第23話 似たもの同士

 理子からの話を聞いた俺と高輪先輩は、理子の両親への強い嫌悪感を抱いていた。

 子供は、親にとって都合の良い存在ではない。便利な道具じゃなく、言い表せないほど特別な関係なんだ。理子の両親は、娘を幸せに導いているとでも思ってんのかね。



「俺が最初に理子と会った時の違和感は、そういう事だったんだな。どこか無理している様子がしてたんだよ」


「……バレてましたか。まぁ、私にお酒やパチンコは合いませんでしたね。競馬とかはストーリー性があって、少し面白かったですけど」


「それは某アニメの影響もあるだろうけども……そうやって縛られていた状態から、解放されたかったんだな」


「ほとんど禁止されてましたからね。娯楽と言われるものは、全て禁止されたぐらいでした。だからこそ、今日は本当に楽しかったんですよ」



 他の同級生が色々な事を楽しむ中、理子は何も楽しめなかった。貴重な学生時代をほぼ楽しめなかったのは、理子にとって大きいダメージなはずだ。

 俺だったら、とっくにメンタルをやられていると思う。でも、理子は強い。理子は今もこうして、たくましく生きている。自分の道を、開拓しようとしているんだ。



「理子は強いな」


「ただの強がりですよ。こうしていないと、私もどうにかなっちゃいそうなんで」


「……楽くんも理子ちゃんも、凄い人だと思うよ。それに私を呼んだ理由って、でしょ?」



 俺と理子が話していると、高輪先輩も話に入ってくる。


 高輪先輩の推測は当たっている。俺が高輪先輩を誘った最大の理由……それは高輪先輩も強がっている人間だからだ。



「俺が高輪先輩を誘った最大の理由は、それです。理子は、高輪先輩についてどういうイメージを持つ?」


「え? 清楚で美人で真面目で……めちゃくちゃ有名な先輩ってイメージですけど」


「だよな。でも、本当は少し違うんだぜ?」



 俺はそう言いながら、高輪先輩の方を見て言葉を促す。俺が言うよりも、ここは高輪先輩本人に話してもらった方が良いだろう。

 高輪先輩も俺の意図を理解したようで、理子に向けて話し出す。



「理子ちゃんのイメージはね、半分正解。でも、それは皆が私に思ったイメージ。本来の私はそんなに完璧じゃないし、不器用で色々と出来ない事も多い。皆が設定したペルソナの私を、頑張って演じているだけなんだよ」


「えっ、そ、そうなんですか?」


「いつの間にか、皆が色々と私についてイメージを持っちゃってね……それから色々と怖くなっちゃって、今に至るかな」



 高輪先輩と仲良くなって、俺はイメージよりも明るい人だなと最初に感じた。

 俺の持ってたイメージは、全く見当違いなもので。人気者だから性格が悪いとか、常に完璧で近寄りがたいとか……そんな事は全然なくて。まぁ渋谷先輩の場合は、本当に悪者だったんだけど。


 高輪先輩に持ってるイメージは人それぞれだと思うが、高輪先輩はという話はよく耳にする。

 ただ容姿が美しいだけで、ただ多くの人に好かれているだけで……周りが完璧な高輪先輩を作り上げてしまった。そんな理想の姿を求められる事を、高輪先輩は怖がっていたんだ。



 ただ本当の高輪先輩は、誰にでも優しくて、よく他の人の事を見ていて、いつも力になる言葉をくれる。ついでに言うなら、天使。そう! 高輪先輩は天使なのである!



「皆、それぞれ色々な事を抱えていると思う。だからこそ、私たちと一緒に頑張ろう?」



 高輪先輩は、理子に優しい言葉をかける。

 本当に優しいんだよな、高輪先輩は。というか、部長の俺よりも部長ムーブしていない? 俺なんかよりも、全然優秀な人だと思う。



「何かあったら、部長の楽くんがどうにかしてくれるよ。ねっ、暗躍者さん?」


「暗躍者って言わないでくださいよ。まぁ、俺の出来る限りの事はしますけど」


「楽くん、何だかんでめちゃくちゃ優しいのがズルいんだよなぁ」



 部長やら暗躍者やらの称号、みなさん気に入りすぎでしょ。永遠にこすられそうなだな、このネタ!


 そんな俺と高輪先輩の会話を、理子は笑いながら楽しんでいた。今は表面上の笑顔ではなく、心から笑っているように思えた。

 そして理子は、また一人で語り出す。



「私は自由になりたかった。大学に入って、その後に楽先輩たちと出会って……もしこの青春同好会に入れば、何か変わると思った。そうしたら、そうしたら……」



 理子は少し涙を浮かべて、声を詰まらせる。

 そんな理子を、俺と高輪先輩は優しく待ち続けた。理子が自分の気持ちを吐き出すのを、ただ俺たちは優しく見守っていた。



「楽先輩たちは本当に優しくて、こんな私を助けてくれて、今日もめちゃくちゃ楽しくて。私もっ、私もっ……大学生活を一緒に楽しみたい。楽先輩たちと一緒に……」



「いいに決まってるだろ。だって、もう理子は大事な仲間なんだから」

「理子ちゃんも色々と辛い事もあるだろうけど……私たちと一緒に頑張ろ?」



 理子はもう、俺たちの大事な仲間であり、友達になっている。俺も高輪先輩も、拒否するわけがない。那奈や唯、新だってそう。理子の境遇を知れば、優しく受け入れてくれるだろう。



「あ、ありがとうっございますっ……!」



 理子は泣いていたけれど、とても可愛い笑顔を見せて……俺たちに感謝を伝えた。



 理子はその無邪気に笑っている姿が、一番良い。こんな事は本人に言えないから心の奥底に片付けるけどなっ! 


 これからもそんな理子の笑顔が、たくさん見れると嬉しいなと、俺は密かに思った――

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