第19話 訪問者
那奈や高輪先輩との濃い休日を過ごした俺は、きっちりと週明けの大学にも登校していた。まぁ、大学生は自由に時間割を作れるから、週明けは比較的な楽な講義にしてるけどな? これこそが、大学生の特権である。
講義を終え、新たに発足した青春同好会の部室を覗いてみると、俺以外の全員が揃っていた。出席率百パーセントとは、なんと優秀なのだろうか。俺が受けている講義とは、大違いである。強く生きてくれよ、おじいちゃん教授。
「おーっす楽。俺が部室の鍵、ちゃんと開けといたぞ」
「サンキュー……って、新は何の動画見てるんだ?」
「ああこれ? パチンコとかスロットの動画見てた。有名なアニメ作品が台になっているのもあるし、大負けしてる人を見るのは気持ちいいしな」
「性格が悪い部分が出てるなぁ」
そういえば……と俺は昨日の事を思い出す。少し気になる後輩と出会ったことを、新や唯にも話してみるか。
そう思って口を開こうとすると、部室の扉がゆっくりと開いた。俺たちは全員揃っているので、誰が来たのかと扉の方に注目する。部室に来た人物は――
「あ~いたいた。やっほ~です先輩。改めて、一年の神田 理子です」
この前に会った、不思議な後輩だった。
◇◇◇
俺は、新と唯にこの前の居酒屋であった事を説明し、理子になぜ部室に来たのかと質問した。
「別にお金貸して欲しい、とか変な理由じゃないですよ? 今日来たのは、私もこの青春同好会に入りたいと思ったからです。この前出会ったのも、何かの縁かと思いまして」
「楽、あの子怪しくない? 私、何か危険な匂いがするんだけど」
「先輩も、何か怪しいような気がしてるなぁ」
「らっくんが連れてくる人は、何かしら抱えてる!」
突然来た理子に、青春同好会の女性陣は納得していないような雰囲気だ。那奈と高輪先輩も、この前会った理子には少し悪い印象を持っているだろう。唯の言っている事は、ちょっとめちゃくちゃだけど……
俺、疫病神か何かだと思われてる? 確かに、色々とあったけどさ。
「俺は別にいいと思うけどな。ま、部長の楽が最終的に判断するさ」
女性陣とは対照的に、新は入部を認める姿勢だった。というか、そういや俺が部長でしたね……
俺は、この前直接的に会ってないとはいえ、理子の入部を認める姿勢をとった新の考えが分からず、新に質問する。
「新が理子の入部を認めようと思った理由は何だ?」
「別に、物は試しじゃね? って思っただけ。根が悪い子には見えねぇし、問題が起きたら辞めさせたらいいだけだろ」
疑いの目線から入らず、まずは試してみろ、か。至極真っ当な意見だし、俺も理子が悪い子には見えていない。
もしかしたら、唯が言うように本当に何か抱えてるのかもしれないし。そうなったら、少し笑えないけどな。俺、本当に疫病神みたいじゃん。
「ここは新の意見を採用して、理子の入部を認めるよ。俺たちは既に仲が良いグループで、理子も気まずいだろうけど、気軽に接してくれ」
「本当ですか? 先輩、これからもよろしくお願いしますね?」
「前も言ったけど、同い年だから気を遣わなくてもいいのに」
「芸能の世界みたいなものですよ。一応は後輩なんですから、こういった喋り方の方が楽なんです」
新の意見も参考にしながら、俺は理子の入部を認めた。理子が悪い人には見えないし、前の唯のようにどこか隠しているような雰囲気を感じたからだ。
「楽がまた女の子と仲良くしようとしてる。いくら元カノとはいえ、悲しいよ」
「先輩も、所詮は遊びの存在なんだね」
「らっくん、もう私から目移りしたのっ?」
別に女遊びをするつもりなんて全くないが、マジで渋谷先輩みたいになってきたな……新がいるからまだ助かっているけど、新がいなかったら美人な女の子たちを従えてる、ただのキモい男になってたな。
それにしても、こんなに文句言われる? 新だって、彼女いないじゃねぇか。
「あはは~楽先輩はモテモテですねぇ。今度、楽単の講義教えてくださいよ。過去問とか教科書もあれば、私にくれませんか?」
「自分自身の事じゃないし、そこは別にいいけども」
うーむ、やっぱり溢れ出るクズ大学生の匂い。酒とギャンブルにハマり、先輩に過去問や教科書を求めるって、もう役満確定だと思うんだよな。国士無双、大三元、四暗刻単騎っ!
「理子は、どうしてこの青春同好会に入ろうと思ったんだ? 何かの縁、って言ってたけどさ。サークルとかって無理に入らなくてもいいじゃん。学年も違うわけだし……」
「楽、俺もそれについては気になってた。こんな仲良しサークルに、わざわざ一人で入ろうとは思わねぇよな。運命とかだけが理由なら、全然信用はできないな。パチンコの継続率ぐらい、信用できねぇ」
俺が理子に質問したことに、新も乗っかってくる。俺はパチンコに詳しくないから、新の言ってる継続率やら、演出や設定の事は全く分からないけど。同じように、新も理子の入部理由については疑問だったのか。
「うーん……これも挑戦というか、ここなら楽しい大学生活が送れるかと思いまして。そういう楽先輩こそ、悪い大学生にはならないんですか?」
「その人なりの楽しさがある事は理解しているが、なろうとは思わないな。俺の場合は両親に助けてもらってるし、留年なんかしたらシャレにならないからな」
「楽先輩は恵まれていて、しっかりとここまで生きてきたんですね。めちゃくちゃ幸せ者じゃないですか」
「何だよ急に。恵まれてるな、とは常に思ってるけど」
入部理由を答えた理子だったが、どこかその回答もハッキリしたものではなかった。それに、どこか俺の事を羨ましがる? ような事を言ったのも引っかかる。もしかすると、家庭環境とかに今の理子の変な違和感の原因が隠れているのかもしれない。
「理子は、恵まれてないのか?」
「どうでしょうね。楽しさとかの感情は、もう分からなくなっちゃいましたけど」
「……大丈夫なのか?」
「別に大丈夫ですよ。じゃ、今日のところはこれで、また暇なときに、私も部室に寄らせていただきますね」
理子はそう言いながら、部室を後にした。一瞬見た理子の表情は、どこか怒りのような強い感情を含んでいたような気がして、俺もその一瞬見えた表情については、怖くて理子に質問することはできなかった。
「あの子、絶対何か抱えてるな。楽、ここは部長の出番じゃねーの?」
「新に言われなくても、もう分かってるよ。放っておけない主義だからな、俺は」
放っておくことや、分からないふりを続けることだって出来る。特に最近は、空気を読むみたいな事も広く浸透し、他人に干渉する人も少し減ったのではないかと思う、
でも、俺は放っておくことはできない。そんな見て見ぬふりみたいなことをするのは、気持ち悪い。
理子だって、大事な青春同好会の一員になったんだ、今度は部長として、俺はやれる事を全うするさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます