目線で見てるし。全然気持ちが追い付かないよ俺は!



「もうお父さん! 楽くんは繊細なんだから、優しく接してよね!」



 高輪先輩の優しさはめちゃくちゃ助かるけど、そもそもこの状況を設定したの、あなたですよね? 論理的思考おじさんが、僕の脳内で出てきちゃうよ。



「ごめん! 事前に言うと、楽くんは絶対嫌がると思ったの! でもね、お母さんもお父さんも会いたがってたみたいだし、断るわけにもいかなくて……本当は二人の予定だったんだけど」



 俺の表情を見てか、先輩が俺に誠心誠意謝ってくる。

 確かに、事前に言われてたら絶対に断ってる。先輩、俺の事をよく分かってらっしゃる。俺検定、二級合格!



 まぁ二人は二人で、色々と緊張する事もありますけど……あぁお父様! 二人、という単語に反応しないでくださいまし! 顔が怖いですわよ!



「最近、波瑠は本当に楽しそうにしていてね。楽くんの話もよく聞くの。何でも波瑠が変な男に絡まれている事を救ったり、大事な幼馴染を救ったり、一日で千人の男を倒したり、新しい細胞を発見したりしたんでしょ?」



 先輩のお母さんの和子さんが、色々と俺についての事なんかを話し始める。

 先輩を助けた事と渋谷先輩の件はまぁ正解ですけど、尾ひれがついて話が飛躍しすぎてません? どういう人物像なのよ俺は。そんな武闘派でも頭脳派でもないっての。



「俺はただ、たかな……波瑠先輩を助けただけですよ。自分の信念に基づいて、色々と行動しただけです」


「あ、楽くん。私の両親がいるからって、気を遣って名前で呼んだね?」


「だから何でわざわざ言うんですか!」


「別にさ、楽くんも名前で呼んでくれていいよ? 敬語も使わなくていいし」



 あれ、何か先輩のお父様の方から危険な雰囲気が……ねぇ笑って? お母様のように優しい表情になって? そんな般若みたいにならないで? ただ楽しく話しているだけだから!



「……楽くん。娘の波瑠は、不器用で繊細でよく無理をする子だ。よろしく頼む」


「は、はい。ありがとうございます」



 先輩のお父さんの圧に負け、俺は意味が分からない返答をしてしまう。これだと、先輩の彼氏みたいじゃねぇか。何か俺の感謝の言葉が、卑猥にまで感じてきたじゃないですか。



「波瑠。無理はしてないのね? 大学生になってから……」


「お母さんも心配症だなぁ。大丈夫、私はやっていけるから」


「その言葉、ちゃんと信じるからね」




 ――ああ、やっぱり先輩が抱えている問題って、のものか。そりゃ、家族であるお母さんやお父さんも心配するはずだ。


 理子と話したあの時、感じた違和感があった。先輩が、今の有名な自分を苦しんでいるのは事実だろう。ただ、俺は少し見誤っていたんだ。先輩の、を。


 誰にも言ってないを無理やり聞こうとは思わないので、俺はまだ何も気づいていないふりをするが……注意はしとくべきかもしれないな。



「じゃあ、あとは若い子だけて楽しみなさい。年寄りの私と主人は帰るわね」

「……ちゃんと、将来の設計を考えてからするんだぞ」



 お父さん、めちゃくちゃ勘違いしてます。俺たち、全然そんな特別な関係じゃないんです! それに、そんな関係だったとしても、考えもなしにやらないから!!


 そんな感じで色々と言いたい事もあったが、話がややこしくなるので、ここは静かに黙っておこう。

 お父さんの圧で、俺がせんべいのようにプレスされちゃいそうだし。




 こうして先輩のご両親は、俺たちに手を少し振りながら笑顔で帰っていった。間違いなく勘違いしているが、そこら辺は先輩にどうにかしてもらおう。俺から誤解だと言う勇気はない。



「ごめんね。楽くんを見て、ちゃんと判断しないといけないってお父さんが……」


「絶対、恋人とかの特別な関係と勘違いしてますよね? 結婚前のご挨拶じゃないんだから」


「あはは……私が楽くんの事について、色々と話しすぎたかな?」


「話すのはいいですけど、トッピングみたいに話は盛らないでくださいね」



 こうして話が一区切りしたタイミングで、先輩はポンと手を叩き、本来の目的があったんだ、と話し始める。



「実はね、今日は楽くんに私の料理を食べてもらいたいなって。前、料理ができないっていう話になったでしょ?」


「あーだから居酒屋に行ったんですよね」


「そうそう。だから今日は、楽くんに私の手料理を食べてもらいたくって。手料理……といっても、手の込んだものは作れないけど」


「俺からしたらめちゃくちゃありがたいですよ。高輪先輩こそ、俺でいいんですか?」



 俺がそう言うと、先輩はすねた顔をして、分かってないなぁ、と人差し指を立てて左右に振る。



「楽くんだからいーの。それに、もう私の事は名前で呼んでくれないんだ?」



 なっ、いつもの天使モードなところに、小悪魔要素が入っただと!? 何という破壊力、ダメ男製造機と俺が命名しただけあるな。



「分かりましたよ……は、波瑠先輩でいいですか?」


「ふふん、よろしいっ!」



 先輩とはたまたまの出会いから、こんな親密な関係になれた。

 新たちも運命と言えば運命なのだが……先輩は学内の有名人だった分、どこかまだ信じられないような気分だ。


 今の先輩の姿も、過去の事が大きく関係しているんだろうな――

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