第17話 定期イベント?

 那奈とカフェに行った次の日、俺は買い物をするためにスーパーに出かけていた。

 那奈とのカフェでのお話し会? は過去を清算して、これからも仲良くしていく中で、かなり良かったと思う。那奈にも色々と言葉をかけてもらったし、単純に話すのは楽しかった。


 その思い出を心で楽しみながら、買うものを次々とカゴに入れていく。自炊も全然しないので、買うものは冷凍食品とかが多い。レトルトカレーやインスタントラーメンも料理と定義してくれるなら、俺も料理男子なんだけどな。

 で、でもあれだから! たまには野菜炒めとか、肉とか魚とか焼いて食べてるから!


 そうしてカゴに商品を入れていく中で、この前に那奈に言われたことを思い出す。


『だから、楽もいつか選ぶときが来たら……ちゃんと選んでほしいの。皆、真剣だから』



 いやいやまさかな……? 俺にがあるわけないし。この可能性はない、って前に思ったよな? これが俗にいう弱者男性、ってやつなんですかね。妄想ばっかりしちゃうのは、悪い癖ですね。



「あれ、もしかして楽くん?」



 またネガティブな考えに陥っていると、後ろの方から誰かに名前を呼ばれた気がした。

 いやいや、幻聴まで聴こえてきたのか俺は? あんな可愛い声で呼ばれるイベントなんて、俺なんかに起きるわけじゃないですか。一応、まぁ振りかえって見てみますけどね? どうせ、誰もいないですよ。



「あっ、やっぱり楽くんだ。やっほ~!」


「た、高輪先輩!」



 何という事でしょう。振りかえってみると、とても美しい天使様がご降臨されているではないですか。もはや太陽ぐらい輝いているじゃん。虫眼鏡で見たら危険なやつじゃん。



「楽くんとは、買い物でよく会うよね。私も一人暮らししてるから、買い物も自分でしないといけないもんね。これも何かの巡り合わせかな……えへへ」



 やっぱり、ナチュラルに男性キラーなんだよなぁ。何人が屍になっちゃったのだろう。

 というか、高輪先輩はちゃんと一人暮らしで本当に生活できてるのか? まぁ、俺も言えるようなもんじゃないけど。



「高輪先輩も買い物ですか?」


「そうそう。いつの間にか、冷蔵庫がすっからかんになっててね。今日、買い物に来たってわけ」


「そこら辺は相変わらずなんすね……」


「それよりさ、また二人で食べに行かない?」


「え?」



 これ、いったいどういうイベントなんですか? 定期化しちゃうんですかこれ? このスーパーが何か拠点かなんかですか?



◇◇◇



 買い物を済ませた後、夕方にいつもの大学から近い居酒屋に、俺と高輪先輩は再度集合していた。



「まさか、また高輪先輩と食事することになるとは……」


「最近は、唯ちゃんや那奈ちゃんの事もあって疲れたでしょ? だからさ、今日はリラックスするといいよ。それに、何か私だけ置いてかれてる気がするし!」


「置いてかれてる、ってどういう事ですか。別に、高輪先輩も大事に思ってますよ」


「本当かなぁ? ま、今日はゆっくり楽しも?」



 俺、高輪先輩に何か悪い事したかなぁ……? と少し不安に思いつつ、居酒屋の扉を開ける。今日は混んでいる日らしく、店員さんも忙しそうだなぁと思っていると、忙しそうにしている那奈も発見した。あいつ、今日はシフト入ってたのか。



「いらっしゃいませ……って楽と高輪先輩!? ど、ど、どうして?」


「ごめん那奈ちゃん。今日は、楽くんを借りてくね?」



 俺たちに気付いた那奈に、高輪先輩は少し勝ち誇ったような表情で、俺の腕を持って予約した席に向かっていく。

 なんで、しれっと俺の腕持ってるんですか。それに、那奈にマウント取る必要ありました? あと、借りるってレンタルビデオじゃないんですから俺。俺って、どういう存在なん? 色々とツッコみどころがあるんですが、何が正解なんですかねぇ。



 色々と思考がグルグル回りつつも席に座り、俺と高輪先輩が何品か注文すると、案の定、那奈が注文した料理を持ってきた。

 昨日のような楽しい表情はどこに消えたのか、今日の那奈は少し殺気立っている。



「あれ、那奈さん? 何か機嫌が悪くないですか?」 


「お客様のお間違いではないでしょうか? 連日、女の子と楽しくしていていいご身分ですね」


「怖い怖い怖い! 高輪先輩とたまたま会って、また食べに来ただけだから」


「また? 前にも、私がいないところで何かやってたの?」



 言葉には力がこもっているのに、完璧な店員スマイルを見せている那奈が、コントラストになっててめちゃくちゃ怖いんですけど。この場から逃げたしたいんだけど、今からでも入れる保険はありますか?



「ごめんね那奈ちゃん。今日は、私の番にさせてくれない?」


「波瑠先輩が言うならしょうがないですけど……楽、くれぐれも変な事しないようにね?」


「だから、皆は俺を何だと思ってるんだ」



 君たちの世界の中に、俺ってそんな極悪人みたいに映ってるの? 

 というか、しれっと那奈が高輪先輩の事を名前呼びしているし……いつの間に仲良くなったのあなたたち。


 高輪先輩のサポート? もあって、鬼のような那奈も何とか去ってくれた。仕事中だから、俺たちとずっと話していたら話していたで、問題なんだろうけど。



「あははっ。楽くんも女の子を侍らすようになってきて、悪い男になってきたね? ネクスト渋谷先輩だ」


「不名誉な称号すぎる。俺はそんな悪い男になりませんから!」


「本当? その言葉信じるからね? 楽くんは、真っ当な恋愛するんだよ?」



 いや過保護なお母さんか。高輪先輩に言われなくても、俺は真面目ですから! 絶対に、渋谷先輩みたいなクズ人間にはならないですから!

 那奈も高輪先輩も、俺の恋愛事情に踏み込み過ぎじゃありません? そもそも、俺が恋愛できる可能性も低いと思うんですが。



「楽くんと付き合う子は、誰なんだろうぁ。はっ! もしかしたら、私たちが知らない子かも! その場合はテストが必要だなぁ」


「テストって何ですか。娘を大事にしてるお父さんじゃないんですから」



 今度は、こんな奴に娘はやらん! と言う厳格なお父さんみたいに腕を組まれましても。高輪先輩は大事な人ですけど、ただの先輩でしょうが。


 俺が色々と高輪先輩にツッコみながら、三十分ぐらい話した時だった。俺たちの席に、鬼気迫るような表情の那奈が走ってきた。



「怖い怖い怖い! 俺は何もしてないってば!」


 那奈の勤務時間が終わったか何かで、俺を追求するために那奈が戻ってきてしまった……と、俺は思ったが、那奈はどこか助けを求めているような、困った表情で



「助けて! 私たちと同じ、広山大の子が酔いつぶれてるの!」


「は、はい?」



 俺は那奈からの恐怖から解放されて、少しホッとしつつも、那奈が俺の予想と大きく外れた事を言ったのもあって、全く状況がつかめなかった。

 高輪先輩も少し驚いていたが、俺とは対照的にすぐ状況を理解したようで、なぜかウンウンと頷いている。



「また、楽くんが手中に収める女の子が登場したのかな? さっき、フラグ建てちゃったしなぁ」


「女の子かもしれませんけど、俺は手中に収めませんからね? 唯や那奈や高輪先輩も、手中に収めているなんて思ってないですからね?」



 あれ、俺ってこんなツッコミ気質だったの? 気が付いたら、何かめちゃくちゃツッコんでない?

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