第24話 一つのエンディングとその先

 俺たちは一通りの会話が終わった後、お腹が空いたという事もあって、色々と注文をして楽しむことに決めた。

 注文した料理を運んできたのはもちろん……この店の看板娘でもある那奈だ。皆さん、この問題が分かったかな? あまりにも簡単すぎましたかね?



「サラダと唐揚げとお刺身と……あとサービスの焼き鳥っ!」



 那奈は俺たちが注文した料理を机に並べつつ、サービスとして焼き鳥も提供してくれる。

 全く、俺の周りは優しい人だらけだ。



「那奈、ありがとな。ずっと俺たちの事、気にしてくれたんだろ?」


「……別にちょっと気になっただけだし。じ、じゃあまたねっ!」



 那奈は俺の指摘が図星だったのが、料理を机の上に置くや否や、さっさと俺たちの席から去ってしまった。

 あいつも何だかんだで、理子の事も心配してたんだな。



「……でも、何で私の悩みが分かったんですか?」


「何となく、俺は人の考えている事が分かるんだよ。表情とか見ていると、意外と分かりやすいし。理子は特に表情に出やすいんじゃないか?」


「ということは、最初から私の顔をジロジロ見ていたということですね? いっぱい楽しめましたか?」


「お前も、俺を変質者扱いするのやめなさい」



 なぜ理子の質問に回答しただけで、俺は変質者扱いされるのか。実に世の中は理不尽である。

 まぁ人の考えている事が分かる、というのはあながち間違いではない。人の反応に怯えながら過ごしてきた俺に身に着いた、最強のスキルである。

 新や渋谷先輩のようなタイプは分かりづらいし、状況によっては全然使えないが、人は意外と嫌な顔や気まずい顔をするので、そこら辺はよく分かる。


 うっ、過去の嫌な思い出がっ! 俺が話しているだけなのに、何か嘲笑うような顔をしていた女子が思い浮かぶ!



「楽くんがどれだけ察したかは分からないけど、私も理子ちゃんについては違和感があったよ。隠している雰囲気って、意外と分かるの」



 俺の後に、高輪先輩が少し笑いながら言葉を付け足してくる、


――今、高輪先輩はその笑い方をするんですね。


 俺はとある違和感を覚えたが、ここでは静かに黙っておくことにした。

 きっと、いつか話してくれるタイミングもあるはずだから。


 ただ、高輪先輩のにあるのは、俺が考えていた問題よりもおそらく根が深い。


 想像以上に深刻な問題なのかもしれないな――



◇◇◇



 週明けである月曜日は、どこか人が少ない。俺としては人が少ない方が良いので、大いに助かりますけどね。そもそも月曜を休んだなら、火曜が憂鬱になるのでは?



 まぁどうでもいい事は、考えないようにしよう。何はともあれ、理子の問題も無事解決した俺は、かなりすっきりとした気持ちで、今日も大学に通っていた。

 高輪先輩は少し引っかかるけど、まだ確証はないので様子を見るつもりだ。結局、青春同好会って不器用な奴らばかりなんだよなっていう事。



 そんな事を考えながら講義室に入ると、激レアモンスターを後ろの方で発見した。サボりマスターの新である。大学にさよならバイバイしたのかと思うほど、講義には来ないんだよなこいつ。


「おっす楽。お疲れさん」


「明日は大雨が降るな……」


「おいこら。俺がそんなに珍しいか」



 何でこいつ、大学生になったんだよ。これで成績も良いのが、実に憎たらしいんだよなぁ。



「まぁまぁ、楽も隣に座りなさんな。君とは一度、お話をしたかったものでね」


「その不穏に登場した新キャラみたいなセリフやめろ。てか話すなら別に、講義が終わった後で良かっただろ?」


「講義という無駄な時間に済ませておいた方が、効率良いだろ? 無駄な時間の有効活用、ってわけ」



 だから何でお前は大学に通ってるんだよ。講義がもう始まったのに教室内がザワザワしていて、諦めているおじいちゃん教授が可哀想だよ。



「で、話ってなんだよ。どうせ新の事だから、理子についてのことなんだろうけど」


「流石は俺の相棒。俺の思考もよく分かってんね。理子ちゃんについては、もう大丈夫そうか?」


「理子はもう大丈夫だよ。というか、理子は名前で呼ぶんだな」


「理子の場合は、名前で呼んでください、って俺にも言ってたしな。他の子は楽よりも関係が浅いし、これでいーの」



 いまいち、新の言う事って分からないんだよな……どうせ本当の事は教えてくれないだろうから、ここでは無視するけど。



「それで、理子について何かあるのか?」


「いやいや。俺も違和感には気づいていたけど、楽のところまでは分かってなかったんだよな。どの辺で気づいたのか知りたくてな」


「ほとんど勘だよ。理子の様子を見ていくうちに違和感に気付いて、あとは理子の言葉を待った」


「流石じゃねぇか部長。部員を助けて、マジカッコイイ~!」



 新は理系脳で、仮説を立てながら考えを詰めていく感じだが……俺はどちらかというと感覚派だ。作戦をある程度立てることもあるが、最終的には流れでゴリ押しするタイプ。上手く行くこともあれば、行かない事も多い。というより、上手く行かない事の方が多い。めちゃくちゃ俺の人生表してるなぁ……



「もうその部長弄りいいって。別に当たり前のことしただけだし、カッコ良くもない」


「そんな事はないと思うぜ? 楽の評判も上がっているみたいだし、女の子が寄ってくる可能性だってある。モテ期は、人生で三回あるって言うぐらいだからな」


「そんなの夢物語だよ。小説を書いている俺からしたら、皆は夢を見過ぎているって話」


「楽はネガティブで面白くねぇなぁ。今は誰かと付き合いたい、っていう気持ちはないのか?」



 そんな新の問いを受け、俺は心の中のリトル楽に自問自答する。あっ、脳内の渋谷先輩はいらないのでお帰りください。

 昔からの仲である唯、学内でも有名で人気の高輪先輩、付き合っていたこともある元カノの那奈、そしてこの前会った理子……俺の周りにはなぜか美女が集まっているが、付き合いたいなんていう気持ちは全く思ってなかった。


 元々俺はネガティブだし、那奈と別れてからは全然恋愛の事も考えてなかったしな……いや、考えないようにしてたのか。

 そんな中、今だったら俺は――



「ま、楽の事だから楽が考えればいいけどさ。自分を卑下するのはやめろよ。自分の気持ちと、もし誰かに好意を寄せられたら……その子の気持ちを汲み取ってやれ」



 選ぶ時が来たら、ちゃんと選んでほしいと前に那奈にも言われた。新といい、那奈といい……本当に俺に向けて意味深な言葉をかけやがって。



 どこか考えないようになっていた俺の素直な気持ち。今だったら、少しまた向き合ってみるのもいいかもしれないな。少しは、自分を大切にしてみてもいいかもしれない。



「俺に好意を寄せてくれる子なんているんかね……そういう新はどうなんだよ?」


「俺が恋愛するように見えるか?」


「ははっ、お前は見えねぇな」


「だろ? 俺はさ」



 新は見る専なのかよ。

 でもまぁ、新がやっぱり一番の親友なんだよな――

 

 

 

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