第18話 クズ大学生?
那奈と一緒に、俺と高輪先輩は、飲み潰れている、と言っていた広山大生の子の席まで向かっていた。
正直、あまり乗り気じゃないんだよなぁ……大学生で酒を覚え、バカみたいに飲んで、結局多方面に迷惑をかける。こんなクズのような大学生、少し嫌いなんだよなぁ。
大学生活が充実してそうな感じは少し憧れたけど、自分は凄いでしょ? みたいなマウントを取る奴は腹が立つし、そもそも人に迷惑をかけるのは良くない。
「ここ! もう飲み放題の時間も過ぎてるし、迷惑になっちゃうからさ。楽と波瑠先輩も少し手伝ってくださいっ!」
「へいへい。まぁ同じ大学だし、どんな奴か分かるかもしれないしな」
俺がそう言いながら個室の扉を開けると、飲み潰れている子が見えた。
ただ俺の予想とは違い、酔いつぶれている子は一人だった。俺はてっきり、どこぞのバカサークルが飲み会を開き、迷惑をかけていると思っていたんだけどな。告発して、サークルを潰してやろうと思ってたのに。
個室だし、一人で酔いつぶれたのか……? と疑問に思いつつ、俺と高輪先輩は散乱している物をまとめていく。おそらく酔っぱらったか何かで、持ってきた荷物も気にせずに暴れたりしたのではなかろうか。
「楽くん、酔いつぶれている子を見てみて?」
高輪先輩に肩を叩かれ、言われた通りに酔いつぶれた子を見てみる。
机に突っ伏して寝ているので、顔はよく見えないが、ショートカットの女の子というのは確認できた。
「ねっ? 私のフラグ通り、女の子だったでしょ?」
高輪先輩はどこでドヤってるんですか。そこ、自信満々にする場面じゃないですよ。ドヤ顔の高輪先輩も、めちゃくちゃ破壊力はありますけどね?
「楽、そこら辺に学生証らしきものが落ちてない?」
「あ、本当じゃん……って、大学一年!?」
荷物をまとめている中で、那奈に言われて周辺を見てみると、酔いつぶれている子の学生証を発見した。
学籍番号で学年が分かるようになっているため、その子の学生番号を確認してみると、一年生に振り分けられている番号だった。
これってよくある、大学生の未成年飲酒案件では……? と、俺は那奈の方を見る。
「あ、あれ? たぶん一人だから、ね、年齢確認は誰かがしてると思うんだけど?」
那奈は慌てた様子で、どうしようどうしようとパニックになっていた。
未成年飲酒の場合、バレてしまうと店側も何か制裁を受ける可能性がある。詳しい事情は分からないが、店の信用を失ってしまうなどの損失もあるだろう。
那奈にも気の毒だし、ここはどうにかしてバレないようにするか……と思っていると、酔いつぶれていた女の子が急に起きて立ち上がった。
どうしたら良いのか分からずに固まっていた俺たちを見てか、その女の子は少し笑いながら口を開いた。
「あ~大丈夫ですよ。私、浪人してるんで。誕生日もこの前だったので、正真正銘のニ十歳です」
「それは良かったけど……君はどうして一人で酔いつぶれたの?」
俺はその子にストレートに質問した。
とりあえず未成年飲酒の問題は大丈夫だったので、俺たちは一安心したが……どうにも一人で酔いつぶれていたというのが、俺は気になっていた。
「というか、学生証も見られたので言いますけど……私は、
「お、おう。そ、それで、理子はどうして一人で良いつぶれていたんだ?」
「私にも色々あるんですよ。浪人を経験して、髪も少し茶色に染めて、ファッションして。今日は仕送りをパチンコに使っちゃったので、ヤケ酒ってやつです。ボロ負けです」
何だろう、この溢れ出るクズ大学生の匂いは。パチンコに負けてるのに、ここでお酒を飲んでいる場合では絶対ないと思うんですけど。
それにさっき見た、高校時代の写真が使われている学生証とは、どこか別人のような雰囲気を感じた。少し茶色に染めた髪、眼鏡からコンタクトに変わっている、前髪が短くなっている……など、俗にいう大学デビューというものかもしれない。
「理子は、今は一人暮らしなのか?」
「まぁそうですね。でも大丈夫ですよ。まだ少し貯金はあるし、食費とかはいくらでも節約できるので、まだ全然生きていけます」
「学生証の雰囲気と全然違うのは、大学生になったから?」
「初対面の女の子にそれ聞きます? まぁ、大学生デビューってやつですよ。分かってたと思いますけど」
大学生デビューという単語に、少し高輪先輩が反応したように思ったが、たぶん俺の勘違いだろうか。
それにしても、理子から感じるこの変な違和感は何なんだろう。普通に考えれば、典型的な大学生のように思えるが、どこかこんな事をする子のように思えなかった。
「というか、私ばっかり質問攻めされてズルくないですか? そっちも自己紹介してくださいよ。流石に高輪先輩は知ってますけど……高輪先輩がいる、ってことは同じ広山大生の人たちですか?」
理子の言う事は至極真っ当な意見だし、俺たちの素性を明かしていないのもフェアではないので、俺たちは理子に自己紹介をすることにした。
「理子の言う通り、全員広山大生だよ。高輪先輩は知ってると思うから省略するけど、俺が有明 楽。この店員の子が、秋葉 那奈だ。高輪先輩は三年で、俺と那奈は二年だな」
「全員先輩だったんですか。それはそれは失礼しました」
「俺と那奈は現役だし、敬語は使わなくてもいいぞ?」
「いや、敬語の方が何かと便利なので。このままでいいです。一応、先輩後輩の関係ですしね」
そこは頑なに譲らないんだな……どこか真面目なところも、あるのかもしれない。
「あっ、有明 楽ってあの有明 楽ですか? 渋谷先輩を倒した暗躍者で話題の!」
理子が俺の名前を聞いて何か思い出したのか、俺の顔をまじまじと見つめてくる。
え、俺ってそんな有名になっているの? 那奈と高輪先輩の方を見ると、二人とも苦笑いをしながら
「ある事ない事広まってね。新くんの影響もあって、楽の知名度は上がってるよ」
「先輩たちの中でも、楽くんは話題になってるね」
今の現状を話してくれる。新が余計な事を言わずに、全部一人で解決したようにしてくれればよかったたんじゃないか? あいつの事だから、変な気を利かせてくれたんだろうけど。
「まさか、有名な暗躍者さんとまで会えるとは。今日はついていないかな、と思いましたけど、最後の最後にラッキーでした。それじゃ」
理子は席を立ち、俺たちに別れの挨拶を言った後、俺たちがまとめた荷物と伝票を持って、レジの方へ向かっていった。酔いは少しマシになったのか、ちゃんと歩けていたので、そこについては心配ないが……
「何だか急に過ぎ去って、まるで嵐みたいな子だったね。何はともあれ、楽も波瑠先輩もありがと」
那奈は俺たちに感謝を言って、また居酒屋の仕事の方に戻っていった。そしてまた、高輪先輩と二人きりになったタイミングで、高輪先輩が静かに話しかけてきた。
「楽くんどう思う?」
「え、あの子についてですか? ま、平気そうならいいんじゃないですかね」
少し違和感は感じたが、これといっておかしいという点もなかった。渋谷先輩の件もあって、俺も考えすぎてしまう悪い癖がついたのかもしれない。
理子のクズ大学生っぷりは、流石に擁護できないかもだけど。
「それも気になるかもだけど、私が一番気になっているのは、食べ放題の時間がどうなってるかかなぁぁぁぁあ……」
「あ、そっちですか。さっき、那奈が調整してくれる、って言ってましたよ。サービスで、ドリンクも一杯無料にしてくれるみたいです。協力したお礼ってやつですね」
「ほとんど何もしてないけどね……でも、それなら問題なし!」
高輪先輩、ずっとこの事気にしてたんですね。流石、天使のような存在なだけある。高輪先輩の可愛いところをまた一つ、見ることができた俺であった。
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