第25話 今年は特別

理子とも打ち解けた俺たちは、今日も青春同好会の部室に集まっていた。特に集まって何かをするわけではないのだが……こうして集まって、話すだけでも楽しいものである。


 新はゲーム、唯は読書、高輪先輩と那奈と理子の三人は課題……といった感じだろうか。高輪先輩は余裕がありそうだが、那奈と理子はかなり焦っている様子だ。

 那奈と理子は、鬼のような表情と思い詰めた表情を行ったり来たりしながら、ノートパソコンのキーボードを頑張って打ち続けている。



「那奈と理子……ずいぶん焦ってるけど、どうしたんだ?」



 流石に俺は気になったので、二人に問いかけてみた。

 そうすると二人は俺の方を向いて、どこか呆れたような表情になる。なんだよ……別におかしい事は言ってないだろうが。



「楽先輩! 必修の講義なのに、課題が面倒くさすぎて終わらないんですっ! もう世界の終わりってやつです! だいたい、講義終わりに毎回レポートっておかしくないですか!」

「楽はおかしな人間だから分からないけど、期限との戦いは大変なんだよ!」



 理子と那奈は、どうやら俺の言葉がトリガーになったみたいで、早口でまくしたててくる。

 何で俺が悪いみたいになってるの? 俺は普通の人間なんだけど?



「二人の言っていることが正解だぞ。楽は異常者だからな。何なら、課題が出された当日に提出してたりするし」



 俺たちの話している様子を見て、新がツッコミを入れる。

 えっ、俺が普通じゃないの? 俺が隠れたサイコパスなの?



「課題で大変な話はおいといて……らっくん、そろそろゴールデンウィークだね?」


「もうそんな時期か。どこか遊びに行きたいよなぁ」


「らっくんはさ、帰省とかする?」



 今度は唯が話しかけてきて、話題はゴールデンウィークの話に変わる。

 大学は休日も授業日になったりするのだが、ゴールデンウィークの期間は特別な連休になる形もある。

 今年は、4月30日から5月8日が休みになるといった、まさに最高なゴールデンウィークだ。去年はあまり休みにならず、頑張って大学に行ったのが懐かしい。


 大型連休という事もあって、旅行や帰省する人も多いだろう。俺も、ゴールデンウィークの過ごし方をどうするか、早く決めとかないとな。



「帰省か……春休みも帰省したし、ゴールデンウィークは別に良いかな」


「じゃあ私から、らっくんに一つ提案です! 私、久しぶりに香川に行ってみたいなって思ってるの。別に帰省とか宿泊する感じじゃなくて……フラッと寄ってみる感じで」


「なるほど。香川はある程度近いし、それはいいかも」


「二人で久しぶりに香川を楽しみたいなーって。いいっ?」


「いいよ。準備しとく」



 香川は俺の地元であり、唯と仲良くなった特別な場所でもある。唯も広島に行ってからは、香川にまた行ったことはないみたいだし、学校とかの懐かしい場所に行ってみるのも、なかなか面白いかもしれない。距離もある程度近いので、時間もお金もあまりかからないしな。



「あっ、じゃあこの流れで……楽くん、先輩のお願いも聞いてくれない?」


「どうかしました?」


「私も相談というか……楽くんを一日借りていい?」


「別に断る理由はないですけど、何で俺だけなんですか?」



 俺、いったい何されちゃうの。借りるって何? 俺はそんな人気作品じゃないよ!

 何かこんなくだり、前もなかった? デジャヴ?



「いや、まぁ、その……楽くんなら暇そうだし、良いかなって」


「それは間違いないかもしれない」



 結局、休みに何もできないのが俺という人間である。ゲームとかアニメとかを予定、っていうタイプですからね俺。



「あっ、楽。俺はゴールデンウィークは家族の都合とか色々あるから、俺の事は考えなくていいぞ。あと不公平にならないように、誰かだけを仲間外れにするんじゃねぇぞ?」



 俺の様子を見て、新が自分の事について話してくる。あいつ、普段は全然自分の事は話さないくせに。

 不公平、ってまた意味のよく分からない事を。新の言う事は、だいたい分からねぇからな。


 俺がそう疑問に思っている中、青春同好会の女性陣はウンウンと深く頷いていた。あれっ、分かっていないの俺だけ?



「新先輩、良い事言いますね! ということで、私も楽先輩を一日借ります!」

「私もバイトがない日、楽を借りるね?」



 どうやら理子と那奈にも借りられる事が決定した模様である。別に拒否しようとかは思わないが、何でこんなに借りられるの俺? もう有名映画ぐらい人気じゃん。テレビで放送されても、人気だから借りられちゃう奴じゃん。



 まぁ俺で何か役に立てるのなら、喜んで休日出勤しよう。今年のゴールデンウィークは、去年よりも楽しくなりそうだ。俺、頑張っちゃうぞ。



「でもあれですね。先輩達と仲良くなったし、一日ぐらいは皆で集まりたいなーなんて。あはは……」



 会話が一通り落ち着いた段階で、理子が恥ずかしそうに口を開く。



「それこそさ、俺たちで旅行とかしたら良いんじゃねーの? 楽はどう思う?」


「皆で旅行するのは楽しいだろうけど、人混みとか宿泊代とか考えると、難しいんじゃないのか」



 理子の提案に、新が加えて旅行の案を出してくる。皆で旅行するのは魅力的な案だが、ゴールデンウィークの事を考えると、あまり気分は乗らない。宿泊費とかも高くなっちゃうしな。



「じゃあ、旅行は六月にするか。ゴールデンウィークは、パーティーぐらいにしとこうぜ」


「おい待て。六月に祝日はないぞ」


「たまに休むぐらいはいいだろ。楽の両親だって、そう言うさ」


「まぁ旅行の話は置いておくとして……パーティーってどこでするんだよ?」



 たまに休む、って新は普段から休んでるじゃねぇか。

 とりあえず旅行については後々考えるとして……パーティーか。理子の歓迎会的なものか?


 あれこれ一人で思考を巡らしていると、俺に視線が集まっていることに気が付く。


 あれれ~! 何かおかしいよ~! いつの間にか注目されてる~!



「おい新。なぜ俺に視線が集まっている?」


「楽のところが適任だからだろ。俺とかは一人暮らしじゃないし、何か女性陣のお宅にお邪魔するのもな。人多くて迷惑になっちゃうし」


「俺の一人暮らししてるところも、別に何をしてもいいわけじゃないからな?」


「何もしないって。じゃ、決まりな」



 こうして、俺のゴールデンウィークに多くの予定が追加された。パーティーの件は、何か強引に決められた気がするけども……俺、一応部長なんだってば。


 まぁでも、去年は何もなかったが今年はめちゃくちゃ楽しめそうで、今からでもワクワクしている。これこそ、真のゴールデンウィークってことよ。

 

 

 こんな状況、過去の自分に言っても信じてくれないだろうな――



 俺は今の日常の大切さを感じながら、一人で小さく笑った。


 




 

 



 

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